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131 空白期間

 そのリザードマンには見覚えがあった。


「自分はヴァルゴ・ペルルソンと言うッス!」


 背筋を伸ばすリザードマン。

 ヴァルゴと名乗った彼の顔立ちは、俺が知っているある人物とよく似ていた。


「君は……テルルさんの息子か?」

「その通りッス! 自分はテルルの長男ッス!」


 やっぱり。

 どうりで似ていると思った。


 テルルとは俺を幹部に推薦したリザードマンのことだ。


 獣人が支配するこの国で唯一他の種族で幹部を務めていたテルルは、俺の働きを認めて幹部候補に推薦してくれた。


 彼がいなければ今の地位についていなかったし、仲間を集めて一緒に働くこともなかっただろう。

 俺にとっては恩人である。


「いやぁ、その立派な顔立ち!

 お父さんとそっくりじゃないかっ!

 息子がいるとは聞いていたけど……。

 いやぁ、本当に……なんというか……」

「お褒めに預かり、光栄に思うッス!

 父の名前を汚さないよう、頑張るッス!」


 直立不動で胸を張るヴァルゴ。

 なかなか優秀な感じがする。


 まぁ、テルルさんの息子だからな。

 無能であるはずがない。


「おい、ユージ。面接は良いのか?」


 ノインに言われ、面接中であることを思い出す。


 知り合いの息子が来たからと言って、なれなれしく絡むのはダメだろう。


 俺は着席を促し、質問を始める。


 彼の受け答えは完璧だった。何を問われても、明確に答える。その姿は自信に満ち溢れており、素晴らしいの一言だった。


 もうこの人で良いんじゃないかな。そう思いかけていたところ……ある人物から鋭いツッコミが入った。


「アナタの経歴を確認したのですけれど……。

 空白の期間がありましたの。

 この間、何をしていたのか説明して頂けますの?」


 エイネリが書類を片手に問うと、ヴァルゴはビクンと身体を震わせた。


「そっ……それは……」


 急にしどろもどろになるヴァルゴ。

 あんまり聞かれたくなかったらしい。


「それと……フォロンドロンで仕官していたようですけど、

 一年で職を辞して国を出ているですの。

 いったい何が原因だったですの?」

「それは……色々あって……」

「その色々を教えて欲しいですの。

 詳しく話せない事情でもありますの?」

「じっ……自分は……ッス」


 酸欠を起こした金魚のように口をパクパクするヴァルゴ。

 ……大丈夫なのだろうか?


「実は……その……仕事をクビになったッス」

「クビ? どうしてですの?」

「色々あったッス」

「だーかーらー!

 その色々を教えて欲しいと言ってるですの。

 あなたは何をやらかしてクビになったですの?」

「それは……その……ッス」


 答えたくないのか、目を泳がせるヴァルゴ。

 だんだん雲行きが怪しくなってきた。


「自分は……自分はぁ……うわああああん!」

「え? ちょ⁉」


 彼はいきなり席を立ち、泣きながら退出してしまった。空白期間について尋ねられたのが、そんなに嫌だったのか……。


「はぁ……いったいなんですの?

 気になることを聞いただけなのに、

 急に泣き出してしまいましたの。

 あの人は失格ですの」


 エイネリは頬杖をついてそう言った。


 きちんと説明してくれれば良かったんだけどなぁ。

 過去の失敗なんて気にしないんだが。


 どんな経歴があったとしても、過去と向き合えているのなら問題はない。誰しもあやまちをおかすことはある。

 重要なのはその経験をどう次に生かすかだ。同じ失敗を繰り返さなければ良い。


 テルルには世話になったし、彼を採用することで恩を返せると思った。しかし、当の本人があれでは……。


「はぁ……これでまたふりだしね。

 ちょっといい感じだと思ったんだけどなぁ」


 サナトはそう言ってため息をつく。


「昔のことを知られたくなかったから、

 あんなふうに取り乱したんじゃないのかなぁ?」


 フェルは首をかしげる。


「そんなに自分の過去を知られるのが嫌なのか?

 俺にはよく分からねぇなぁ」


 ノインは両手を頭の後ろで組んで、椅子に背中をもたれかけた。


 ヴァルゴの過去については本人から聞いてみないと分からないだろう。彼を採用するかどうかはおいておき、何があったのか確かめる必要がある。


「ささっ、残りもちゃっちゃと済ませるですの!」


 手をぱんぱんと叩いてエイネリが言う。


 俺としてはもう少しヴァルゴのことで話がしたかったのだが、そう悠長なことを言ってはいられまい。

 面接を待っている人はまだ他にもいるのだ。


「では次の人……え?」


 入室を促すと三人の人物が同時に部屋へ入ってきた。


 一人はリッチ。服装は黒いボロボロのローブ。


 一人はデュラハン。これまたボロボロの甲冑を着て、自分の頭を脇に抱えている。


 一人は黒い礼装を身に着けたヴァンパイア。この人だけは服がきちんとしていた。


「あのっ……ひとりずつ……」


 俺が声をかけると……。


「「「ユージさまぁ! 我々をお助け下さいっ!」」」


 三人揃って土下座するアンデッドたち。

 急にどうした?


「あの……どうしたのですか?

 なんで土下座なんか……」

「これには深い、わけがありまして……。

 先ずは我々の素性をお聞きください」

「我々は名の知れたアンデッド。

 かつては人間界において、

 輝かしい功績を上げていました」

「しかし、奴が現れたせいでもう滅茶苦茶。

 ちり芥がごとく蹴散らされ……」


 三人はそれぞれ順番に、俺たちのことなんかお構いなしに自分たちが置かれた状況を訴え始める。


 曰く、彼らは元々人間の領域に住んでおり、つつましく悪行を働いていた。


 リッチは邪神をあがめる教団を結成し、長いこと地下で活動していた。一般人を手下のアンデッドに誘拐させて洗脳。着実に信者を増やして勢力を広げていった。


 デュラハンは手下の下級アンデッドを引き連れ、街や村を襲って好き放題に暴れていた。被害はとどまることを知らず、彼の名は瞬く間に知れ渡る。


 ヴァンパイアは由緒正しい家柄の生まれで、古城をねぐらにして地道に悪行を重ねていた。夜中に街や村へ飛んで行っては、生娘を誘拐。生き血をすすって日々の糧としたと言う。


 どいつもこいつもろくな事してねぇな。

 アンデッドなんて屑ばっかりだ。


 そんな感じで悪行を働いていたのだが、背中に白い羽をはやした天使が勇者として彼らの前に立ちはだかる。


 天使はアンデッドを消滅させる力を持っていて、その力を前になすすべもなく蹴散らされた三人。組織も住み慣れた我が家も、全てを失う。


 天使から逃れて人間の領域を脱出した彼らは、俺の噂を聞きつけてゼノまでやって来た。

 ……というわけらしい。


「どうかユージさまのお力で、我々を幹部に!」

「我らが幹部になれば、ゼノの支配権を得たも同然!」

「共にこの国を支配し、アナタの名を知らしめましょう!」


 とまぁ、こんな感じで、好き勝手言いやがる。

 こいつらは俺を利用してゼノを好き勝手に改造するつもりらしい。


 無論、俺にそんなことをするつもりは無い。


「はい、ありがとうございました。

 結果は追ってお知らせしますので、ご退出下さい」

「ユージさまっ⁉」

「今ここで決断してください!」

「何を迷っているのです⁉

 我々とともに……」

「あー! もう、うっさいなぁ!」


 俺はきれた。


「いいか? よく聞け!

 俺はなぁ、死体が嫌いなんだよ!

 なんでこの国を死体ランドにしなくちゃならんのだ!

 お前らを幹部にするつもりは無い!

 とっとと帰れっ!」


 俺が怒鳴ると三人は……。


「ふんっ、スケルトン風情が調子に乗りおって……」

「貴様のような輩を幹部に迎えるなど、ゼノも落ちたな」

「こんな国、こっちから願い下げだっ!」


 三人は態度を豹変させ、部屋から出て行った。


 本当にしょうもない連中だったな。

 あんなのを幹部にしたら大変なことになる。


「はぁ、アンデッドなんて碌な奴がいないですの」


 エイネリが言った。

 ツッコミ待ちなのかな?


「奴ら、気になることを言っていたな。

 アンデッドを消し去る天使の勇者とか。

 そいつが現れたらまずいんじゃないか?」


 ノインが言う。その通りだな。


 天使の勇者なんてのが存在するとは知らなかった。

 人間の領域でのみ活動しているからなのか、魔族の間では全く知られていない。


 どうやらアンデッドを専門に狩る勇者のようだ。ゼノで話題にならないのも当然だろう。


 俺が遭遇したらまずいことになるが、この国においては脅威になりえない。獣人からしたら羽の生えただけの人間だからな。


 胸騒ぎがする……。


 その存在が何か引き起こしそうな気がしてならない。

 なにも起こらなければいいのだが……。

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