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116 創作活動は難しい7

「そっ……そうなんだ……へぇ」


 微妙な反応だった。

 サナトは口をへの字に曲げる。


「そうですの。だから決して誤解しないで欲しいですの。

 わたくしはアナタが嫌い。大っ嫌い。

 でも……あなたの描いた絵は…………すっ」


 え? すっ?


「すっ……すっ……好きになってあげてもいいですの!」

「あんたなんかに好きになって欲しくないわ!

 どうせ心の中で馬鹿にしてるんでしょ⁉

 ばーか! ばーか! ばーか!」

「むきいいいいいいいいいいい!

 やっぱりやってられないですの!

 こんなもの……!」


 エイネリは自分の描いた絵を手に取り破こうとする。

 そのまま一気に真っ二つに……。


「やめてえええええええええ!」

「え⁉ ごぼへぇっ‼」


 ムゥリエンナが悲鳴を上げながらエイネリに突撃。

 二人は本棚に激突。大量の本が落下。


「おっ……おい! 大丈夫か⁉」

「大丈夫ですの。アンデッドは死なないですの」

「むきゅぅ……助けてぇ」


 本に埋まった二人は手を出して助けを求める。

 仕方ないので俺とサナトで救出するが、幼女体形の彼女とスケルトンの俺では時間がかかった。


「まったく……急にどうしたんだムゥリエンナ?」

「だってぇ……だってぇ……。

 素敵な作品が壊されそうだったから……。

 どうしても我慢できなくてぇ……。

 すみませんでしたぁ」


 めそめそと泣くムゥリエンナ。

 彼女はいつの間にかエイネリから絵をふんだくり、きれいに丸めて大事そうに胸の前で抱えている。


「どっ……どうしてですの?

 どうしてそこまでして……」

「二人の仲が悪いのは分かります。

 でも……エイネリさんが作り上げたこの作品には、

 なんの罪も無いと思うんです」

「「…………」」


 ムゥリエンナの言葉に黙る二人。

 何も言えなくなってしまう。


 確かにムゥリエンナの言う通り、彼女の作った作品に罪はない。二人の仲がどんなに悪かろうと、この作品は二人がいなければ成立しなかった。


「だから……だから……ちゃんとこの子を……。

 作品として完成させてあげて欲しいんです。

 中途半端に生み出されて放り出されたら、

 この子がかわいそうです」

「そうね……そうかもしれないわね」

「あなたの言う通りですの、ムゥリエンナさん」


 彼女の言葉にほだされた二人は落ち着きを取り戻す。

 そして……。


「私に彼女の絵を描く許可を与えて欲しいですの。癪だけど」

「ええ、別に構わないわ。許可してあげる。癪だけど」


 二人は互いに手を差し出しあい、握手を交わした。

 しかし……。


「ちょ……なんで足を踏んでるですの⁉」

「そっちこそ! 手を握る力が強いのよ!」


 結局、二人の仲は良くならなかった。

 でもまぁ……これでいいのだろう。


 俺だって、二人に仲良くして欲しいとは思うが、そう簡単にはいかない。

 魔女であるサナト。ヴァンパイアのエイネリ。この二人は想像を絶するほど長生きするが、どんなに時間が流れたとしても、永久に仲良くできないはずだ。


 そんなこんなで同意が得られたわけだが、それからも大変だった。


 エイネリは挿絵をどんどん書くのだが、彼女は背景が描けない。仕方なくムゥリエンナが描いたのだが、あんまり上手じゃない。

 資料を探してちょっとずつ修正して、なんとか見られる状態になった。


 エイネリとの打ち合わせも大変だった。彼女はこちらの意図をくんではくれず、好き勝手キャラクターを書くので、その都度修正が必要になる。

 間にムゥリエンナを挟んで、何度も打ち合わせしなければならなかった。修正を頼んだら烈火のごとく怒るので、説得にも苦労した。


 サナトには追加でキャラデザをお願いしたが、こちらは特に問題なかった。しかし、そのキャラをエイネリが書き直すときに揉めまくった。

 それぞれキャラの解釈が異なるのだ。

 こちらも間にムゥリエンナが入って解決してくれた。有能。


 ムゥリエンナは俺の作品にアドバイスしてくれた。

 こうした方がいいよとか、これはやっちゃだめとか。


 人からあれこれ言われながら創作するのは面倒かもしれんが、書きたいことのない俺にとって彼女のアドバイスはプラスに働いた。

 不快感よりも、感謝の気持ちが勝る。


 ムゥリエンナのおかげで、なんとなくではあるが続きを書くことができた。

 思いのほか筆が進んで自分でも驚く。


 そして……。






「よっしゃー!」


 俺はガッツポーズする。


 エイネリとサナトが協力して作った挿絵。

 そして、ムゥリエンナのアドバイスを元に書いた俺の小説。


 今までとは比べ物にならないほどのクオリティに仕上がる。


「結構、面白いですね」

「夢中になって読んじゃうですの」


 サナトもエイネリも俺の作品を気に入ってくれた。

 素直に嬉しい。


「よかったですね。ユージさま」

「ああ……君のおかげだ、ムゥリエンナ」

「私はちょっとアドバイスをしただけです。

 全てユージさまのお力ですよ。

 私には小説なんて書けませんので」


 ムゥリエンナはいわゆる読み専で、自分で何か書くことは稀。

 たまにエッセイとか日記とか詩を書いたりするのだが、物語を作ることはできないという。


「そうか……君にそう言ってもらえると嬉しいよ」

「もっと自信を持ってください。

 普段のお仕事の時もそうですが、

 ユージさまは素敵な方です」

「…………」


 かわいい女の子に褒めてもらえると嬉しい。

 下半身も人間だったらもっと嬉しかったんだけどな。


「これで清々しますの!

 サナトと一緒に仕事なんて二度とごめんですの!」

「それはこっちのセリフよ!

 誰が好き好んで死体野郎なんかと!」

「あっ、それユージさまにも同じこと言えますの?」

「え? あっ……その……」


 しまったと思ったのか、気まずそうに俺を見るサナト。

 気にしてないから安心しろ。


「それにしても……良くできてますねぇ」


 でき上がった小説をしみじみと眺めるムゥリエンナ。


 彼女の言う通り、それなりのクオリティには仕上がった。

 誰かに見せても恥ずかしくない出来だと思う。


 ちなみに……装丁は彼女が担当してくれた。

 本を作る技術も持ち合わせていたらしい。


「この一冊は君たちの努力の結晶だ。

 サナト、エイネリ、そしてムゥリエンナ。

 三人とも本当によく頑張ってくれた。

 礼を言うぞ、ありがとう」

「そんな……もったいないお言葉です」

「礼には及びませんの」

「よかったらまた、一緒にお仕事しましょう。

 すっごく楽しかったです」


 俺も正直楽しかった。

 三人で相談しながら一つの物を作り上げるのは、悪い気分じゃない。


 さて……でき上ったこの作品を、ミィちゃんは気に入ってくれるでしょうか?

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