110 創作活動は難しい
「ふんふーん♪」
鼻歌を歌いながら俺の書いた小説を読むミィ。
それはもうすでに読んだはずだが、何度も同じものを読んで面白いのか?
「なぁ……ミィ。そんなに面白いのか?」
「うん! 新しいのはまだ⁉」
「ええっと……」
期待に胸を膨らませるミィだが、彼女を満足させられる作品を書ける気がしない。
今までノリと勢いだけで書いてきたのだが、彼女を楽しませようと意識すると変な風にこだわってしまう。筆の進みも以前と比べてずっと遅くなった。
幹部連中を敵役に見立て、主人公の女勇者に虐殺させていたわけだが、その幹部連中はこの前の一件で軒並み死亡してしまった。
フラストレーションのやり場に困って始めた創作なので、ストレスが欠如すると続きが書けない。
しかし……ミィは続きを待っている。
なんとかして書けるようになりたいのだが……。
「そのうち書くよ」
「そのうちじゃやだぁ! 早く読みたい!」
「ううん……」
ミィが俺の作品に期待してくれるのは嬉しいのだが、逆にプレッシャーに感じてしまう。彼女を失望させたくない思いが、俺に早く続きを書けと急かす。
しかし……書けないものは書けないんだよなぁ。
今までは誰に見せることなく自由気ままに書いていたが、他人に見せることを意識すると途端に筆が止まる。
どうしてなんだろうか?
俺が書けなくなった理由はとりあえず置いておき、とにかく彼女を満足させるために続きを用意しなければならない。
誰かに相談しようかな……。
しかし、相談するとしたら誰だ?
ムゥリエンナ?
彼女は本を読むのは好きだけど、書くのは嫌いなんだよなぁ。
以前にそういう話をされたことがある。
じゃぁ……誰に……。
「それで、私に相談しに来たってわけですか」
椅子に座ったサナトが言う。
俺は小説の続きを書く方法について、彼女を相談相手に選んだ。こういう話を茶化さずに真面目に聞いてくれるのは、この人しかいないと考えたからだ。
サナトはティーカップを机の上に置く。
彼女は相談しに来た俺を部屋に入れ、お茶を出してくれた。飲めないのは分かっているはずだが、一人で茶をすするのは失礼だと思ったのだろう。
部屋の中央に置かれたガラスのテーブル。魔法で模様を自由自在に変えられる。しかし、今は無色透明の状態。真面目な話をするときは色を付けないんだと。
部屋を見渡してみると、あちこちにファンシーなグッズが置いてあるのが目につく。カワイイぬいぐるみに、小さな観葉植物。天井には動物や星なんかの絵を切り抜いて作られた小物が吊るされている。
壁紙は彼女の髪と同じピンク色。棚には何に使うのか分からない不思議な道具が沢山並んでいた。
「難しい話ですけど……そう簡単に解決できなさそうですね」
「ううん……何かいい方法はないだろうか?」
「今まで通りテキトーに書くのってどうですか?
それが一番な気もしますけど」
「それが……」
誰に見せる予定もない、テキトーに書いた小説。
俺がそれを書く時にエネルギーにしたのはストレス。現実に対する強い不満を燃料として、一方的な勧善懲悪の物語を作り上げた。
そのストレスが消失してしまった今……俺を動かす創作欲はゼロ。ガス欠を起こした車のようになっている。
「ふぅむ……ストレスがない……ですか。
本当なんですか、それ?
私にはすっごくストレス抱えてそうに見えますけど」
「そうか? 今はそうでもないぞ。
頼りになる仲間がいるし……君みたいな」
「べっ……別にほめても何も出ませんからね⁉」
顔を赤らめるサナト。カワイイ。
「それで……小説の話なんだが……」
「もうなんでもいいじゃないですか。
今のユージさまが書けることを書けばいいんですよ。
創作に必要だとされるストレスがないのなら、
平和でのんびりした話を書けばいいのでは?」
「平和でのんびり……かぁ……」
それだと作風がかなり変わる。
今までの作風を好いてくれたミィが満足するか、
正直なところ疑問である。
「ううん……どうも腑に落ちていないというか、
ユージさまは納得されてないみたいですね。
じゃぁ……こうしたらどうですか?」
サナトはある提案をした。




