外宇宙グルメレポート
「うまい!このもずく酢、どうしてこんなに美味いんだ!?」
このもずくの太くてもっちりとした食感はスーパーで売っている普通のもずくとは次元の違う存在だ。ずるずると、おいしいざるそばを啜るように私はお通しのもずく酢に夢中になった。
「ご主人、このもずく酢とってもおいしいですね!」
普段はこんなことは言わないのに、その時の私はもずく酢のおいしさの為か料理を褒めてしまったのだ。無視されたらどうしよう、と内心後悔もする。だが、気難しそうな中年の店主はニコッと笑いながら答えてくれた。
「それはどうも。うちのもずく酢はね、よそ様とはちょっと違う味つけにしてあるんですよ。だから初めてのお客様に喜んでいただけるかどうか心配でしたが、いや良かった良かった」
カウンターの奥で、店主は何度も頭を下げている。一見して気難しそうな顔をしているが、やはりこんなご時世に料理屋をやるくらいだから人間という生き物が好きな人種なのだろう。私はくせのある土佐酢のかかったもずくをさらにかけこむ。うむ。うまいものはうまいのだ。
「ところでこのもずく、とってもおいしいですね。生産地とか聞いてもいいですか?」
「よくぞ聞いてくれました。こいつは特別でしてね。今日はちょうどいいもずくが届いているからみてやってくださいよ。おい、ちょっとこっちに来てくれ。お客さんに自慢のもずくを見せてやってくれ」
もずくを取引している業者さんがいるのか。しかも店主さんの話では今日はお店に来ているらしい。私はお箸を箸置きに乗せて、この素晴らしくおいしいもずくを仕入れている業者さんが来るのを待った。お礼の一つくらいはいいたいものだ。
「どうも。もずく星人です。もずもず」
ハラりと暖簾を上げて一人の男が現れる。目の前に緑一色ならぬオールモスグリーンの怪人が現れた。私は呆れつつも納得してしまった。なるほど、このもずくはどうりでおいしいはずだ。こんなまるまると太った人間くらいの大きさのもずくなら絶対においしいに違いない。もずく星人は腕にカミソリを当て、もずくを削り出していた。それは毛深い外国人が腕の毛を剃っている姿を思い出させて、私の食欲をさらに刺激する。
もちろんインではない。アウトの方にだ。
もずく酢にかかっていた土佐酢と同じくらいの酸味を持つ唾液を喉の奥からこみ上げてくる。
毛糸の玉をつついて遊ぶ子猫の画像が表示されています。
「オラ、こんなに怒ったのは生まれてはじめてかもしれねえ。おめえらタダじゃおかねえぞ」
私は全身の気を解放して、もずく星人と店主の前に立ちはだかった。店主は頭につけていた鉢巻を外した。スマホに表示されている戦闘力が爆発的な勢いで上昇する。
四十万。
さらに上昇中。
なっ! 一億だと!?何て野郎だ。
オラ、ワクワクしてきたぞ!!!
「ゲハハハッ!さっきのは土佐酢じゃねえよ。俺様の汗だ!どうだ!うまかったか!?」
今のセリフだけ忘れることにした。
「もう絶対に許さねえぞ!」
こうして俺と店主ともずく星人の三つ巴の究極バトルが始まった。