105 幹部は休日も忙しい4
「ほぅれ……あっ」
俺の腕がボールを持ったまま、肘のあたりですっぽ抜けて飛んで行った。
「あっ、あっしが作った腕を飛ばす機能が……」
どうやら、あのいらん機能が作動してしまったらしい。
マジで余計なことを……。
「ゆっ……ユージさま……どうぞ」
フェルが俺の腕とボールを取って来てくれた。
すっごく気まずそうにしている。
「すまんな……」
「気を取り直して……どうぞ」
「……うむ」
俺はボールを手に取り再び構える。
そして……。
「えいっ……あっ」
筋肉の全くない俺の腕では、フェルが使う小さなボールでさえ遠くへ投げられず、足元にぼとりと落下。そのまままったく動かなくなる。
「…………ははっ」
思わず乾いた笑いを漏らしてしまった。
……マジで気まずいんだが?
「まっ……まぁ……こういうこともあるだろ。
ははは……なぁ……みんな?」
「そっ……そうですね」
「いやぁ、ユージさま。
その身体がそこまで軟弱だとは思いませんでした。
次はもっと丈夫なのを作りますんで、
どうか許してくだせぇ」
ゲブゲブは申し訳なさそうに頭を下げる。
こいつが悪いわけじゃないんだよなぁ。
「なぁ……ノイン」
「なっ……なんだよユージ?」
「どうせ次も何か考えてるんだろ?
できれば力を使わない遊びにしてくれ」
「おっ……おう! 任せてくれ!」
快く答えるノインだが、果たしてどうなるか。
俺はもうあまり彼に期待していない。
「次は歌唱大会だ!」
ノインは俺たちを小高い丘の上に連れて行った。
丘の上には大きな大木が一本。
例のCMソングを口ずさみたくなるような光景。
「よーし、まずは俺から一曲歌うぞぉ!」
ノインはそう言ってさっそく歌い始めた。
オークたちは民族的な曲を好むことで知られ、彼らにしか通じない独特のメロディで歌う。彼らにとって歌とは楽しむものというより、他の仲間に自分の存在をアピールするものだ。
例えば、好きな相手に愛を伝える時に歌ったりとか、同族と喧嘩になった時に殴り合う代わりに歌でディスりあったりとか、様々なシチュエーションで歌が用いられる。
その曲調は何とも例えがたく、非常に耳障りで大音響。
「ぼ~へぇ~♪」
「「「……っ‼」」
あまりの騒音に耳を塞ぐ一同。
フェルはうさ耳を折りたたみ、ゲブゲブは耳をスライムでふさいだ。
俺の場合、鼓膜も外耳もないのになぜか音が聞こえるので、耳を塞いだところで無意味。ノインの放つ騒音にずっと付き合わなければならない。
……助けて。
「ハァ……ハァ……どうだ、俺の歌は?」
一曲歌い切ったノインは、やり切った感たっぷりに尋ねてくる。
オークたちは歌でストレスを発散するという。そのため、彼らが作る集落は四六時中騒音まみれ。
しかし……そんな彼らでも空気を読むのか、獣人が多数を占めるゲンクリーフンの街では静かにしている。ノインが俺の前で歌ったのもこれが初めて。
感想を求められた俺たちは、どう反応すればいいか分からず顔を見合わせる。
最初に俺が感想を言うべきかと頭を悩ませていたら、フェルの方が先に口を開いた。
「あの……とっても元気だなって……」
「そうか! ゲブゲブのおっさんは⁉」
「え? ああ……まぁ……元気があっていいんじゃねぇか?」
「そうか! ユージは⁉」
二人は適当にごまかしたが、俺は素直な感想を述べてやろう。
何せずっと付き合わされたわけだからな。
「ちょっと……声が大きかったな。
もう少しトーンを押さえて控えめに歌ってくれ。
できればメロディラインをしっかりとおさえて欲しい。
音程がぐちゃぐちゃで、とても聞いていられない。
音を出すときは出して、控える時は控える。
基本だぞ。あと……」
「おい、ユージ。俺に説教しようってのか⁉」
珍しくノインが怒った。
あれれ? 何か変なことを言ったかな?
そう言えば以前にもこんなことが……。
俺がこの世界へ転生してくる前の前々世についての記憶がよみがえる……。




