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124 魔王レオンハルトの一日5

「……失礼します」

「来たか、ユージよ」


 ついにユージが魔王の間へやって来た。

 今日の奇妙な出来事は全てこいつが仕組んだこと。

 諸悪の根源は取り除かなければならぬ。


「閣下、早速ですが……」

「サインだな? よこせ」


 ユージから書類を受け取るレオンハルト。

 そして……。




 びりびりびり。




 内容を確認せず、真っ二つに切り裂く。


「閣下⁉ 何を……」

「しらじらしいぞ。

 貴様は俺を騙して妙な命令を下す書類にサインさせた。

 今後、一切、貴様の作った命令書にサインはせぬ」

「左様ですか、では失礼します」

「え?」


 あまりにあっさりと引き下がるユージに、ただならぬものを感じたレオンハルトは思わず彼を呼び止める。


「まっ……待て」

「なにか?」

「なぜそんなにあっさり引き下がる?」

「閣下がもう命令書にサインしないとおっしゃられたので、

 これ以上の答弁は不要かと思いまして」

「だっ……だが……」

「それと、閣下がお破りになったその命令書の文言を、

 今一度ご自分の目でお確かめください」

「……?」


 破り捨てた書類を手に取り、内容を確認する。

 そこには……。


『今後一切、肉食系獣人の魔王に野菜を提供しない。歯磨きは必ず柔らかい素材のものを使う。魔王の間に物騒な防衛装置を設置してはならない。むやみやたらに算数勝負を仕掛けてはならない』


 などと書かれていた。


「こっ……これは……」

「閣下が自らの手で破棄されたということは、

 今日の対応を続けても構わないとの判断をされたと、

 勝手ながら解釈させていただきました。

 毎食、必ず野菜を提供しますので、

 楽しみにしていてください」

「まっ……待ってくれ! ピーマンは嫌だ!

 ニンジンも食べたくない! 玉ねぎもだ!」

「玉ねぎは閣下が食べたら死ぬので、

 頼まれても出しませんが?」

「そうか……よかった。じゃない!」


 玉ねぎだけでなく、ニンジンもピーマンも食べたくない。

 野菜なんて絶対に食べたくない。


「この書類にサインするから! もう野菜は……」

「しかし、今しがた閣下がご自分で破棄されました」

「また新しく作り直せ!」

「できません」

「なんでだ⁉」

「命令書を新たに発行しても紙の無駄。

 どうせ閣下が破り捨てて全て破棄するので、

 何をお願いしても無意味です」

「確かに破ったがあれは……」


 言い訳が思いつかない。

 このままでは……このままでは!


「とにかく野菜は食べたくない!」

「そう言われましても……」

「頼む! お願いだから!

 新しい命令書を作って……」

「でしたら」


 ユージはレオンハルトを睨みつける。

 瞳のないがらんどうの窪みのなかに、怪しい赤い光が見えた。


「今後は命令書をよく読んだうえでサインするよう、

 切実にお願い申し上げます。

 でないと……ディナーは野菜のフルコースですよ」

「いやだあああああああああ――――




 ――――




「……あれ?」


 目を覚ます魔王。

 身体を起こしてベッドから這い出る。


 ここは魔王の間。

 特に変わった様子はない。


 夢でも見ていたのか?


「ちわーっす。朝食でーす」


 食事係のオークが朝食を運んできた。

 確か名前はノインだったかな。


「おい、貴様」

「なんでしょうか?」

「俺にニンジンを食わせようとしていないだろうな?」

「は? ニンジン?」


 首をかしげるノイン。


「ニンジンなんてどこにもありませんが?」

「嘘をつけ、どこかに隠しているはずだ」


 サービスワゴンに乗せられている料理は、生肉と臓物のみ。

 ニンジンどころか野菜のかけらも見当たらない。


「ふむ……夢だったようだな」

「どうかされましたか?」

「いや、なんでもないのだ。

 ところで命令書は持っていないか?」

「いえ……お持ちしたのは食事だけです」


 ノインは首を横に振る。


「ふむ……まぁいい。下がってくれ」

「後で食器だけ取りに来るんで」

「うむ」


 ノインが部屋から出て行ったら、生肉を貪り食う。

 いまいち状況が把握できない。

 俺は今、目覚めているのか?


 夢うつつなレオンハルト。

 あの悪夢はあまりにリアルだった。

 まるで現実のようで……。


「魔王様! お食事中に失礼します!」


 魔王の間にクロコドが現れた。

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