社畜は二度死ぬ！ ～最弱アンデッドと化した俺は獣人魔王に仕える参謀として、脳筋底辺国家を最強覇権国家へと導く！～

第二章 不死王の出奔

１２８ 嫌われ者の勇者君

「だーかーら！　何度も言ってるだろ！

　もうすぐあいつらが攻めてくるんだよ！」

　マティスは大声で呼びかける。

　将軍たちは面倒くさそうに話を聞き、半分くらいは居眠りをしている。誰も彼の話に耳を傾けない。

「本当にゼノが攻めてくると？

　その根拠は何処にあると言うのかね？」

　腕組みをして席に着く白髭の将軍の一人が尋ねる。

「根拠ならある！　俺がこの目でたしかめた！

　奴らは首都に戦力を集結させてるんだ。

　今までにないくらいの規模でな」

「君の報告を聞いただけでは信じるに値しない。

　他の勇者たちはどう思っているのかね？」

「それは……」

　他の勇者。

　魔族の領域に潜入していた彼らは、サタニタスの討伐に向かい玉砕したと聞く。今はどこにいるのかも分からない。

　唯一の生き残りであるマリアンヌは別の国にいる。彼女がここに現れて証言してくれることはない。

「確か君は、みすみす切り札を敵の手に渡し、

　仲間たちから顰蹙《ひんしゅく》を買ったそうだね？

　そんな君が何を言っても説得力がないのだよ。

　それに……ねぇ」

　白髭の将軍は含み笑いをする。

　彼が他の将軍たちに目を向けると、皆つられて笑い始めた。

「幹部の首を一つも上げられず、

　手ぶらで逃げ帰ってくるとは……。

　マリアンヌとはえらい違いだ」

「所詮は庶民の出の下級勇者。

　大した血も引いていないくせに良く言う。

　血統が全てなのだよ、血統が」

「貴様を勇者に任命した協会の判断は間違いだ。

　他の誰かを代わりに任命すべきだと思うがね」

　口々にマティスを罵る将軍たち。

　彼らは侮蔑の視線を向ける。

　何を言っても無駄だろう。

　そう思ったマティスは説得を諦めた。

「自分の国が亡びるかもしれないって言うのに、

　何もしないで死んでいくっていうんだな。

　集団自殺が望みなら俺は何にも言わねぇ。

　好きにしろよ、馬鹿ども」

　マティスがそう言ってため息をつくと、白髭の将軍が言った。

「言っておくが、マティス。

　アルタニルは君が思うほど軟弱ではないのだ。

　過去、ゼノとの戦争は三回とも我々が勝利している。

　仮にもし彼らが攻めて来たとしても、

　同じ結果に終わることだろう」

「ジミニ将軍、本当にそう思ってるのか？」

　ジミニと呼ばれた白髭の将軍は、自信たっぷりな顔で口元の髭を指先でなぞる。

「ああ、もちろんだとも」

　彼がそう言うと、他の将軍たちはうんうんと頷く。

「ゼノにはあのクソ骨野郎がいる。

　今回も前回までと同じ結果に終わるとは思えねぇ」

「例のスケルトンのことか。

　アレの存在なら把握している。

　だが……たった一人優秀な参謀がいたところで、

　結果は何も変わらんよ」

「奴は一人じゃねぇ。

　何人もの部下を従えたリーダーだ。

　あいつが現れてから、ゼノは変わった。

　この国が変わったみたいにな」

「くははっははっはは！」

　大げさに笑うジミニ。

「何がおかしい？」

「君はゼノにとても詳しいと見える。

　さぞかし長い時間を過ごしていたのだろう。

　中継地点でしかない、あの国で！」

「けっ、別に好きで留まってたわけじゃねぇよ」

「負け惜しみは止めておけ！

　余計に自分が情けなくなるだけであろう！

　わっはっはっは！」

　ジミニがそう言って笑うと、会場にいた者たちは次々と笑い出した。

　マティスは彼らの笑い声を背中で聞き流し、会議室を後にする。

「あのっ！　クソ馬鹿どもがっ！」

　マティスは感情を爆発させて、近くにあった椅子を蹴り飛ばす。

　彼は仲間たちが待機していた部屋へ戻ってきた。

　そこにはアリサ、イルヴァ、ダクトがいる。

「物に当たるのは良くないって言ってるじゃん。

　落ち着きなよ、マティス」

　アリサが彼をいさめる。

「しかたねーだろ！

　あいつら、揃って俺を馬鹿にするんだぞ⁉

　折角人が忠告してやってるのによぉ！」

「それでも怒っちゃだめ。

　怒っても何も変わらないよ」

「ちっ……くそっ、くそっ、くそぅ！」

　イライラしながら髪の毛をむしるマティス。

　彼の怒りのボルテージは頂点に達している。

「本当にゼノが攻めて来たら、

　アルタニルの連中はどうするつもりなんだろうなぁ？

　何の準備もしないで戦ったら、

　大きな被害が出るだろうに」

　ダクトが言う。

「連中はそもそも戦争が起きると思ってねぇ。

　万が一戦いが始まっても簡単に勝てると思い込んでる。

　ゼノと事を構えるのは今回が初めてじゃないからな」

「しかし、マティスよ。

　前回の戦争からは大分時が経っている。

　今回も同じようにうまくいくとは……」

「それは俺も同意見だ。

　けど、アルタニルの将軍共はそう思ってねぇ。

　連中はゼノが変わってないと信じてやがる。

　今のあの国は今までとは……」

「違うね、まったく」

　イルヴァが言った。

「イルヴァ、お前はどう思う？

　ゼノとアルタニルが戦ったら、

　どっちが勝つ？」

「そんなの私に聞かれても分からないよぉ。

　でも、たっくさーん人が死ぬだろうね。

　沢山、沢山、人が死んで、

　皆がこんなはずじゃないのにって思うんだよ」

「だな……」

　戦争が起これば、相当数の人間が死ぬ。

　非戦闘員の農民や町人も巻き込まれるだろう。

「もうアルタニルなんて放っておけばいいよ。

　何人死んでも関係ない、私たちには」

「そうは言うけどよぉ、イルヴァ。

　勇者が民衆を見捨てろって言うのか？」

「ふふふ、柄にもなく勇者らしいこと言ってぇ」

　くすくすと笑うイルヴァを、マティスはうんざりしたように見つめる。

「……悪いかよ？」

「悪くないよ。むしろ、全然オッケー！

　今のマティス君はカッコいい！」

「たまにお前が良く分からなくなる。

　頭の中どうなってるんだ？」

「どうもこうも、普通だよー」

　イルヴァと話しても何も変わらない。

　そう思ったマティスは、話をまとめに入る。

「アルタニルが動かねぇ以上、

　俺たちだけで何とかするしかねぇ。

　今のうちにゼノと戦争になった時の備えをしよう」

「備えるって、何を？

　私たちだけで戦える相手じゃないよ」

　アリサが言う。

「そうだな……。

　他の勇者にも声をかけてみるか。

　もしかしたら協力してくれる奴が……」

「クスクス。協力してくれる勇者？

　人望がないマティスに力を貸してくれる人が、

　勇者の中にいるかなぁ？」

　イルヴァが笑いながら言うと、マティスは実に嫌な気分になった。

　彼と良好な関係にある勇者は少ない。

　他の勇者たちは派閥を作り、同じ思想を持った者たちで協力しあっている。

　マティスはどの派閥にも属していない。サタニタス討伐に声をかけて来た連中も、単に数合わせをしたかっただけ。

「さぁな、一人もいねぇかもしれねぇ。

　けどよぉ、このまま手をこまねいていたら、

　アルタニルが滅んでしまうかも……うん？」

「どうしたの？　マティス？」

　マティスはアリサの肩にそっと手を乗せる。

「覚えてるか？　あのガキ。

　ほら、この前の勇者の会合で……」

「ああ、あの子……」

　アリサはその少年について思い出した。

　イルヴァとダクトは思い出せていないのか、首をひねっている。

「ほらっ、あの金髪のクソガキだよ」

「あっ、もしかしてあの子？

　背中に羽が生えた……」

　イルヴァが言うとマティスは笑顔になる。

「そうそう！　あいつだ、あいつ！

　あいつなら協力してくれるかもしれねぇ！」

「でもぉ……あの子って戦力になるの？」

「なるなる！　腐っても勇者だからな！

　あいつはそれなりに強いと思うぜ！

　実際に戦ってるところは見たことないが……」

「はぁ、ダメじゃん」

　ため息をつくイルヴァ。

「まぁ……他に思い当たらないなら、

　とりあえず声をかけても良いんじゃないか？

　俺は賛成するぞ」

　ダクトが言うと、隣でアリサが頷く。

「このまま私たちだけで戦うのはちょっとね。

　戦力はちょっとでも多い方がいい。

　だけど……どうやって協力をお願いするの？」

「それはだな……」

　マティスはにんまりと笑った。