102 幹部は休日も忙しい
「よし! 準備は整ったな⁉」
ノインが鼻息を荒くして言う。
「うっ……うん」
「なんだユージ! そんなしけた面しやがってよぉ」
「いや……俺の表情なんか分かるはずないだろ……」
「俺には分かるんだよぉ! 気合い入れろぉ!」
「……はい」
やる気満々のノイン。
俺の方はあまり気ノリしていない。
「ユージさん、大丈夫ですか?」
「ああ、大丈夫だ。心配かけて悪いなフェル」
「へへへ、あっしにできることがあったら、
なんでも言ってくだせぇ」
「ああ……分かってるよ」
フェルとゲブゲブの二人が俺を気遣ってくれている。
別に体調が悪いわけではないのだが……どうしても気が重い。何故なら……。
「よっしゃー! 今日は遊びつくすぜー!」
気合いが入りまくったノイン。
俺は彼の熱に圧倒され、気後れしている。
シロが巨大化した日に、ノインは俺を遊びに誘った。
彼の誘いに乗って予定を調整して特別に休暇をとったのだが……。
なぜか超張り切りモードのノイン。
彼は色んな道具を集めて集合場所にやって来た。
俺以外のメンツはフェルとゲブゲブだけ。
ヌルは誘われなかった。気まずいのか?
そんなこんなでゲンクリーフンの近くにある湖へやって来た俺たち。ここには大きな怪魚が生息していることで知られている。
「よぉし! まずは釣りだぁ!
人数分持ってきたからな!
一番沢山釣った奴のかちだぞぉ!」
ノインは棒切れに糸を括り付けただけの、粗末な釣竿を人数分用意してくれた。これで……魚を釣ると言うのか?
怪魚は非常に凶暴な魚として知られており、獣人だろうがオークだろうが、水の中に落ちた者は何でも食らう。
そんな手ごわいモンスターをこの釣り竿で?
とても正気とは思えんな。
「餌はこの腐った肉を使う! 釣り針にしっかりと刺すんだぞ!」
「なぁ……ノイン」
「なんだユージ⁉」
「どうしてそんなにテンションが高いんだ?」
「は? 何言ってんだ⁉ オフの日くらい元気に騒げ!
遊ばないと損だぞ! この馬鹿野郎……」
「…………」
ノインのテンション高すぎ。
とても追いつけそうにないんだが……。
「ユージさんに少しでも楽しんでもらおうと思って、
昨日から一生懸命に準備してたみたいですよ」
フェルが小声で教えてくれた。
あいつなりに気を使ってくれたってことなのか?
それはそれでありがたいんだが……。
「まぁまぁ、とりあえず楽しみましょうや。
釣りなんて久しぶりでしょう?」
ゲブゲブが両手に釣竿を持ってにっこり。
彼は片方を俺に手渡してきた。
「まぁ……そうだな。うん……」
釣りは生前に食糧確保のためにやっていたが、別に楽しいとは思わなかったな。釣りが嫌いなんじゃなくて、食べ物を確保しようと必死で楽しむ余裕がなかったのだ。
俺は釣り針に餌を突き刺し、湖へと勢いよく投げる……が。俺の腕では筋力が足りず、すぐ近くに落ちてしまう。
「あちゃー」
「おいおい、ユージ。そんなんで大丈夫か?」
「大丈夫だノイン。もう一回やってみる」
それから何回か投げなおすが、やっぱりだめ。
仕方がないので代わりにノインに投げてもらった。
「よし、これで準備完了だな! あとは待つだけだ!」
「うむ……」
俺とノインは並んで腰かける。フェルとゲブゲブも俺を挟んで反対側に並んで座った。
しばらく糸を垂らして得物を待っていると、さっそくノインがあたりを引く。
「よっしゃああああああ!」
彼が勢いよく釣竿を引くと、水面から大きな魚が姿を現した。錦鯉くらいの大きさだろうか。怪魚は基本的に巨大化するので、これでもかなり小さいほう。
陸上に打ち上げられた怪魚はその場ではねて大暴れ。ノインが抱き抱えてもおとなしくならず、身体を何度もくねらせている。
「へへっ、さっそく一匹ゲットだぜ」
嬉しそうに微笑むノインだが、怪魚の醜悪さを見るとあまり羨ましくはない。目が四つあって口には大量の小さな歯。どうやって食べるんだろうか、あれ?
「あっ! ユージさんのも引いてますよ!」
フェルが言った。
俺は慌てて釣り竿を引き……。




