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130 面接

「はい、じゃぁ次のひとー」


 俺が呼びかけると扉を開けてハイエナの獣人が入ってきた。


 部屋には長い机が置いてあり、その中央に俺。

 右隣にはサナト、左隣にはノイン。

 サナトの隣にフェル。

 ノインの隣にはエイネリが並んで座っている。


 机の前には一脚のいすが置いてあり、そこにハイエナの獣人が着席した。


「ではまず、お名前と経歴を……」

「はい! 私は……」


 俺が尋ねると獣人は自分の経歴を話し始めた。

 それからいくつか質問をして人柄なんかをみる。


「お疲れさまでした。

 結果は後日お知らせします」

「はい! ありがとうございました!」


 獣人はきびきびとした動作で出て行った。


「はぁ……」


 俺はため息をついた。

 肺は無いので気分だけ味わう。


「どうだ、良い人材はいたか?」


 俺は四人に尋ねる。


「どいつもこいつも、パッとしねぇな。

 まるで示し合わせたみたいに同じことを言いやがる。

 なんで皆して自分を潤滑油に例えるんだ?」


 ノインは首をかしげる。


「はぁ……こんなのやる意味があるのかしら。

 私たちの中から幹部を決めた方が良いんじゃないの?」

「じゃぁ、サナトさんがやって下さいよ」

「嫌よ。アンタがやりなさい、フェル」

「ええっ……」


 幹部の役割を押し付け合うサナトとフェル。


 俺たちは今、幹部を決めるための面接を行っている。


 シロが暴走した事件の際にマリアンヌとその一味が幹部を殺害した。魔王軍の幹部の席には5つの空白ができてしまった。


 会議で話し合った結果、クロコドが3人。俺が2人。

 それぞれ後任を指名することとなった。


 俺はサナトやノインに幹部入りの提案をしたが、ことごとく断られてしまった。仕方がないので、面接をして決めることにしたのだ。


「もういっそのこと、ユージさまが軍を動かしたらどうですか?

 アナタがその気になれば、軍隊の二つぐらい簡単に……」


 サナトはそう言うが、俺は戦術に明るくない。

 軍の指揮とか、部隊の指示とか、そう言うの専門にやってくれる奴が必要だ。


 あーあ。

 孔明とかハンニバルとか島津とか、都合よく俺の仲間になってくれねぇかなぁ。アンデッド状態でも良いからさぁ。


 誰か有能な奴を誘拐してきて無理やりアンデッドにするって手もありだな。人間だろうが、魔族だろうが、死んでしまえば一緒だ。

 俺と一緒に仲良く死体ライフを送ろう。


 案外、スケルトンって悪くないぞ。

 腹も減らんし、眠くもならない。

 24時間働ける。


 最高じゃないか。


「俺には無理だな。別の奴に頼もう」

「どうしてそう弱気になりますかねぇ。

 アナタは私たちのリーダーなんですよ?

 もっと自信を持ってもらわないと……」


 サナトはそう言うが、俺にだって出来ないことはある。


 軍隊を動かすなんて、俺にとっては未知の領域。

 バイトリーダー的に仕事をこなすのとは違う。


 それに、俺ってそこまで有能じゃない。

 細かい微調整なんかは得意なんだが……。大規模な集団を動かして、刻々と変化する状況に対応するなんて、とてもできそうにない。


 何より、プレッシャーがヤバい。下手をこけば大勢の人間が犠牲になるのだ。ストレスでダメになりそう。


 こういうのが得意な奴って頭のねじが何本も外れてるイメージがある。明らかに偏見ではあるのだが……。

 普通の神経の持ち主だったら、このプレッシャーには耐えられないだろう。


 会社経営者にサイコパスが多いと聞くが、ストレスに耐性が無いと続かないからかもしれない。

他人の人生の面倒を見るのって大変だよな。生き死にまで左右するとなると、なおさら。


「あのなぁ……サナト。

 俺を何でも出来る超人みたいに言うなよ。

 ただのひ弱なスケルトンなんだぞ。

 俺にできることなんて、自分の腕を飛ばすか、

 巻き付いて足止めするくらいだ。

 獣人たちを指揮するなんて、とても……」

「だからって、別の誰かに任せるんですか?

 優秀な人材が集まらなかったら、どうするんです?」

「それは……」


 もしも適任が見つからなかったらどうしよう。

 そこまで考えてないんだよなぁ。


 クロコドに土下座して俺に割いてもらった枠を返上するか?

 それだけは流石にしたくないなぁ。魔王の心証も損ねるだろうし。


「どいつもこいつも、

 出世して大金を貰うことしか頭にねぇ。

 みーんな目が金になってやがる。

 そもそも獣人を幹部にするのが間違ってるのかもな。

 アイツらの脳みそは戦うか、戦わないか。

 勝つか、負けるか。殺すか、殺されるか。

 常に二択しかねぇ」


 ノインはうんざりしたように言った。


「だったら、アンタが幹部になればいいじゃない」


 サナトが言うとノインは……。


「うるせぇな……俺は幹部なんてガラじゃねぇんだよ。

 そもそも軍の指揮なんて、俺には分からねぇ。

 せいぜい、分隊長くらいが関の山だ。

 そう言うアンタはどうなんだ?

 上手くやれそうな気もするが……」

「冗談。あり得ないわ。

 私の本分はあくまで魔法。

 人の動かし方なんてサッパリよ。

 こういうのは専門の教育を受けた人がやればいいのよ。

 例えば、士官学校で教師をしているエイネリとか」


 急に話を振られたエイネリは……。


「わたくしは教育を担当していますけど、

 自分で軍を動かす自信なんてありませんの」

「ふぅん、アンタにしてはやけに弱気じゃない。

 教え子たちはどうなの?

 ちょっとは使える奴が育ったんじゃ……」

「もう全員、面接に来ましたの」

「……え?」


 一同、沈黙する。


「ちょっと待ってよ。

 もう全員、面接を済ませたって言うの?

 いつ?」

「さっきのハイエナの獣人で最後ですの」

「ちょっと待って……。

 じゃぁ、あいつらが皆、同じような受け答えをしたのは……」

「……てへ」


 自分のおでこを小突いて、

 舌を出しながらウィンクするエイネリ。


「「「「お前のせいかー!!!」」」」


 これには一同、総ツッコミ。

 貴重な時間を無駄にしてしまった。


「本当にやれやれだわ、エイネリ!

 アンタの教え子は、アンタに言われた通り、

 テンプレ的な受け答えしかしなかった!

 優秀かどうかも分からなかったじゃない!

 責任取って頂戴! 責任!」

「そんなこと言われても困りますの。

 わたくしは、わたくしの教え子に、

 良かれと思ってアドバイスしただけですの」

「そのせいで時間を無駄にしたでしょ!

 全部、全部、アンタが悪い!

 バカ! アホ! ストーカー!」

「むきいいいいい! なんですの⁉

 わたくしが何をしたって言うですの⁉

 そんな言い方、あんまりですの!」


 エイネリとサナトは俺とノインを挟んで喧嘩を始めた。


 こうなることが分かっていたので、あえて席を離したのだが……無駄だったな。


「失礼するッス!」


 突然、部屋に一人のリザードマンが入ってきた。

 ずっと待たされてしびれを切らしたのだろう。


「え? あれ……もしかして……」

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