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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

コーヒーを一杯

作者: 酸素BOX

無我夢中で書きました。



「コーヒを一杯」


「かしこまりした」

 

 男が入った喫茶店には彼以外の客はいなかった。暇な時間帯なのだろう。

 男は女性店員がテーブルから離れると携帯を取り出し、取引先に電話をかける。男は営業マンだった。成績は普通、結婚はしているが子供はなく、別段夫婦仲が悪いわけでもない、どこにでもいる普通の中年。

 男がこの喫茶店に入ったのも仕事が早く終わり、時間が余ってしまったから。サボリや休憩目的などではなかった。

 いま、電話をしているのも、既に尋ねた取引先とこれからのことをより深く話し合うため。時間をより、円滑に効率よく使うために。

 電話を終えた男は、店に置かれた新聞を手に取り、目を通す。

 男はスポーツや経済には興味がなく、男が読むのは大抵、最近起きた大きな事件の記事。

 男にとって凶悪な事件や悲惨な事件は一種の優越感を得るための娯楽。

 誰かが殺されたが自分は何事もなく、一日を終える、誰かが事故で死んだが自分は特に何も考えず電車に乗る。それが男にとっての優越感。

 死んでしまった彼らより、自分の方が恵まれているのだと悦に浸るための物だった。

 そして、今日もいつもどおり凶悪事件などがないか記事をチェックする。

 特に変わった記事はなく、男の視線はどんどん進んでいき、やがて一つの記事で止まった。


「○○市で会社員が猟銃を持った男に打たれ死亡、死亡した男性は顔がまるで四方に引き裂かれたかのような跡があり、近くには奇妙な動き続ける肉片、下らないな」


 記事にはさらにこう書かれていた。

 猟銃を持った男は駆けつけた警察官にも銃を向け、お前たちもあいつと同じなんだろなどと繰り返し、射殺されたと。

 男の体には被害者の男性以外の複数の血液や肉片のようなものがこべりついていたと書かれている。

 男はつまらなそうに新聞を折りたたみ元の場所に戻す。

 男が先ほど読んでいた新聞は時折、オカルトじみた記事を載せることで有名だった。

 宇宙からの侵略者、古代の巨大生物、山奥で生き続ける雪男。

 どれも胡散臭く、今回のように被害者が出ることもあったが大半が人間による惨殺殺人だった。

 下らない記事を読んでしまったと男はがっくりとする。

 そしてふと、気が付く、あれからかれこれ十分以上は経っているのに注文したコーヒーが未だに運ばれて来ないことに。

 これがグラタンとか少し時間がかかる物を注文したのなら理解できる、だが男が注文したのは普通のコーヒーである。

 焙煎している事を売りにはしていなかったので恐らく既製品のすぐに用意することができるもの。それだと云うのに男の元に未だにコーヒーは運ばれてこなかった。

 何かあったのでは?とゆう心配ではなく男が抱いたのは怒り。いつまでもコーヒーを運んでこない店側に対して怒りを覚えたのだ。

 男は文句を言おうと自らが座る厨房からは隠れてしまい見ることができないテーブルから、大股でズンズンと向かってゆく。

 そして、厨房にたどり着いた男が文句を言おうと中を覗くと。


「おいっ、いい加減遅すぎるだろ!!一体何を……」


 強く怒号めいた男の言葉は尻すぼみしていく。

 覗き込んだ厨房、そこには誰もいなかった。

 軽い軽食を出すためのコンロにはフライパンが乗せられたままでトースタにはパンが入れっぱなし、そして男が頼んだコーヒーはコーヒーカップに入れられ、運ぶ直前だったのかミルクや砂糖と一緒にトレイの上に乗せられていた。

 その様子はまるで初めからこの場に誰もいなかったのではなく、突然人が姿を消してしまったかのようだった。

 異様な光景に男は異質な恐怖を感じテーブルへ荷物を取りに行こうとしたとき、足が何かを蹴飛ばす。

 男が蹴飛ばしたのはバケツだった。恐らく掃除用に店に常備されていたであろうプラスチック製のありふれた物。

 だが、バケツ以外にも箒やモップなどの掃除用具が全て厨房に放り出されていたのである。

 いくら、暇だからと言って掃除用具を全て出してまで掃除をするものなのだろうか?男の頭にそんな疑問が浮かぶ。

 この店はチェーン店ではなく、個人経営なのでもしかしたら、掃除をしようとしていたのかもしれないので断定は出来ない。だが、男のそんな疑問は掃除道具が置かれていたであろう、ロッカーを見て、吹き飛ぶことになる。

 何の変哲もない金属製の縦長なロッカーは厨房の奥にある、開けっ放しになっているスタッフルームの中に置かれていた。

 それ自体は不思議なことでもないし、特筆すべきことでもないだろう、だが。


「風の音がする……」


 すきま風といったほうがいいだろう。そのロッカーの中からは風が吹く音がするのだ。

 勿論、ロッカーの後ろがそのまま、外につながっていたりはしない、男が恐る恐るロッカーの裏側を調べてみるがそこには壁しかなかった。

 しかし、風の音は止むことなくなり続ける。

 狭い空間しかなく、風など吹くはずのないロッカーの中から。

 男は直感的に理解していた、このロッカーは開けてはいけないと、開ければ良くないことが起きると。

 だが、男がテーブルに荷物を取りに行くことはなく、ロッカーの真正面に立った。

 風は未だに吹き続けている。

 危険信号を鳴らし続ける理性を押し切り、男はロッカーの扉を開けた。

 瞬間、凄まじい風が吹く。

 凄まじい風に思わず顔を腕で覆ってしまう。

 やがて、風は弱くなり、男が目を開くとそこにはこの世のものとは思えないものが広がっていた。


「なんだ……これは……」


 そこは薄暗く、生臭かった。

 男が歩くたび、粘着テープの上を歩いているかのような感触がする。

 壁に手を付けば気持ちの悪い妙に柔らかい感触と胎動しているかのような振動が腕に伝わる。

 しかも、何かが刺さったのか鈍い痛みがしたうえ、意識が一瞬とびかける。

 男は頭を叩き、正気を保つ。

 刺か何かが刺さったのか男は気になった。

 だが、照明などどこにもないため、何がなんなのか、確認することができずに男は怯えながら進むしかなかった。

 薄暗い道をひたすらに進む男にはなぜか、来た道を引き返すとゆう選択肢がなかった。

 普通ならばすぐに引き返そうとするだろう。

 だが男は振り返ることすらせずに前に進んでいく。

 まるで何かに呼ばれるかのように。

 やがて、明かりが見えてくる。

 明かりを見つけたことで男の速度は早くなる。

 先程まであった粘着質な感触も消え、気が付けば男は走っていた。

 息を切らし、肺が痛くなるほどに。

 やがて、男が明かりの下までたどり着くとようやくこの場所の全貌が明らかになった。

 そのあまりにおぞましい光景は一言で言えば、グロテスクで生理的嫌悪感を一つに押し込めたようだった。

 柔らかく胎動しているように感じた壁は巨大な肉塊で人間のような形を残した肉片が取り込まれうごめいている。

 後ろを振り向けば、粘着テープのように感じた地面はところ狭しと潰れた人間の臓器がばらまかれおり、男は思わず嘔吐する。

 しかし、潰れた臓器の上に倒れることができずに、立ったまま吐き出す。

 やがて、全てを吐き出した男が正面を見ると少し先の方にエプロンをした男女が倒れていた。

 その中には男がコーヒーを頼んだ女性店員もいた。

 ならば、近くで倒れているエプロン押した男女は皆、あの店の従業員なんだろう。

 男は彼女たちを確認すると一目散に走り出した。

 男は彼女たちを助けるために走り出したのではない、一刻も早く、一人でいるとゆう、状況からの不安から抜け出すために、個ではなく集団に加わろうとしたのだ。

 一人に男性店員が男に気がつき、必死に助けを求めた。

 だが、それがいけなかった。

 突如店員たちの後ろにある潰れた臓器の地面が盛り上がり、奇妙な生命体が姿を現した。

 異形の生命体は顔が四方に引き裂かれ、中心にギザギザの歯が幾重にも連なっている、上半身と下半身に二本ずつ、計四本の鋭い刃物のような大きな腕を持っていた。

 その異形に驚き、男は動きを止めたが、喫茶店の店員たちは我さきにとその異形から逃げようと、男の下まで走りそして、腰を抜かした男には見向きもせず通り過ぎてゆく。そして全員、男に対して気味の悪いものを見るような顔をしていた。

 男は恐怖で声を出すことが出来なかった。

 やがてゆっくりと迫る異形の怪物を前に死を覚悟したとき、異形は現れたときと同じように地面と一体化して姿を消してしまった。

 男は状況を理解できなかったがとにかく、抜けた腰を無理やり持ち上げ、店員たちとは逆方向に走り出した。男のいた場所には大量の歯が落ちていた。

 そして、男がその場を後にした、すぐ後、複数の悲鳴が鳴り響いた。


 おぞましい世界を男はひたすらに走り続ける。

 男の体はとっくに消耗しているはずなのにむしろ、元気が有り余るくらいで、この空間位¥に慣れてきたのか、最初のような嫌悪感は感じない。

 やがて、男は扉のような物を見つけ、その扉を開けた。


 そこはどこか別の喫茶店だった。

 男が出てきたのはトイレの入口の扉。

 我に帰った男は急いで体を確認するが血どころか途中で脱ぎ捨てた靴や店に置いてきたカバンも抱えていた。

 だが、顔の中心から斜めに四本の傷がついてしまっていた。

 深くはないが少し、血がにじんでしまっている。

 手で触ると特に痛みはないので気にはなったが、どこかでこすったのだろうと思うことにした。

 男は変わった夢を見たものだと思い自嘲気味に笑う。

 一瞬、風が吹く音が聞こえ、体をこわばらせるが近くの窓に修理中と張り紙がされ、隙間から風が吹いていた。

 安心した男が、適当な席に着き、注文を尋ねに来た店員に。


「コーヒーを……」


 一杯、そう言い終える前に男の視界は四方に引き裂かれ、真っ赤なものが店いっぱいに広がった。

ホラー映画なんかをもっと見ようと思います。

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