7
トントン。
「ゆき、おはよ」
お姉ちゃんが部屋のドアをノックして言った。
いつも、なにも言わず家を出るのに。
少し不安になりながらドアに近づく。
開きはしない。
「…なに」
「元気?」
「うん」
「そっか、なら良いや。」
「なにか用だったんじゃないの?」
「…ううん、じゃ行くね」
「うん」
なんだったんだろ。
私は、また変わらず部屋から犬達を見る。
「こんにちは」
おじいさんがニコニコしながら出てきた。
「…こんにちは」
「犬達に触る?」
触りたいとは思ってた。
だけど。
「この櫛で、犬達の毛をといてくれない?」
「え、いいんですか。」
思わず言ってしまった。
「うん、お願いできるかい?」
「…はい、今、行きますね」
「ゆっくり、おいで」
部屋着では失礼かと思い軽く着替える。
お隣さんの家は歩いて、すぐだ。
「いらっしゃい」
おじいさんが優しい笑顔で迎えてくれた。
ホッとする。
「おじゃまします。」
「はい、これね。お願いね。」
櫛を渡されて、犬達の元へ案内された。
「シロ、クロ」
「ワン」
「ワン」
「シロ?クロ?」
「うん、白い犬がシロ、黒い犬がクロ」
「そのまま、ですね………あ!すみません」
言って、すぐに後悔した。
「ふふ、そうでしょ?だけど覚えやすい」
おじいさんは気にしていない様子だ。
「ですね。」
「じゃ、お願いね」
そう言い残して家の中に入ってしまった。
「えーっと、じゃあ、まずは…シロ!」
「ワン」
尻尾を振って近づいて来てくれた。
渡された櫛をシロの背中に近づけて、とく。
気持ちよさそうに伏せをしている。
「かわいい。」
数分、といているとクロが私の右横に座った。
「クゥーン」
クロもして欲しいみたいだ。
「うん、次はクロの番だね。」
シロは気持ち良さそうに眠ってしまった。
クロも同じく、しばらくすると眠った。
「かわいいけど番犬じゃ、ないの?」
「人懐っこいでしょ」
優しい目で犬達を見るおじいさん。
「はい、とても。」
「ありがとうね、シロとクロ嬉しかったみたい」
「いえ、私も嬉しかったです」
「ふふふ、それは良かった。」
「…じゃあ、帰ります。ありがとうございました」
「いつでも、シロとクロに会いに来てね。」
「はい!」
本当に楽しかった。
少しだけ軽くなった気持ちで家に帰る。
だけど、自分の部屋に入った瞬間
さっきまでの出来事が夢だった様に思えた。