例外から始まる謎
その翌日、二限目の授業が終わった後の休み時間に、琴野が職員室に訪ねてきた。
生徒は職員室の入り口までしか入ることが許されていないので、彼女はそこでソワソワとしながら俺を待っていた。
「どうかしたか」
琴野とは校内でよく出くわすし、会えば話をするが、彼女がこうしてわざわざ訪ねてくるのは珍しいことだった。
「せ、先生、三枝先輩から聞いてる?」
「三枝から? 何をだ?」
何のことかわからず、そのまま聞き返すと、琴野は「やっぱり」と肩を落とした。
「三枝先輩ならもしかしてって思ったんだけど……」
「琴野、何を言っているんだ?」
彼女が一人で納得したり落ち込んだりするのでついていけない。
「あ、ごめんなさい……。あの、昨日の手紙の件なんですけど」
「なんだ、何かあったのか」
思わず声が固くなる。昨日、三枝たちと話して問題ないと確認したばかりだ。急に琴野が訪ねてきたことに、危機感を覚える。
ただ、彼女は両手を胸の前で小さくぶんぶんと振った。
「いや、大したことじゃないんですけど……あの、満川先輩に」
「満川に?」
「手紙が届いたんです」
琴野の言葉にすぐに返事ができなかった。ほんの少し、俺たち二人の間に気まずい間が生まれたあと、小さく「ああ」と声を漏らしていた。
「そうか」
何事かと思ったら、驚くことでもなかったので、そんな反応しかできなかった。
手紙は不特定多数に届いている。今日、たまたま満川に届いただけ。そうとしか思えなかったからだ。
本当に何かあったなら三枝が必ず伝えてくるだろうし、連絡がないということは、別にこれを伝えなきゃいけないとは思わなかったんだろう。
実際、そうだと思う。
「しかし、何もないんだろう?」
手紙が届くだけで、実害がない。それが『不幸の手紙』だ。だからこそ、俺も深入りはしないようにした。
「はい。でも、なんか、違うんです」
「違う?」
「はい。手紙のルール、覚えてますか?」
「ああ」
さすがに昨日聞いたばかりの話を忘れてしまうほどの歳じゃない。
「満川先輩に届いた手紙には、宛先がついてたんです」
それがルールに反していることは、すぐにわかった。昨日見せてもらった手紙には『宛先を書いてはいけません』と書いてあった。
それなのに、今日、満川に届いた手紙には宛先があった。
「……満川宛だったのか?」
琴野がこくんと頷いた。
ようやく彼女が焦っている事情がわかった。今までとは違うものが、明らかに狙いを定めて届けられた。
嫌な予感がする。
「満川はどうしてる?」
「気にしてないって。ただの悪戯だからほっとけばいいんだよって言ってました」
なんとも彼女らしい対応だ。
「三枝もか」
「三枝先輩は先生に言おうとしてたみたいですけど、満川先輩が止めてました。私も止められましたし」
なるほど、それで三枝じゃなくて琴野がここに来たわけか。
三枝としては、大したことじゃないと言い張る満川と、何かあったら言ってくれと頼んだ俺との板挟みにあって、結果、今のところ何も起きてないから満川の言い分をくみ取ったんだろう。
ただ、琴野がおかしいと思って教えてくれたというわけか。
やはり、ありがたい。
「実物を見たいな。それに、状況を確認しよう」
昨日、生徒のレクリエーションだから深入りしないでおこうと決めたところだが、一日でそれを覆すことにした。
そんな俺の決断に、琴野はぱぁっと表情を明るくした。