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132 厄介な移住者

「あのですねぇ……以前にも言ったと思うんですが……」


 俺は目の前にいる人に語り掛ける。

 できるだけ穏便に、目を合わせないようにして。


「いったい何がいけないって言うんだい?

 メスがオスをかっさらうのは当然じゃないか」


 腕組みをする筋肉ムキムキのグラマラスなお姉さん。背中には立派な茶色い羽が生えている。鷲っぽい感じの羽だ。


 ひたいに大きな絆創膏を貼っている。

 怪我でもしたのかね。


「それはあなたたち一族の話でしょう?

 世間一般での常識ではダメなんです。

 それに……いくら何でもさらいすぎでしょう?

 いったい何人誘拐したんですか?」

「10人から先は覚えてないな」

「……でしょうね」


 目の前には大勢のケモショタたち。

 彼らはおびえ切った表情で身を震わせている。


 俺は翼人族のキャンプに来ている。


 彼らの移住を魔王に承認させ、正式にゼノの国民として迎え入れることになった。


 居住地は俺が買い与えた郊外の土地で、良い感じの小高い丘になっている。ゴツゴツした岩場なので誰も欲しがらない。

 その為、格安で購入することができた。


 翼人族を迎え入れたはいいが問題はその先にあった。彼らはオスをよそからさらう習性があるらしく、領内の獣人族のショタを手当たり次第に誘拐したのだ。


 放っておくことはできず、俺はすぐさま誘拐されたショタの解放に赴いた。


 そして、愕然。


 あまりに被害者の数が多すぎる。その数、ざっと100人以上。


「いくらなんでもやりすぎでしょう。

 街では子供が集団失踪したと、騒ぎになっています。

 こんなことをするようでは……」

「定住は許可出来ないと?」

「ええ、その通りですよ」

「はぁ……たくっ」


 面倒くさそうに顔をそむける族長。

 自分たちが悪いことをしたとは思っていないようだ。


「ご理解いただけませんか?」

「アンタたちの習わしに従ったら、

 私たちの血が絶えてしまうよ。

 私らにはねぇ、子孫を残す務めがあるんだ。

 優秀なオスを手に入れるには、

 手当たり次第に子供をさらって集めるしかない」

「他にも方法があるでしょう!

 どうして子供なんですか⁉

 大人の男じゃダメなんですか?」

「……大人ならさらっても良いのか?」


 いや、良くないが。


 翼人族はオスをさらうことでしか異性にアプローチできないようだ。ずっとそうしてきた人たちなので、直ぐには生き方を変えられないのも分かる。


「ダメです」

「じゃぁ、私たちにどうしろと?」

「それは……」


 普通に恋愛するのはダメなんですかね。

 そもそも、そう言う発想がないのだろう。説得するのは骨が折れそうだ。


「ユージさまぁ!」


 トゥエがやって来た。


「申し訳ないであります。

 自分では皆を説得しきれませんでした」


 そう言って謝罪するトゥエ。

 彼女は俺の言うことをある程度理解しているようだ。


「いや、君のせいではない。

 俺にも説明を怠った落ち度がある。

 今後は控えてくれると助かる」

「でも……」

「何か問題でもあるのか?」

「オスがいないと、一族の女たちは不満を募らせ、

 何をするか分からないであります。

 皆の不満を解消する方法を考えて欲しいであります」

「ううむ……」


 翼人族はよほど欲求不満らしい。


 彼女たちの不満を解消しない限り、同じことが繰り返されるだろう。何かいい方法はないだろうか。


「私からも頼むよ。

 オスの安定的な確保は一族にとっての死活問題だ。

 なんとかしてくれないと困る」


 族長は膝をついて頭を下げる。


「お母さん……きっと大丈夫であります。

 ユージさまがきっと何とかしてくれるであります」


 トゥエは母の肩に手を乗せる。


 俺が話していたのは族長のトゥナ。

 トゥエの母親だ。


 何とかするって言ってもなぁ。どうすれば良いんだろう。


 オスが欲しかったら普通に恋愛する他あるまい。強制的に連れ帰って監禁するのは、どう考えても間違っている。


 ずっとそうしてきた人たちを満足させるのに何が必要なのだろうか。俺には分からんなぁ。


「とにかく、今日は子供たちを連れて帰ります。

 今後は自重して頂きたい」

「オスの確保については?」

「それは今後、相談を続けると言うことで……。

 今はまだ結論を出せそうにありません」

「出来るだけ早く頼むよ、ユージとやら。

 私たちはあんまり気が長くないんだ」

「ええ……分かっています」


 何もしなかったら、また子供をさらうだろうな。

 彼女たちの不満が爆発する前に対策を考えないといけない。


「トゥエ、子供たちの誘導を頼む」

「分かりましたであります!」


 トゥエは素直に従ってくれた。


 この子も、この前やらかしているからな。

 一応警戒はしておいた方がいいだろう。


 俺は子供たちを連れて丘から降り、街へと向かう。


 帰れると分かると子供たちは落ち着いた。

 中には遠足気分で楽しんでいる子までいた。


「ユージさま、この度は大変なご迷惑を。

 言い訳のしようもありません……」


 歩く子供たちを見守っていると一人の翼人族が話しかけて来た。ヒョロヒョロとした頼りない体つきで、幸が薄そうな雰囲気の男性だった。


「アナタは?」

「トゥエの父、サンラドです。

 私も説得したのですがトゥナは聞く耳を持ちませんでした。

 族長に代わり、謝罪いたします」


 そう言ってサンラドは頭を下げる。

 頭頂部が禿げ上がっていた。


「もう少し、アナタがしっかりしていれば、

 こんなことにはならなかったと思いますがね」


 俺は少し強い口調で言った。

 彼は彼で苦労しているのだろうが関係ない。


 族長であるトゥナの暴走は夫である彼の責任でもある。


「返す言葉もございません……」


 サンラドは苦笑いして頭をかく。どうも頼りない。


 翼人族はメスばかりが強くなって、オスはひ弱で頼りなく育つらしい。どういう遺伝子をしているのだろうか。


 それと……もう一つ気になることが。群れの中には一人も一つ目がいないのだ。


 彼らはサイクロプスの住むシナヤマの国に住んでいた。子供たちをさらっていたと聞くので彼らとも交わっていたと思われる。


 にもかかわらず一つ目が一人もいないのは、単に翼人族の遺伝子が強いからか。それとも別の理由があるからか。

 なんとも不可解である。


「ユージさまぁ! 行きますよぉ!」

「ああ……」


 トゥエが手を振っている。

 彼女も大人になったらトゥナのようになるのか。


 今からちょっと不安だ。

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