118 創作活動は難しい9
パラパラパラ……。
魔王は手にした本の内容を流し見する。
そして……。
「へぇ……面白いじゃん」
「「ええっ⁉」」
意外な言葉に顔を見合わせる俺たち。
「え? 面白い……ですか?」
「うむ、ユージよ。貴様も研究熱心だな。
これは敵の内部情報であろう?」
「……え?」
なぜか知らんが、彼はその小説を敵の情報だと理解した。バカかな?
「まぁ……そうですね」
「よかったら貸してくれないか?
部屋に持ち帰ってゆっくりと読みたい」
「構いませんが……」
「あと、この挿絵。とてもよく描けている。
ゼノにもこのような絵が描ける画家がいたのだな」
「それはエイネリが……」
「ふむ、貴様の部下のヴァンパイアか」
意外にもレオンハルトは彼女のことを覚えていた。
俺の部下の名前なんて、いちいち覚えてないものかと。
「彼女には絵の才能があるようだな。
いっそのことゼノのお抱え絵師にするというのは……」
レオンハルトがまた面倒なことを言い出した。
エイネリは士官学校の方で手一杯なので、
そんなことをさせる余裕などない。
「彼女には彼女の仕事がありますので……」
「ふむ、なら仕方ないな。残念だが諦めよう」
素直に引き下がってくれて助かった。
しつこく食い下がられたらどうしようかと。
「この本はしばらく俺が預かっておくが、構わんか?」
「ええ……お好きになさって下さい」
みんなで力を合わせて作った渾身の一作だが、何処にやろうか困っていた。まさか図書館に置いておくわけにもいかないし……。
魔王が大切にしてくれるというのなら、それでもかまわない。
その方が作品も浮かばれるだろう。
「しっかし……これ本当に面白いなぁ」
魔王は本を読みながら図書館を出て行く。
前を向いて歩かないと何処かに頭をぶつけますぞ。
「たっ……助かったぁ」
力なくその場にへたり込むムゥリエンナ。
さぞ、肝が冷えたことだろう。
「危うく二人そろって処刑されるところだったな」
「もぅ……本当に心臓に悪いですよぉ。
そもそもどうして人間の女の子が主人公なんですか?
最初から魔族の女の子を……あっ」
ムゥリエンナ、何かに気づく。
「まさか……ユージさま……」
「なっ……なんだ?」
やばいな、この流れ。
俺がかくまっているのが人間の少女だと気づいたのかもしれない。
表向きは奴隷の獣人ハーフとしているが、彼女が純粋な人間であると知れれば極刑は免れないだろう。
ムゥリエンナが俺を告発したら……。
「まさか……ユージさま……本当は女の子だったんですか⁉」
いや……なんでそうなる?
「この本の主人公はユージさまがモデルで……」
「だから違うって、モデルは俺の奴隷で……」
「奴隷はカモフラージュ⁉
自分を偽るための……フェイク。
全ての点が一つに繋がりました!」
いや、何も繋がってねぇよ。
妄想全開だな、この子。
彼女を誤解させたまま放っておいてもよかったのだが、面倒なことになりそうなのできちんと話をしておく。一応、納得はしてくれた。
しかし……本当に意味が分からん。
なんでこの子は俺が女だと思った?
どういう思考回路してんだよ……まったく。




