現場検証 その2
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とはいえ、ここは本当に何も変わり映えしない。
ずらりと並べられたげた箱。俺が学生の頃は木製の古びたもので、ただ靴を入れるだけだったが、今はロッカーのようにちゃんとした扉に、カギまでついてある。
靴も部活動用の靴を収納できるよう、二足分入るようになっている。
そして一つ一つのげた箱には、ちゃんとネームプレートがされてある。
俺たちの前には『満川』と書かれたネームプレートがあった。
少し遠慮はしたものの、そこを開けようとしてみるが、カギがかかっていた。
「満川はいつもカギをしているみたいだな」
「先輩の場合、部活で使うスパイクも入ってるみたいですから」
一応、全生徒にげた箱のカギは閉めるようにと呼び掛けているが、面倒という理由でそれを怠る生徒も少なからずいる。
「あの日もそうだったんだろうな」
「それは間違いないと思います」
特に最近は手紙の件があるんだ、事情を知る彼女が警戒を怠るはずもないか。
「そういえば、手紙はどうやって投函されるんだ?」
改めてげた箱を眺めて、ここに扉とカギがあることを思い出した。
「たぶん、ここからです」
琴野が指さしたのは、げた箱の上部にある三本の細長い通気口だった。
「……入るのか?」
そこには当然、指なんてとてもじゃないが入らないし、少し厚手の紙でも疑わしいものだった。
「でも、ここしかないですよ。あ、やってみますか?」
「やってみるって何を?」
琴野は「ふふ」といたずらっぽく笑うと、ポケットから見慣れた手紙を取り出す。
あの『不幸の手紙』だった。
「な、なんで」
「友達から借りました。私も昨日から自分なりに調べてみて、三枝先輩たちが見つけてなかった子がいたんです
顔の広いやつだとはわかっていたが、たった一日でそんなことができてしまうとは、普通に驚いてしまう。
しかも琴野自身はそれをなんてことないと思っているあたりが、さらにすごいところだ。
ただ、これで貴重なサンプルが手に入った。
「試しに入れてみましょう。さすがに先輩のところでやるわけにはいかないので、私のところで」
二人で今度は琴野のげた箱の前に移動する。当然、げた箱の種類は全く同じだ。
満川と同じでカギもかかっている。
「じゃ、さっそく」
琴野がそう合図をして、通気口に手紙を入れてみる。
最初はすっと入っていったそれだが、途中で動きを止めた。
「どうした?」
「いや、なんか当たっちゃいました。あ、でも、大丈夫です」
琴野がさっきより力を込めて手紙を押し込むと、確かにそれはげた箱の中へ入っていき、すとんっと落ちていった。
「中の靴に当たったのか?」
「多分ですけど。それで少し止まっちゃったみたいですね」
琴野がカギを取り出して、げた箱を開ける。その時、どうしてか彼女は俺の方を見て、少し赤面した。
「あ、あんまりじろじろと見ないで、くださいね」
そんな前置きをしてくる。
「わかってる」
げた箱の中は二段構成になっていて、下段には彼女が好んで使っている明るいブラウンのローファーがあり、上段には運動用のシューズが収納されていた。
そして手紙は、扉との窮屈な間にあった。少し力を込めて入れたせいか、小さな折れ目がついていた。どうやら上段のシューズに引っ掛かったらしい。
「ただ、入ることは入るな」
「です。たぶん、先輩に届いたのも含めて、こうやって投函されたのがほとんどだと思います」
「封筒がなければ、もっとすんなり入るのにな」
そんな単純な感想だったのに、琴野がひどく驚いたような顔をした。そして慌てて腕時計を確認すると「あー」と残念がった。
「どうした?」
「……ちょっと、円藤先輩に訊いてみたいことがあったんです」
「ああ」
購買部は五時には閉まる。今はもう過ぎてしまっているから、琴野は残念がったんだろう。
一体何を訊きたいのかは、相変わらず教えてくれない。
秘密にしているというより、彼女自身、まだ考えが固まっていないようにみえた。
「明日、確認してみます」
「俺も一緒に行っていいか」
「も、もちろんです!」




