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摂氏零度

作者: 楠 海

 不要不急の外出を謹んでください。

 と発表された週末に電車に乗っている。

 普段は乗客で埋まっている座席に座れたことも何ら喜ばしくない。平然と組まれたバイトのシフトにぎちぎちと歯噛みしながら、スマホの画面を惰性でスクロールする。

 長傘の先へ水が流れて、ゴム靴の足下で小さなたまりを作っている。車窓に雨粒がぱちぱちと音を立てて、細い筋になって斜めの線を描いていく。この季節とも思えないダウンにくるまって、やっぱり世界はどっかおかしいんだろうか、と、電車に乗って運ばれていく147センチの身の丈に合わないスケールのことを考えて、打ち消した。

 来る日も来る日も似たような話題で埋まり続けるタイムラインを流し読んでいて、ふと、指が止まった。見慣れない配色の小さなサムネイルをタップする。ひとつ、溜息が漏れた。

 重たげに満開の桜の枝に、更に積もる、春の雪。

 ひとつ目にとまれば、間をおかずにまた一枚、また一枚と、同じ配色の写真がいくつも流れてくる。上野。御苑。代々木。中目黒。

 どこにもひとがいない。

 またひとつ、溜息とも感嘆ともつかないものが漏れて、液晶から顔を上げる。車内に座る数少ない人々は一様に俯いて、無言のまま、自分自身に耐えているような風情をしている。

 目を移した窓の外に、大粒の雪が流れていく。雨の音は途絶えて。淡々と花を開いてゆく桜の上に、屋根の下で息をひそめる人々の上に、はるかな空の上に、雨粒を凍らす温度の空気が、すう、と流れこんできて。

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