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127 魔王レオンハルトの一日8

「うまくいったみたいだな」


 ノインが言う。


 エプロンを身に着けている彼は人数分の飲み物をテーブルに置いてくれた。


「最初はどうなるかと思いましたけど……。

 結果オーライって感じですかね。

 もし失敗したらと思うと肝が冷えました」


 向かいの席に座るサナトが額をぬぐいながら言う。


「本当にそうですの。

 まさか……魔王様に夢を見せて操るなんて。

 下手したら処刑者ですの」

「人聞きの悪いことを言うなエイネリ。

 俺は別に閣下を操ってなんかないぞ」


 隣に座ったエイネリに文句を言った。


「でも……ちょっと可哀そうでしたね。

 夢の中とは言えやりすぎたかなと」

「そう言ってるフェルが一番楽しんでたじゃねぇか。

 たわしのアレ、ちょっと引いたぞ、俺」

「そんなぁ」


 ノインの言葉にショックを受けるフェル。


「でもこれで、ユージさまの目論見通り。

 書類に目を通してサインするようになるでしょうね」

「うむ……」


 サナトの言葉に深々と頷いて答える。


「しっかし、魔女ってすげぇよなぁ。

 他人の夢に入れる魔法が使えるなんてよぉ。

「当然でしょ、これでも宮廷魔女なのよ」


 ノインの言葉にツンと答えるサナト。


「誰の夢にでも入れるですの?」

「誰でもってわけにはいかないわ。

 ちゃんと夢を見る人でないとだめね。

 あとは事前準備が必要よ。

 相手に気づかれないように……って。

 何を真剣に考え込んでるの?」

「別に……ですの」


 エイネリが妙なことを考えている。

 まぁ……何をしようとしているか想像はつく。


 俺はサナトにお願いしてレオンハルトの夢の中へと精神を転送し、彼にある暗示をかけた。言うまでもなく、書類をちゃんと読めという暗示。

 以前から彼は内容を精査せずに何でもサインをしていたので、放っておいたらまずいと思っていた。


 何か手立てはないと悩んでいたところ、夢の中に入る魔法があると知り、サナトに協力をお願いした。

 彼女だけでなく、ノインやフェルの手を借りたのは、俺一人では難しいと思ったからだ。


 協力をお願いすると皆ノリノリで引き受けてくれた。エイネリは誘っていないのにも関わらず、勝手に参加。協力者を得た俺は、さっそくサナトにお願いして魔法を使ってもらい、レオンハルトの夢の中へ侵入する。


 夢の中では割と自由が利き、なんでもできた。この世には存在しない機械を作ったり、モブも自由に動かしたりもできた。肉や野菜も錬成し放題。

 なんでもできすぎて自由にやりすぎてしまい、ちょっとだけ後悔している。


「それにしても……ユージさま。

 あの機械は何だったんですか?

 私にはさっぱり分かりませんでした」


 サナトが言う。


 俺が適当に生成した防衛マシーンはSFで使われるような未知の機械。んなもん、仕様を説明できるはずもない。


「俺にもよく分からん」

「よく分からないものを自分で作ったんですか?

 ある意味スゴイですね、ちょっと尊敬します。

 あと……あの無限に複写を作成する機械。

 あれはちょっと欲しいですね」


 ああ、コピー機ね。

 んなもんこの世界には存在しない。

 作ろうとしても無理だろう。


 魔道具なる便利な道具が存在する世界だが、コピー機のように複雑な機械は存在しない。この世界では普通に活版印刷がもちいられている。ゼノにはその活版印刷すら存在するか微妙なところだが……。


「ほんとですの。

 あれが一台あるだけで、

 お仕事がずっと楽になりますの」

「いちいち書類を作る必要もねぇしな」

「そうですねー」


 コピー機を欲しがる一同。

 元居た世界ではそれすら過去の産物と化そうとしていた。

 時代の変化に追い付けんわい。


「まぁ……みんなのおかげで上手くいったよ。

 礼を言うぞ、ありがとう」

「こんなことくらい、なんでもありませんよ。

 協力してほしかったらいつでも言って下さいね」


 そう言ってウィンクするサナト。

 かわいい。


「ほら、フェルも」

「え? 僕も? ううん……えい」


 サナトに言われてウィンクするフェル。

 かわいい。


「私もですの!」


 エイネリも。

 ちょっと……かわいいと思ってしまった。


「俺はやらんぞ」


 ノインが言う。

 誰も求めてねぇよ。


 そんなこんなで作戦は成功したわけだが……。

 夢の中に入れる魔法ってちょっと怖いな。


 サナトの話だと、夢の中でダメージを受けると、精神的な被害を受けるという。レオンハルトが悪夢にさいなまれていたら、俺たちもその被害を受けていた可能性があるのだ。


 作戦は上手くいったが、この試みは今回限りにしたい。


 この身体になってから眠らなくなった俺ではあるが、死ぬ前はよく夢を見た。苦しい時、つらい時ほど、不思議なことに幸せな夢ばかりを見る。


 おいしいご飯に快適な住まい。家族に囲まれて過ごす楽しい時間。

 目が覚めてそれがすべて幻だと分かると、恐ろしいまでに強い喪失感に襲われる。夢なんて見なければ、あるいは目が覚めなければと、何回か思った。


 もし……幸せな夢の中から帰って来られなくなったら、人はどうなるのか。想像するのがちょっと怖い。

 他人の夢の中に潜って、体験したことのないような幸福を味わったら、夢の世界から出られなくなるかもしれん。


 本当に怖いのは……悪夢などではなく、現実を忘れさせるような幸せな夢。現実ときちんと向き合おうとする人ほど、そういう世界に弱い。


 俺みたいなやつは特に……な。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ミィの遠足(?)から始まり、ユージへの接待、小説創作について、それから〆にレオンハルトと、本編の物語展開から少し逸れ、他のキャラクターの日常が垣間見えるおまけの章、とても面白かったです。 …
[良い点] やはり、レオンハルトの魅力が凄い。彼が出てくる話はそれだけで楽しく笑えてしまう。 [一言] たらこさまの書くギャグがとても好きです。まあ、本題はもっと深いところにあるのでしょうけど。(笑)…
[良い点]  まとめて読みました。  えっ!夢オチ⁉︎ と思わせておいて…… ここで全部伏線回収という半端ない締め。この結末は正直かなりびっくりしました! 追伸:数話前の話になりますが、コピー、石…
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