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いくつかの事例

「これ、全部同じ内容なんですか?」


 少し背伸びをするようにしながら手紙を覗き込んでいた琴野が三枝に確認すると、彼は「ああ」と頷いた。


「皆、自分に届けられたのを丸写ししてるんだ。どれも一緒だよ」


 三枝は箱からまた手紙を一通取り出して、それを開けて見せてきた。文字は別人のものだが、確かに内容は一字一句同じだ。


「字を間違ってる手紙は何通かあったけど、内容が違うものはなかった」


「……今の子は真面目だな」


 思わずそう呟くと、三枝も琴野もきょとんとした。そんな反応が面白く、苦笑してしまう。


「いや、俺の世代だったら、途中でアレンジが加えられただろうなって思ってな」


 こういうものは、途中で誰かが脚色を加えていく。この手紙でいえば、きっとルールはもっと増えているだろう。


 この学校の生徒は真面目なのか、相手にしてないのか、とにかく最初のルールにとても従事しているように見えた。


「ああ、それが購買部なんじゃないですか?」


 琴野が確認するように三枝に視線をやると、三枝がまた一度頷く。


「ここに書かれていないってだけで、ルールが増えてるんですよ。それが購買部の便箋だと思います」


 ああ、と声が漏れた。そういえば、四つのルールの中には一切、購買部のことは書かれていない。


 文字になっていないだけで、そういう迷信だけは、どこからか付け足されたらしい。


「琴野が言う通りです。最初はそんな噂なかったのに、購買部の便箋は、途中から流行りだしました。なんか、より不幸を回避できるようになるって噂が流れて」


「すごい便箋だ」


「そうですね、売り切れるのも無理がないです」


 俺の意地の悪い意見に、三枝も同じようにのってきたので、二人して笑った。


「最初の方に集めた手紙は、便箋はバラバラですよ」


 三枝はさっきの手紙を箱に戻すと、また別の手紙を取り出した。その封筒には『⑪』と記されていた。


 中から出てきたのは、女子生徒が使いそうなキャラクターがプリントされた便箋だった。ずいぶんと可愛らしい便箋に、似つかわしくない赤い文字が並べられている。


「ほかにもありますよ」


 三枝はまた別の手紙を取り出す。


 封筒から取り出されたものは、なんと便箋ではなく、ノートの一ページだった。よく見ると、明らかに定規を使って切り取った跡が残っている。文字も走り書きされたようなものだ。男子生徒だろうな。


「最初はこんな感じでバラバラでしたけど、琴野の言う通り、購買部の便箋がいいって噂が広まって、今はそれしかないです」


「円藤が喜ぶわけだ」


「売り切れてたら売り上げは上がらないですけどね」


 しかし、やはり今も昔も、こういうものに対する反応は変わらないらしい。


 付け足されたルール、というか迷信が『購買部の便箋が良い』とはなんだかよくわからないものの、皆がすぐ実践できる、簡単なものだ。


 ここで複雑なものを入れてしまうと、こういうものは一気に廃れるだろう。


 誰でもできるというのが、この手の流行りもので一番大切なことなんだと思う。紙と十円玉さえあればできるコックリさんが今も流行っているのは、そういう要因が大きい。


「一応確認させて欲しいが、これで何か被害は出ているか?」


 三枝は「まさか」と、首をぶんぶんと振った。


「怖がってる生徒ですら、少数派ですよ。皆、面白がってるだけです。だから先生たちが気に掛けるほどのものじゃないと思って、僕たちだけでなんとかしようとしてたんですよ」


 三枝がまた琴野を恨めしそうに見つめるが、彼女は「あははは」と笑ってかわしていた。


 のれんに腕押しと思ったのか、三枝が俺に向き直る。


「もともと、不幸が起きたからってそれが手紙のせいかなんてわからないです」


「それもそうだな」


「この手紙が流行り始めてから、学校で何か起こったりはしてませんよ。そりゃ、誰かと誰かが喧嘩したとかはありますけど、他には特に何も。平和ですよ」


 その報告を受け、少しだけ落ち着けた。三枝のことだから、嘘はないだろう。もとよりそこまで心配していなかったとはいえ、事情を把握している生徒にそう言ってもらえると、一気に気が楽になった。


「先輩はいつから調べてるんですか?」


「一週間くらい前だな。こんなのが流行り始めてるって報告があった。だから一応、気に留めておくことにしたんだ。あとで変なトラブルになってもダメだしな」


 こんなことまで気に掛ける生徒は、たぶん校内でも彼くらいだろう。職員室では『生真面目すぎてちょっと固い』という評価を受けているが、親近感がわいてくる。


「今も風紀員で調べてるのか」


「いえ、最初は委員会も動かしてましたけど、それも二日前にやめました。たぶん、大事にならないなって思ったので」


 事態を素早く把握して、調査が終わって問題ないと三枝が判断した結果だという。


「なら今は一人で調べているのか?」


「いえ」


 三枝が何か言葉を続けようとしたところで、ガラガラッと大きな音をたてて扉が開いた。


「いいんちょー、今日の分の回収終わりましたよー」


「今日は四通だったよ。減ってきてんじゃない?」


 教室に入ってくるなり、三枝に封筒を掲げて見せる女子生徒が二人。

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