103 幹部は休日も忙しい2
ぽきん。
小気味よい音が聞こえるとともに、腕の感覚が消失。勢いよく竿を引っ張ったら重さに耐えきれず、俺の腕がひじのあたりで両方とも取れてしまった。
ざっぱーん!
俺の腕が落ちると同時に、怪魚も湖の中へと姿を消す。釣竿も水の中に引きずり込まれてしまう。しばらくして水面へと姿を現して、白い骨と釣竿がぷかぷかと漂っていた。
「うわぁ……マジかぁ……」
俺は自分の両腕を見つめる。ひじから先を失った俺の両腕は、見ていてなんとも物悲しい。
「おっ……おお。まぁ、そんな時もあるよな。
気を取り直していこうぜ」
「ユージさま! 腕を拾ってきますね!」
「あっしも!」
フェルとゲブゲブが俺の腕を拾いに行ってくれた。ノインは何とも言えない表情で俺を見ている。
「その……なんだ……すまなかったな」
「いや、大丈夫だ。たまたまだろう。
次はきっと大丈夫なはずだ」
「だと良いんだけどなぁ……あはは」
気まずそうに笑ってごまかそうとするノイン。
彼が俺を気遣ってくれるのは分かるが、その心遣いが逆に苦しい。
「ユージさまぁ! とってきましたよぉ!」
「あっしがすぐに直して差し上げますね!」
二人が腕を拾って戻ってきた。早かったな。
ゲブゲブはちょちょいと俺の腕を直す。
といっても、何か道具が必要になるわけでもなく、取れた個所をくっつけるだけで元通りになる。マジでいい加減なだよなぁ……俺の身体。
釣りを再開。
餌をつけて、竿をふるって、水面に投げたら……。
ざっぱーん! ぽっきり。
ダメだった。俺の腕はまた取れてしまった。
俺の腕は丈夫ではなく、少しでも負荷がかかると取れてしまう。これでは釣りなんてしても楽しめないだろう。
「おっ……おお。マジか……」
かける言葉が見当たらないのか、ノインは気まずそうに俺を見ていた。別に同情して欲しいとは思わないのだが、俺の身体に制限があることは確かだ。
俺にはできることと、できないことがある。
重い物を持て運べないし、強い力を出すこともできない。それはノインもよく知っていると思うのだが……。
「そうかぁ……お前には無理だったかぁ……。
荷物を他人に運ばせてたのは、
そういう理由があったからなのか……」
「え? 今更?」
「ああ……悪いな、ユージ。今更、気づいたんだ」
ノインは申し訳なさそうに言う。
彼とは長い付き合いになる。
俺がゲンクリーフンへ流れ着いてきた時からの関係。
にもかかわらず、彼は俺が物を自分で運ばないのは、重たいものが持てないからだと知らなかった。ちょっと意外。
「そうだったのか……面倒だから運ばせてたとでも?」
「いや、そうじゃねぇけどよ。
ただ単に力がないだけかと思ってたんだ。
そんな風に腕が取れちまうとは、思いもしなかった。
悪かったよ……本当に」
ノインはバツが悪そうに顔を背ける。
彼なりに罪悪感を覚えているようだ。
「本当はノインさんが途中で助けてあげて、
一緒に魚を釣り上げる予定だったんですよ」
「ばかっ! ばらすなよフェル!
恥ずかしいだろうが!」
フェルが作戦の内容を明らかにすると、ノインは顔を真っ赤にして大声を上げる。まぁ……確かに恥ずかしいよな。
彼は俺と一緒に魚を釣り上げることで、達成感を味合わせようとしたのだろう。悪い試みではないと思うのだが……。
俺の腕があまりに脆く、その作戦は失敗に終わってしまった。
うまくいかないもんだね。
「ちっ……釣りはダメだったが、まだ終わりじゃねぇ。
とっておきの作戦があるんだ」
気を取り直したノインが言う。
作戦ってばらしたら作戦にならんぞ。




