再会と考察
「さっきまでとてもいい気分だったんだけど、今そうでもなくなったわ」
人目につかないように隠れ家に帰ってきたリズは、そこにいた男の顔を見てしかめっ面をした。苦虫を噛み潰したような顔、が一番適した形容だろう。
「なんだよつれないな……まあいい。派手に汚しそうだから服とか持ってきたよ。調達できないだろう?」
「まぁね。コキ使われてくれるならついでに食べ物も頂戴。じゃないと毎夜毎夜人間が消えるわ」
ここまで大規模な街だと、好き勝手に人を殺す訳にはいかない。むしろ誰も殺してはいけない。すぐに強い人間がやって来て、徒党を組んで攻撃してくるらしい。一人二人なら対処できても、それ以上は厳しいものがある。そもそも狼の狩りは多対1が基本であり、1対多は無理なのだ。野生の動物もそこら辺はちゃんとわかっているので、一匹が襲われたら散り散りに逃げるか襲われている間に攻撃に転じる。ああ、人間もまあそうか。
「別にそれでもいいんじゃないか?ああいった能力を持った人間はレアだし、連続殺人とかに顔を突っ込んだりもするだろう」
男は実につまらなそうに言った。気配や匂いからして同族だろうに、どうしてこうも興味が無さそうなのか?いやそれより、何か言ったな今。
「能力?」
「あ、そうか。えーと、この世界には大々的には魔法は存在しないんだ。その代わり、個人個人の素質に深く関わった個性的な特殊能力が備わってる。君が戦ったのはおそらく他人からノミのように色々と奪える能力なんじゃないかな。近くのホームレスに話を聞いた限りだとね」
「ねえ、今この世界って言ったけど……」
「あっ、えーっと、端的に言うとここは別の世界で……あー」
「説明へたくそね。勝手に考察した方が早そうだけど、まだ続けるのかしら?」
頭のなかで情報を立てる。個別の能力、別の世界。こいつだって全てなんでもできるわけはない。つまり、世界を渡る能力がある、ということ?ひとつの世界を大きな国と捉えれば、船や馬車があれば旅行は簡単にできるだろう。それがあの黒い箱?少なくとも私が攻撃できなかったのはこいつの能力が原因だろう。個別にあるということは系統や理論的な考え方は無駄。人間の心は分類して区別なんてできるほど単純じゃないから。つまり……移動させたりさせなかったりする能力?……いや、こいつ一人だけとは限らないんだ。それこそ他人の能力で仲間と連絡を取り合ってタイミングを合わせれば……だからまだ判断するには早すぎるか。
「すごい思考速度だ……やっぱり能力者同士の戦いには向いてるね」
「──ッ!」
片眼鏡のようなものをいつの間にか着けた男が、私の思考を読んだかのようなことを呟いた。いや、まさか本当に?……とすると、物にすら能力を宿して……?
「そうだけど、違うよ。逆らわれても面倒だから説明はしないがね」
「ふん、説明がへたくそなだけでしょ」
「まあそれはそうである。その理解力は何をしても味方になってくれるだろう。……まあ、食べ物も追々用意するから、今回はお開きでいいかな?何か説明不足があれば、言ってくれればいいよ」
その言葉を残して、スッと男が消える。……だいぶヒントを得た。次は仮説を立てて、実践さえできればあの男の命にも届くだろう。