寝る
ついに……すべてが揃った。
棺の形に形成された氷に封じられていた彼女が解放され、千年以上の時を奪い合われた書の上に置かれる。
「良かったねえ……だいぶ苦労してたもんね……」
他でもない私の手でバラバラにされた男が、血だまりのなか、虫の囁くような声でそう告げる。私は、消えてしまった左腕を見やった。傷口はまだ新しく、血が滴っている。
「……ええ、本当にね。……結局、あなたの目当てはなんだったの?」
「……ぐ、ふふふ……聴くのが遅いじゃないか……。教えてあげないよ。するかよ……そんな野暮なこと……」
「そう。じゃあさよなら」
「───そぅ……だ、…………」
目から命が消えて、それは物になった。
「さて、あとは、私の中のこれらを差し出すだけだ……」
私は残った腕で自分の胸を刺し、そこから石の欠片のようなものを抉り出す。これは自分と力の根元を結びつける、魔物の体にだけある器官。これを通じて力を蓄え、狼に変化したり火を吐いたりするのだ。
これがなくなってしまった私はもはや人狼ではない。蘇った彼女と仲良くできないかもしれない。それでも良かったのだ。
ころりと彼女の死体の上にそれを落とすと、本が脈動し始める。頁の隙間から手が伸び、それを掴むと潜るように消えた。そして、彼女の肉体を他の腕が掴み、本に引きずり込む。眼前のおぞましい光景を、私はただ眺める事しかできない。私は決して祈らないから。
しばらくして、本がバラバラに裂けた。その紙片の下から、彼女の手足が投げ出されていく。それはもう死んだ色をしておらず、それどころかとても鮮やかなピンク色をしている。
「お……おお……」
あれ
おかしい
何かが変だ
あんまり……嬉しくない……?
思い返せばこの腕もそうだ。全く痛くない。男が死んだことにも、まるで心が動いていない。
何かがおかしい。立ち上がるブランカを見て、そう思う。抱き締めたい気持ちひとつ浮かんでこないのだ。
それどころか体が動かない。
「ぶはっ…………夢…………?」
目を開けると、ひとりで床に倒れていた。ここは隠れ家で、本当に誰もいなくて……思い出してきた。
とはいっても、単に急に謎の眠気に襲われたという事だけだ。何時間ほど……ここでこうしていたのだろうか……?
「空気が合わなかった……とかそういうことでは無さそうね……」
起き上がろうとしてみて気がついた。左手を動かすことができない。右手は何とか動かせるけど、左手はどうやって動かすのかすらわからない。何故?いや、考えられるのはひとつしかない。
「……夢の中で、千切れたから……?」
「因果関係は逆だがね」
私の頭越しに、知らない人間の声がした。
やはり、これは攻撃なのだな。
執筆当時の予定表のようなものが見つかりません
つみです 整理整頓しなかった罪によって小説書けないレベルの詰みです 積み重ねで突破しろ