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宛先のない手紙




「この引っ付き虫、ほんとに口が軽いんだからっ」


「わぁーっ、すいませんって言ってるじゃないですかぁ」


 昨日と同じく、放課後の教室。そこにいるのも昨日と同じメンバー。俺に琴野、そして三枝に満川と坂下。


 俺が満川に届いた手紙のことを確認したがっていると聞いた三枝がセッティングしてくれた。


 ただ、満川としてはやはり不本意だったらしく、俺に密告をした琴野に不満をぶつけていた。


 昨日より激しく、琴野の髪をわしゃわしゃと乱している。


 琴野が嫌がっていても体格差で、どうしても逃げられない。あれじゃ、元の髪型に戻すのには時間がかかるだろうというのは、男の俺でもわかった。


「満川、許してやってくれ」


「先生がそう無駄に優しくするからストーカーされるんじゃない?」


「ストーカー?」


「そ、そこまでしてませんってば!」


 顔を真っ赤にした琴野が、なんとか自力で満川から逃げ出して、完全に乱れてしまった髪型を隠すように、両手で頭を覆った。そんな様子を坂下が面白がって笑っていた。


「てか、本当に大したことじゃないんだけど」


「お前に妙な手紙が届いたんだろう?」


「妙って、ただの『不幸の手紙』だって。別に今更騒ぎ立てるもんじゃないよ」


 満川はどこか苛立った様子で、腕を組んで立ったまま、顔をしかめていた。


「しかし、宛先があったんだろう?」


「…………」


 それに返事はしないで、ばつが悪そうに顔をそむけた。


「おい満川」


 注意したのは三枝だったが、彼女は彼のそんな注意さえ「うるさい」と一蹴した。


「……見せてくれないか」


 満川は不機嫌そうにしたまま、ぶっきらぼうに手紙を渡してきた。


 渡された封筒は一見すると普通に見えたが、裏面の端に『満川奈央様へ』とシャーペンで書かれていた。今までにないものだ。


 そのほかは特に変わったところはない。封筒も綺麗なもので、汚れさえ見当たらない。


「中、見てもいいか」


「勝手にしなよ」


 封筒の中も確認してみると、やはり購買部の便箋だった。ただ、実際の内容は何もおかしなことはなかった。あの例の文章が書かれているだけだ。


 髪を抑えたままの琴野もそれを覗き込む。ただ、彼女も特別なことは見つけられないようで、首を傾げた。


「だから、ただの手紙だって言ったんだよ」


「しかし、宛先を書くなというルールがあるのに、わざわざお前の名前を書いているぞ」


「間違えたんじゃない?」


 それはないだろうという言葉を飲み込んだ。満川が真面目に答えているわけではなさそうだったからだ。


 四つしかないルールで、手紙にはっきりと記されていて、これを満川に届けた生徒も自分でそれを書いたはずだ。間抜けにも宛先を書いてしまうということはないだろう。


「変な手紙ですけど、奈央先輩の言う通りかもですよ? 案外、適当に書かれた手紙って多いからね」


 手紙の回収を任されていた坂下が言うからには、彼女たちの集めた手紙の中に、少なからず何か例外的な存在があったということだろう。


「その中に、宛先のあった手紙は?」


「いや、それはなかったかなぁ」


 だったら、やっぱりこの手紙が今までのものとは違うということだ。


「でもさ先生、気にしなくてもよくない? 実際、何も起きてないわけだし」


「……確かにその通りだが」


 俺は便箋を封筒にしまい、それを満川に返した。


「何か引っかかる」


「何かって?」


 そう反問されてしまうと、答えられない。違和感でしかないものだ。根拠はない。


「これって『不幸の手紙』を装ってるだけじゃないですか?」


 髪の毛を抑えながら、琴野がそんな疑問を呈した。思わず全員が視線を向ける。


「は?」


 あまりにも率直すぎる満川の反応にビクッとして、琴野は俺の陰に隠れた。


「だから、これは『不幸の手紙』の形をしているだけで、その……えええ、と」


 彼女が言い淀むことで、何を言いたいかを理解できた。


「なるほど。この手紙の差出人は、満川に脅しをかけている。そういうことか」


 琴野はこれが普通の『不幸の手紙』のような悪戯ではなく、それを装って、満川に「お前を不幸にしてやるぞ」と誰かが悪意を持って届けたと考えているんだ。


 つまり、これは手紙じゃなくて、脅迫状だと。


 だとすると、わざわざ宛先を書いたのも納得がいく。

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