2人の協力者
一人は琴野と同じ二年生、もう一人は三枝と同じ三年生だった。
最初に俺に反応したのは、三年生の女子、満川だった。ポニーテールに束ねた黒髪が逆立ちしそうな勢いで、驚いて「うわ」と声をあげた。
そんな満川の反応で、二年生の坂下も俺に気づき、同じく「わ」と声をあげるだけではなく、持っていた手紙を落とした。
「……そこまで驚くことか」
なんだか二人の反応が予想以上で、少し凹むと、琴野が「だ、大丈夫ですよ」と背中をさすって慰めてくれた。
「いやだって、ヨッシー先生がいるなんて思ってないもん」
学年でもかなり小柄な坂下が、ぴょんぴょんと跳ねながらそんな主張をする。
隣にいた満川は坂下に「拾えって!」と突っ込みをを入れながらも、彼女の落とした手紙を拾っていた。
「すまないな、ちょっと手紙のことを耳にして気になっただけだ」
「で、馬鹿馬鹿しいから帰ろうとしてたってわけ?」
満川が四通の手紙を片手にして、それで顔を扇ぐようにしながら、クスクスと笑った。
一年生の頃、担任したクラスの生徒だった。あの時も女子にしては大きな子だなと思っていたが、この二年でさらに背が伸びた。バレー部で活躍できるのも納得だ。
「そんなところだ」
「ほんと真面目だよね。三枝といい、そうだけどさ。はい、これ」
満川が四通の手紙を三枝に差し出すと、彼は「助かる」と礼を言って受け取った。
「……で、そこの引っ付き虫は何してるわけ?」
「ひ、引っ付き虫ってひど!」
「まー、言われても仕方ないよねー」
満川が琴野に近づいていき、頭をくしゃくしゃとかき乱すように撫でた。それを坂下が笑ってみている。
本当に琴野の顔の広さはすごいなと思う。
「坂下は、そういえば風紀員だったな」
「そだよ」
「こう見えて、風紀員です」
前半部分をやたら強調する三枝に、坂下は「むーっ」と頬を膨らませた。
確かに、三枝のような真面目な生徒が風紀員と言われると納得できるが、坂下はちょっとイメージと違う。別に悪いことをするような生徒ではないが、校則や規律、そういったものを重んじるタイプじゃない。
「もう卒業しちゃったけど、好きだった先輩を追いかけて入っただけ。しかも告白もできなかったっていうね」
「ちょ、ちょっと先輩! そんなことまで皆の前で言わなくていいじゃん!」
琴野で遊ぶのをやめた満川が、そんな裏話を暴露してしまうと、坂下の顔がみるみるうちに真っ赤になった。
「今度校内放送でも言ってやるわ」
「サイテー!」
琴野や坂下という後輩を手慣れた様子でいじる満川は、俺と目があうと『冗談だから』と口パクで伝えてきた。そんなこと、言われなくてもわかっている。
「琴野は俺の案内をしてくれていたんだ」
「そうですよ」
「口実を作るのが上手い女っているんだよね」
「乙女はそれにかけては天才かも」
「うるさい!」
二人の登場で賑やかになった教室で、三枝は受け取った手紙を見つめながら、はぁとため息を吐いた。
盛り上がっている女子生徒三人を置いておいて、また彼と向き合う。