ちょっとした裏事情
「満川と坂下が協力してくれてるのか」
「坂下は風紀員ですし、最初に手紙を受け取った奴ですから」
「そうなのか」
「はい。坂下だけじゃないんですけど、とにかく彼女が最初の方ってことだけは確実です。だからこそ、僕も早く手紙の存在を知れました」
三枝の説明では、坂下を始めとする女子数名に手紙が届いたことが発端だという。
坂下はこういうのを信じないタイプで、無視をしていたが、自分の周りで同じような手紙を受け取った子がいたことで、まずは満川に相談したらしい。
坂下は風紀員でもあるが、同時に満川と同じバレー部にも所属していた。満川も馬鹿馬鹿しい話だと思ってはいたものの、彼女の周りにも手紙を受け取っていた同級生が数名いたことがわかり、二人で三枝に報告したという。
「それで一応、調べることにしたんです」
なるほど、三枝の動きが早かったのはそういう事情があるからか。
「もう騒動もピークを過ぎたと思ったし、今のところ実害もないので、風紀員を駆り出すのはやめて、坂下と満川にだけ協力してもらってます」
「満川もか」
「三枝がずっとこの子をこき使うから、私も手伝わないといけないの」
俺たちの会話を聞いていた満川が、不満げに三枝を親指でさした。
「バレー部だって暇じゃないからさ。私はもう引退するからいいけど、坂下は練習しなくちゃいけないのに」
「第一発見者だし、仕方ないだろ。そもそも坂下と満川がもっと早く教えてくれていれば、こんなに流行る前に止められたかもしれないんだ」
「はあ?」
納得いかないといった様子で満川が声をあげると、すかさず琴野が彼女と三枝の間に入って「まーまー」と二人を落ち着かせた。
どちらも本気で怒っているわけではなさそうだったから、俺は口を挟まないようにした。
「……でも、おかげさまで助かってます。僕じゃ、こういうのは向いてないんで」
三枝が集められた手紙を見ながら、素直になった。
「この不幸の手紙、男子より女子に流行ってるみたいなんです。回収したり、情報収集したりするのは同じ女子じゃないと厳しくて」
「三枝、女子の間じゃ堅物ってことで嫌われてるし」
「うるさいよ」
満川がグサッとくるようなことを言うが、三枝も自覚があるのか、気にしてないようだった。嫌われてるというか、敬遠されているだけだと思う。
「まあ、今日は四通で、ピーク時に比べて減ってます。そろそろ捜査もやめようかと思ってます」
「え、ほんとですか!」
三枝の表明に坂下が目を輝かせた。その様子に琴野がクスッと笑った。
「ああ、あと少ししたらな。不幸は実際に起こってないし」
ちゃんと『あと少しは調べる』と強調する三枝に対して、坂下はようやく面倒事から解放されると聞いて、関係ないはずの琴野にハイタッチを強要していた。
「そういえば」
話を聞く限り、やはり教師が介入するようなことじゃないと思ったが、最後にこれだけは聞いておこうと思った。
「誰が流行らせたのかはわかっているのか?」
三枝、満川、坂下がそれぞれ目を見合わせて黙ったあと、三人そろって噴き出した。
予想外のことに、言葉を失ってしまう。
「いや、そこまでは調べてません」
「てか無理よ。こんだけの生徒の中から犯人見つけるなんて」
「そうだよー。そんなに悪いことしてるわけじゃないのに」
三人に続けざまに否定されて、それもそうかと納得せざるを得なかった。ずっとこのことを調べていた三人がこれだけ言うなら、その通りだろう。
「それもそうだな」
もし何か実害が出ているなら、指導が必要だが、今のところは手紙が独り歩きしているに過ぎない。犯人捜しまでする必要はないか。
それに満川のいうとおり、数百名いる生徒の中から誰がやったかを特定するなんて無理だろう。
「わかった。ただ三枝、何かあったら教えてくれ。必ず力になるから」
「わかりました」
「何も起こらないと思うけどねー」
三枝が神妙に頷くのに対して、同じ風紀員の坂下はどこ吹く風だ。
それから俺たちは手紙とは関係ない談笑をした後、解散した。
坂下と満川は部活に、三枝は自習のために残り、琴野は帰宅した。
俺は残りの仕事を片付けるために、職員室に戻った。