幼なじみのオタクのためにギャルになりたい女の子
「コーくんは好きな女の子のタイプとかいるの?」
「え? ……なに、急に?」
「いやさぁ、気になっちゃって、えへへ……」
学校に向かっている途中で、私はコーくんに話しかけた。コーくんは握っていたスマホから目を離して、悪いものでも食ったのかこいつ、とでも言いたげな顔で私を見る。
「うぇぇ……、答えなきゃダメ? 嫌なんだが……」
「そこをなんとかさ! 頼むよっ!」
コーくんの前に立って、答えるまで通さないと態度で示してみる。
コーくんは困惑した顔のまま、腕を組んで頭を傾げて考える。
どんなタイプの女の子が好きなんだろうか。
できるなら私って言って欲しいんだけど、その願いは来てくれるかどうかと言えば、まぁこないでしょ。
コーくんとは何年も一緒にいるんだ。こんなところで告白する勇気なんて持ってないよね。うん。
少しして、何か思いついたのか、手に持っていたスマホを使い始める。
あれかな? 芸能人の○○ちゃんみたいな。甘いよコーくん。私と見た目似てたらそれもう私のことを好きだって言ってるようなものだかんね。
「こういう女の子、かなぁ……」
見せてきたのは二次元の画像だった。制服を着ている女の子で、オレンジ色の髪の毛で煌びやかなアクセサリーをつけている。加えて、強調されている胸は若干見えていた。
つまりこれは、いわゆる……ギャル。
「マジ……か…………」
私は持っていたカバンを落とした。
※
私こと柚月珠香には好きな男の子がいる。
名前は望月浩太。どこにでもいる平凡な男子高校生で、幼なじみの男の子だ。
隣の席に座っている彼は窓の外の景色を眺めて、あくびを噛み殺していた。
授業中だから、ちゃんと真面目に受けなさいよ、なんて言いたいけれど、今はそれが言えないほど精神にダメージを負っていた。
朝見せてきた女の子の画像。なんでもゲームキャラらしい。私がショックを受けている間に早口に説明してきた。
「この女の子、『妹の王』っていうソシャゲに出てくる妹の一人で、名前は大橋虎ヶ美って言うんだけど、いやまぁ、妹っても親戚の女の子だから血縁関係ではなくて、あっこれ結婚できるからアドポイント+五億点ね。しかもフルボイス。最高。まぁキャラを引いた後に見れる物語に感情移入してから優勝した後に見る物語は格別。神の領域だよね。話戻すけどこの子妹ムーブを常に学校で繰り広げてくるのに加えて胸が大きいんだよね。で、加えてギャル属性を兼ね備えててサ。ギャル特有の胸の押しつけたり、顔を近づけたりとかしててめちゃくちゃ可愛いんだよね。あとこの作品主人公が男で加えて僕と同じオタクだから共感できるポイントがアホみたいにあるし、で、虎々美はそれでもオタクであることに卑下しないで優しくしてくれるンだワ。まさしく†オタクに優しいギャル†って感じでまさしくオタクが欲しい存在と言っても過言ではないんだよね。おまけに言うけど声優の武田結由が演じている声もイラストとめちゃくちゃ推せるんだよね。まぁ声優の名前言ってもお前にはわからんだろうけど───」
……この先のことはあんまり思い出したくないな。声優の解説とイラストの解説で遅刻ギリギリだったし。
ともかくあれだ、早口で二次元の女の子に負けたっていう事実がここに残ったわけだ。
バカな……どこに差が? 私何か負ける理由あったか???
ため息を吐く。……よし。
とりあえず対策を考えなければならない。
名前なんだっけ。オオハシ……ココミ? 漢字わからないんだけど平仮名で検索したら出るかな。
あとなんかの作品に出てるって言ってたよね。『妹の王』? えっ、妹好きなのあの子。確かにコーくん妹いたけど……、流石に妹に恋愛感情持たないでしょ。
というか持つな。妹もののゲームやってて実の妹に手を出したらアウトよ。レッドカード退場。
しかしわからない。何したら私はコーくんと恋人関係に至れるの? はたして私に勝ち目はあるのだろうか?
※
「どうしたの、珠香? めちゃくちゃ悩んでるじゃん」
「……ももちゃん」
「ほらちゃんとしなさいって、一時間目から死んだような顔してるけどなんかあったの?」
話しかけてきた女の子は真間間桃だ。
私の友達である。
「いやさぁ、それが……」
「望月に何か言われた?」
「部分的にはそう、かなぁ」
「ずいぶん曖昧な答え方するね。とりあえずご飯食べよ?」
「……うん」
すでに昼休みに入っていた。
ちなみにだがコーくんはこの場にいない。この時間帯はいつもいないんだけどどこに行ってるのだろうか。……友達と学食で行ったのかな。
「で、なに? 告った?」
「違う違う! 好きなタイプを訊いただけなの! 訊いたんだけど……その…………はぁ」
「大きいため息吐かないでよ。幸せ逃げるよ?」
「吐きたくなるもんだよ……。出るかな……あっ出た。この子か」
スマホで朝コーくんが行っていた女の子を表示させる。名前は大橋虎ヶ美って書くらしい。さっきはオレンジ色の髪の毛と胸のアクセサリーしか見えなかったが、他にも特徴にサイドテールが見受けられる。
その女の子を私はももちゃんに見せる。
「えっ、誰この子。ゲームキャラ? 珠香そんな趣味あったの?」
「いや、コーくんが」
「はぁ、望月が」
「この子が好きな女の子のタイプらしい」
「……あぁうん。だいたいわかった。好きな女の子タイプ訊いてその絵を例に言われたのね。ドンマイ?」
「二次元に負けるってそんなことある? 私幼なじみなんだけど」
「オタクだから」
「それで済んでたまるかっ! とにかくどーしよ……」
共通の話題作りで私もこのゲームやってみようかな……。えっ、これ銃持って撃ち合うの? 妹なのに? なんで?
よくわからないゲームだった。これだからオタクの心はよくわからない。
「……というかこの子さ。珠香に似てない?」
「あ゛?」
「そんな低い声で言わないでよ。ほら鏡見て。自分と比べなよ」
差し出された手鏡を受け取って私の顔を見た。大橋虎々美はオレンジ色の髪と瞳サイドテールの女の子だ。
私を見る。黒い髪に少し青みがかかった瞳。あと腰元まで伸びた長い髪。胸の大きさは言うまでもない。大体同じくらいでしょ。
「あっ。これ胸のサイズ見れるんだ! へー、便利ー! どれどれ……って、バスト86!? はぁ!? 十四歳で!? その胸で中学生は無理があるでしょ……」
「ちょっ声大きい!」
「ご、ごめんごめん!」
……バスト86は盛りすぎだろとは思うけど。
「……で、これ本当に似てるの?」
「似てるって! 試しに明日髪染めてみなよ!」
「簡単に言ってくれるね……。私染めたことないし、流石にそれができるほどの行動力は……」
「似せたら付き合えるんじゃない?」
「マジ?」
私は食い入るように話を聞く。
「珠香はこの……大橋? ってキャラに似てると思うんだよ。これは確信して言える。で、このキャラと全く同じ見た目、言葉、仕草を真似すれば振り向いてもらえるんじゃない?」
「……一理ある、かなぁ?」
「あとキャラクターの説明に『オタクに優しいギャル』って書いてあるけど、望月オタクだし、優しくされたらコロッと落ちるんじゃない? 尽くしていく感じで」
「うぅん……」
なくはない、よね……。
いやアリと言えばアリかもしれないけど、ワンチャン掴める時点でこれは考慮の余地になるのでは?
「いやないないない、それは無理があるよ!」
「あるかなぁ? なってみようよ、オタクに優しいギャルに」
「私元々コーくんに優しいんだけど!? というかそれただのコスプレじゃん!」
「いいじゃんコスプレで。全く同じ見た目ならいけるいける。少し遅い高校デビューって感じで」
「もう高校二年生なんだけど!?」
「う〜ん……んじゃあ、この話は一旦やめにするけど、ほかに付き合えるプランでもあるの?」
「…………」
「ないでしょ」
「ないですね……はい」
「じゃあコスプレだ」
「えぇ……そうはならないでしょ」
「これからなるからいいんだよ。はい、決定! 放課後この子の研究するよ!」
「は?」
なぜ? なぜに研究?
というか結構乗り気だなももちゃん。明日から真間間呼びに戻してやろうか。
「今日時間ある? あるよね? あたしの家に放課後行くぞ!」
「マジ? 決定事項?」
「うん」
「えぇ……」
そんなこんなでお昼休みの終わりを告げるチャイムは鳴る。
……面倒なことになった。でももしかしたらこれで付き合える可能性もあるし……うーん………………。うん、わからん!
※
ももちゃんの部屋はピンク色に染まっていた。ピンク色のクッションとかマットとか、分母具とか。ともかくピンクだった。
頭もピンク一色なのだろうか。
クッションに座って、ももちゃんはレジ袋の中に手を入れた。
「というわけでこちらを用意しました。ヘアカラーワックス〜〜〜!」
じゃん、と声に出してテーブルの上にヘアカラーワックスを出した。なんか初めて見るな、こういうの。
「こちらなんと、髪を染めた後も安心! シャンプーで染めた髪を洗い流せるゾ!」
「通販番組の人?」
「お値段なんと3500円!」
「たっっっっっっ!?」
高いよ! えっ!? わざわざ買ってきてくれたの!? 確かにももちゃんの家に向かう直前お店の中入ってたけど……。
「もしかしてさっき買ったの?」
「いやこれは元から家にあるやつ。さっき買ったのはお菓子」
「……そっすか」
……なんで家にあるかは訊かないでおこう。
テーブルの上に置かれたワックスを手に持ってじろじろと見る。中を開けてみるとオレンジ色しかない。
「早速使ってみようか」
「真間間」
「ごめん。まずはゲームしよっか」
「よろしい」
お互いにスマホを出して、ソーシャルゲーム『妹の王』をインストールする。
このゲームの内容は、妹がお兄ちゃんを巡って銃で撃ち合って、最後に残った妹がお兄ちゃんと結婚できるらしい。生き残ったら生き残ったでキャラに関わる物語が見ることができるのだとか。
突っ込みどころはあるが我慢しておこう。
なんでも扱えるようになった時の物語と、生き残った後の物語で別れており、全編フルボイスで最高らしい。コーくんが言ってた。
「ダウンロード長いな、これ」
「……そうだね」
「お菓子でも食うか」
「あー、うん。そうだね。やることないし」
「髪を染めるくらいしかないな」
「真間間はさぁ……」
「ごめんて。そういえばさぁ」
「ん?」
「なんで望月のことが好きなの? 幼なじみだから? そういう宿命?」
「別に宿命とかじゃないけど……」
「ヤンキーに助けてもらっ「たわけじゃないかな」……割り込まないでよ。で、なんなの?」
「……単純な理由だよ」
私は彼に恋した理由を思い出す。
まぁ、単純な話。彼は優しい人なのだ。人に対してじゃなくて、誰にも優しいのだ。誰にもって言葉が出ると人間って思うかもしれないけれど、別に人間に対してだけではない。
誰もやらないような植物の水やり、朝早くから来て教室のゴミを掃除したり、黒板をきれいにしてたり……。
なんていうか、コーくんは誰にも見れないところで人の役に立ててる行動をしているのだ。だから彼は優しい。
それらの行いは、全部、誰かのためになっているのだから。植物は枯れることなく育ち、きれいな教室に不快感は存在せず、黒板は毎朝きれいで、夕方にはいつも白色や黄色なのに朝来てみればすでに綺麗でいた。
……去年までの話だけどね。今年からは学級委員だか掃除班がそれらの仕事を担っているので、コーくんがやってきたことは誰かが変わってやることになっている。
だから、この優しさを知っているのは私だけなのだ。
「優しいところかなぁ……」
「優しい男認定は男にとってダメなのでは?」
「真間間」
「すみませんでした」
考え、話を終えたところでダウンロードが完了したようだ。
チュートリアルを進めて、ゲームをプレイしていく。
「……意外と操作は簡単だ」
「そうだね」
銃を持って駆けるは街中だ。荒廃しているわけでもなく、どこをモデルにしたかはわからない都会の街中だ。その中で最大四十人の妹が争っている。最初はやはりチュートリアルだからか、淡々と進んでいくので遊んでいてとても気持ちがいい。
「というか虎ヶ美この画面に出てこないね」
「言われてみればそうだね……あっ」
「あっ? これは……ガチャか」
次に現れるはガチャと呼ばれる画面である。様々な妹がいる中、一人だけ知った顔がある。
大橋虎々美だ。ウィンクして目を閉じてる方にピースを置いている。人気キャラかな?
「これ本当に私に似てるの?」
「確認するなって、というかこれで引けばその子のこと知れるんじゃない?」
「私コスプレする前提なの?」
「いいから早く引くの!」
「はい……」
勢いに押されて私は画面を押した。
十一連召喚……召喚? 深く考えないでおこう。ともかく召喚していく。
キャラクターが声と共に現れるが、私はオタクではないので、声知らないイラスト描いた人の名前知らないで右も左も分からないままなのだ。虎々美さえ来てくれればそれでいいのだ……。
「来たわ」
「うそだぁー。早く帰りたいから嘘をつくなって……うわ本当に来てる」
「やらせといて引いてるの?」
ももちゃんは下に顔を向けて、落ち込んだ声で話し始める。
「いや、こういうゲームで欲しいキャラが出てくるイメージがないからさ……兄貴がこういうのやってて、お金注ぎ込んでるのめちゃくちゃ見てるし……」
「それはご愁傷様で……」
知っている光景だ。コーくんも時たまそんなことをしている。隣の家に住んでいるからわかるが、コーくんめっちゃ大きい声で『頼むッ来てくれッ……ッあぁ!? 来ないんだが!? クソが、追い課金じゃオラァ!』って頻繁に言ってるのを思い出した。
オタクっていつもこうなの?
「と、とにかく引けたんだし、そのままストーリー? 見たら?」
「ももちゃんは?」
「引けたら私も見る感じで」
「一緒に見ようよ」
「ちっちゃいスマホで見るのは流石に……」
「あっうん、そうだね」
ともかく私は虎ヶ美のストーリーを見ることにした。
『こんにちは、おにーさん!』
『ココ? 何しに来たんだ?」
この子ココって呼ばれてるんだ……。これからはココって呼ぶことにしよう。
ココは早速おにーさんである俺の腕に胸をつけてドキドキさせてきた……という描写を見せられる。
『な、なぁココ。俺これから予定があるからさ、離れてくれないか?』
『予定? 何それ』
『映画を見にいくんだよ。これ』
主人公君が見せてきたのは映画のチケットである。なんでも深夜アニメの映画らしい。
『知らないなぁ、おにーさんこんなの見るの? オタクなんだぁ? へぇ?』
『う、うるさいな!』
これ何を見せられてるんだろ。
『ギャルのお前にはわからないかもしれないが、このアニメは面白いからな。俺は楽しみにしてたんだよ。原作が始まった時から、アニメ化された時まで、な』
主人公は主人公で生粋のオタク、という設定らしい。客層がオタク向けだから私はちっとも感情移入ができない。わからんなぁ。
『ふーん……。おにーさんオタク何だぁ。それはそれとして、それ面白そうだね、それ。私も見てみたいなぁ』
『はぁ!?』
『決めた! 次会う時まで私見ておくよ! 今度会ったらそのアニメについて話そうね!』
えぇ? めっちゃいい子じゃん……。
というふうに話は進んでいく。ココは自分が通っている中学校ではスクールカーストトップの陽キャラ? らしく、常に身体のケアを欠かさない女の子だそうだ。
ギャルと言えばギャルに見える。放課後チェーン店で屯ってそうだし。
というかこの子、読んでて思ったんだけど結構純情可憐な女の子だ。
好きな男の子ために共通の趣味を持とうとし、理解しようとしている。
表はギャルを演じて、裏では愛するおにーさんのためにオタクを演じる。
なんて健気な女の子だ。まさしくオタクに優しいギャルと言えるだろう。知らんけど。
私ギャル見たことないし、オタクも一人しか知らないからデータが足りないから、イメージできないんだけど、こんなもんなのだろうか。
ところでさっきから私の髪がめちゃくちゃいじられてる気がす……る?
なんか私の髪オレンジ色になってない?
「真間間ァ!」
「あぶなっ!? スマホで殴ってくんなし!」
「おまっ、お前ェーッ!」
「口調戻しなよ! 落ち着け落ち着け!」
「……せめて許可取ってからにしてよ!」
「自分の顔を見てって、結構いけるでしょ!?」
「えっ……?」
手鏡を見るとスマホで見た女の子が目の前にいた。
いつのまにかサイドテールに結ばれていた私の髪は、ココと同じ感じで、瞳の色は流石に違うけど、確かに似ていた。
「似てる……? あれ、結構いける?」
「あとはたまに出る荒々しい口調治して、積極的に行動すれば完璧だねっ!」
「えっあぁ、うん。……うん?」
「さっそく真似していこうか!」
「あっはい」
「まずは声真似! 武田結由? の声を真似していこう! おーッ!」
「お、おー?」
※
真似してなんやかんやしたのが一昨日の話である。今日まで私はココへの理解を深めてきた。
結婚後ストーリーはなかなか重かった。なんでこの子両親死んでるのにギャルやってるんだ? とか思ってたけど、誰よりも元気でいて欲しいってお母さんの理由からってわかった時は若干涙が出そうだった。
ギャルになるにはよくわからんけど。この子のイメージはギャル=元気らしい。
両親から引き取られたのが主人公の両親の親戚らしい。無理がある設定が多いけどこれらに突っ込んだら野暮ってのを学んだ。フィクションだしね。リアリティは時たまあればいい。
ヘアカラーワックスで髪を染めて、サイドテールで髪を結ぶ。
ココと同じヘアゴムをつけて準備完了だ。ちなみに一時的に髪を染めることを親に話したら精神科行く? って言われた。泣きたい。
とにかくこれも好きになってもらうためだ。
意を決して家から出て、隣のコーくんの家のインターホンを押す。
『今行くよ、ゆつ……き? え? ココ?』
あぁ似てるんだこれ。
ももちゃん以外見せたの両親だからぶっちゃけ信用してなかった。
勢いよく扉が開けられてコーくんが出てくる。
「えっ、柚月だよな? ココじゃないよな?」
効果は抜群。目をゴシゴシして私のことをジロジロと見る。
「夢?」
なわけあるか、と突っ込みたいが私はゴホンと喉を整えて、話しかける。
「おにーさん!」
「お゛ぁ゛っ!? 武田結由のボイスだと!? 似過ぎだろ……、天使か?」
「一緒に、学校行こ? 今日はオタクのおにーさんのために、いーっぱいアニメ見てきたんだぁ!」
そう言って私はコーくんの腕を組んで胸を押しつけて……押しつけ…………。
……………………………………………………。
「押し付けられるかァ! 恥ずかしいわ!! うわぁーん!」
私は駆け抜けた。コスプレの恥ずかしさより胸の押しつけの方がよっぽど恥ずかしかった。十四歳のくせに大胆すぎるんだよココは……。
後ろからココって呼ぶ声が聞こえる。
最後まで私として見てくれなかった。悲しくなってきたね。
※
「悪かったって柚月。この通り!」
「許さない」
私は私でココの格好のまま学校に来てしまった。教室に入る前に色を黒色に戻した。装飾品はそのままだけど、外すのも面倒だからという理由でこのままにした。
「でも……ありがとな、柚月。急にコスプレし始めた理由はわからんけど……可愛かったよ」
「あっ、そ、そう……かな?」
やばい、めちゃくちゃ嬉しい。
好きな男の子に可愛いって言われるのは初めてかもしれない。
ニヤケが止まらないところで、ホームルームの開始を告げるチャイムが鳴った。
先生と一緒に、後ろから、オレンジ色の髪の毛にサイドテールに結ばれた、赤色の瞳をした女の子が入ってきた。
めちゃくちゃ見たことある見た目だった。
隣のコーくんを見た。過呼吸をしていた。
「バ、バカな……あの人は……!」
「えっ、知り合い?」
「ばっかお前。お前も知ってるはずだぞ」
「……?」
幼なじみ? いや、私とコーくん以外いなかったはず……。えっ誰?
「それじゃあ転校生を紹介するわね」
先生が話し始める。女の子は後ろを向いて黒板に名前を書いていく。
そこに書かれたのは武田結由という文字だった。
「はっじめまして! 武田結由でーす! 今日からこの学校に通うことになりましたーっ! よろしくお願いしまーす!」
そこにいたのはゴリゴリのギャルだった。
というか見た目……。ココやん。コーくんはともかく、ももちゃんも開いた口が塞がってないし。
声真似した私ならわかる。あれ本物だわ。
「あっ! 君もこの学校だったんだ!」
「「!?」」
指差した先は私の隣の席、つまりコーくんだ。というか知り合い!? うっそ、そんなことある!? き、訊かなくちゃ……!
「知り合いなの!?」
「いや、知り合いだったらとっくに自慢してるわネットでもどこででも! 嘘だろこれ夢だろ流石に……死ぬんちゃうか僕」
お前は知らないのかよ!
とか思ってたら結由はこちらに向かってきて、コーくんの頬にキスをした。
あまりに、日常的な動作で行われたので、脳の回転が追いつかなかった。
「じゃ、これからよろしくね? オ・タ・ク君?」
「…………」
「オタクくん?」
「…………」
「死んでる……」
キスしちゃったのは……もう割り切ろう。
……まさかの三角関係なの? これ。
勝ち目あるの私? ぶっちゃけないよなぁ……、コスプレの上位互換現れちゃったよ。本物のオタクに優しいギャルでしょあれ。
私これからどうしたら勝てるのかなぁ……。この恋が報われる日が、いつか来るだろうか。
というかオタクに優しいギャルは実在したんだ…………。




