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ほかほか  作者: ねこ侍
第一章
93/193

第78話 最後の輝き

「……くぅっ」


 ゲキオチが小さい悲鳴をあげる。

 真空の刃によって肩当てが大きく切り裂かれ、血が滲みだしている。

 全身を包むフルプレートメイルの、ほんの僅かな継ぎ目を狙われたのだ。


 尚も真空の刃がゲキオチ目がけ放たれる。

 周りにいるアンデッドや下級悪魔数体が巻き添えとなり、物言わぬ肉片へと変わっていく。


「この距離じゃぁあ、なにもできねえぇだろうぅぅっ」


 声の主は、地獄に住む人面カマキリ「キラーマンティス」である。

 カマキリの胴体に、無理やりくっ付けたような若い男の顔。

 その顔は下卑た笑みを浮かべながら、両手の鎌を振るい真空の刃を次々と発生させる。


 ゲキオチとキラーマンティス、お互いの距離は約五メートル。

 どれだけ距離を変えようとも、執拗に距離をキープしながら追いかけて来る。


「……不愉快」


 ゲキオチはそう言うと一本の矢を手に直に持ち、大きくバックジャンプをする。


「させるかよぉぉぉぉっ」


 距離をどうにかして取りたいんだろ?

 自らも大きく跳躍してゲキオチを追いかける。


 先に着地をするのはゲキオチだ。

 キラーマンティスは未だ空中にいる。


 ひひっ、アーチャーの考えはわかってるぜ。

 空中で身動きを取れない俺が目当てなんだろう?

 さあ撃ってこい。

 動きが止まった瞬間、その首跳ねてやるぜぇ。


 キラーマンティスは歪な笑みを浮かべると、綺麗に折りたたまれていた羽根を広げ羽ばたいた。

 長時間の飛行は出来ないが、短時間であれば飛行が可能なのである。


 だがゲキオチは矢をつがえるでもなく、逃げるでもなく、今度は大きく前方にジャンプした。


 何ぃっ!?


 ゲキオチの行動に驚くキラーマンティス。

 アーチャーであるゲキオチが、自らの元へ飛び込んで来る等、予想だにしなかったのだ。


「くすくす……予想通り」


 ゲキオチに懐まで潜り込まれ、キラーマンティスは自慢の鎌を振るう事が出来ない。

 空中でぶつかり合い、そのままもつれ合いながら二人は地面に横向きに叩きつけられた。


 落下によるダメージは、さほどは無い。

 しかし立ち上がってきたのはゲキオチ一人だった。


 キラーマンティスは落下した体勢のままピクリとも動かない。

 驚愕の表情を浮かべたまま、絶命しているキラーマンティスの額には深々と矢が突き立てられていた。


「……はぁ」


 大きく肩で息をするゲキオチ。

 肩口に受けた傷は思いの外、深い。

 血が止まらず、呼吸に会わせて血が溢れる。


「ぎぃししゃぁぁぁ!!!」


 休む間もなく襲いかかる数体の悪魔。


「……はぁ……」


 敵の気配に反応して、もはや無意識に弓に矢をつがえ、照準を合わせる。

 しかし悪魔達はゲキオチにその牙を、そのツメを突き立てる前に首を飛ばされた。


「大丈夫かっ! ゲキオチッ」


 異変に気付いたステンレスが駆けつけて来たのだ。


「くすくす……ぼろぼろ……」


 ステンレスを一目見てゲキオチが笑う。

 その言葉通り、前線で戦っていたステンレスの装備はゲキオチ以上に無惨な姿となっている。

 鏡の様に美しく磨き抜かれていたフルプレートメイルは、今では見る影も無く、傷の無い場所を探す方が難しい。


「おーい、大丈夫?」


 クレンザーも近寄ってきた。

 ステンレスが抜けた事で前線を維持できなくなったのだ。


「おい、盾はどうしたんだ?」


 クレンザーのトレードマークともいうべき背中に装備していた盾が無くなっている。


「いやー、ベルトと持ち手、どっちも壊れちゃってさ。置いてきちゃったよ。敵の攻撃が激しすぎだよね~」


 そう言いながら、背後から飛び掛かってきたジャイアントスパイダーを、巨大メイスで吹き飛ばすクレンザー。

 辺りに見た事の無い色の体液が飛び散る。


 その時、背中を向けたクレンザーを見て、ステンレスとゲキオチはぎょっとする。

 盾の無くなったその背中は、深手と言っても良い大きな裂傷が見えたのだ。

 鎧も剥がれ、直接傷口が見えている。


「ヤッホー。みんな元気そうねー」


 そう言いながらティンクルもみんなの元に戻ってきた。

 そして、振り向きざまに追ってきたシャドーウルフの喉元を、真横に切り裂いた。


 だがその動きには、いつもの精彩さは無い。

 ティンクルも右足のすねに深い傷を負っており、その傷跡からは白い骨が覗いている。

 血止めはしているが、これでは本来の俊敏な動きをするのはとても無理だ。


「みんなひどい有り様だな。回復魔法かポーションをまだ使える奴いるか」


 みんなが首を横に振る。

 シンクの輝きのメンバーは全員が回復魔法を使う事が出来るが、もうその余力すら残されていない。


「撤退も無理だな_」


 シンクの輝きは、アンデッドや悪魔達に大きく包囲をされている形だ。

 そしてその輪はじわじわと狭まってきている。


「ティンクル。敵の戦力わかるか?」


「んーとね。雑魚は無数、中級悪魔が80体以上、上級が1体、最上級が1体」


「ん? 上級が一体減ったな。誰か倒したか?」


 ステンレスの問いに皆顔を見合わせるが、応えるものはいない。


「ま、どちらにせよキツイな……」


 無数の敵がシンクの輝きを遠目から囲む。

 じりじりと狭まる包囲網。

 恐らく指揮を執っている者がいるのだろう。


 二百七十八体。

 彼らがこの砦で倒した悪魔の数だ。

 だが、既に満身創痍の彼らにこの包囲網を突破する力は、もはや残されていない。


 互いの守るように背中合わせに円陣を組む四人。

 シンクの輝きは、今最後の輝きを放とうとしていた。


「お前達とパーティーが汲めて最高だったぜ」


 覚悟を決めたステンレスがバスターソードと己の手を紐で固く結ぶ。

 無言で頷く、ゲキオチ、クレンザー。ティンクル。

 肌でステンレスの覚悟を感じ取っている。

 そして皆、想いは同じであった。


「来るぞっ!!」


 巻き上がる土埃。

 巨大なサイの悪魔「ライノサウルス」が突進を仕掛けてきた。

 無理やりにでも四人を分散させ、力をそごうと言うのである。


「ふぅぅぅ」


 ライノサウルスの正面に位置するゲキオチが独特な呼吸法で、体内に廻る気の流れを整える、

 右肩が異様に張り詰め、ボロボロの肩当てがバチンと弾けとぶ。筋肉の過度な収縮により流れていた血は止まっている。


 そして闘気をつがえた矢に、錬気を込め一気に引き絞ると声高に叫んだ。


「ファイナルアローッ!!」


 ゲキオチから放たれた矢は、猛スピードで突進してくるライノサウルスへと一直線に向かう。


 赤い闘気と青い錬気を纏った紫色の矢は、ライノサウルスの厚い皮膚を容易に突破し、眉間から一直線に身体を貫通する。

 後ろにいた数体のアンデッドと悪魔が道連れとなる。


 どうっとその巨体を横向きに倒し、動かなくなるライノサウルス。


 だが怯むことなく、次から次へと悪魔が殺到する。

 一番消耗の激しいゲキオチを狙う作戦の様だ。


 敵がアンデッドや下級悪魔だけであったなら、おそらくシンクの輝きは撃退出来たであろう。

 だが実際には下級~中級悪魔を中心とした編成であり、上級悪魔や最上級悪魔もいる。

 これはもはや小国を落とす事も出来うる兵力であった。




 「はぁはぁ……」


 悪魔達の苛烈な攻撃が続く。


 返り血か、それとも自身の血か……。

 四人の鎧は赤く、更には夕陽に染め上げられ深紅に輝いて見える。


「なぁ、カミングアウトしていいか?」

 マッドデーモンの巨大なかぎ爪で盾が引き裂かれ、左腕から血が噴き出すステンレス。


「なぁに? いよいよ愛の告白? きゃー!」

 ショートダガーにひびが入りながらも、デスゲイザーの強靭な鱗にティンクルが連撃を仕掛ける。


「え! 俺は男はノーサンキューだぜ、リーダー」

 クレンザーの身体にエビルスライムの触手が無数に絡みつき、腕を首をギリギリと締め上げる。


「……くすくす……もうフラれた……」

 人面ユニコーンの鋭利な角によって、脇腹に深手を負うゲキオチ。


「実は俺……神なんて、これっっっぽっちも! 信じちゃいないんだぜぇっ!!」


「!?」


 ステンレスの衝撃告白。

 驚きすぎて、しばらく声も出ない三人。


 しかし、クレンザーが笑いながら最初に言葉を発した。

 

「あはははっ。実は俺もだよリーダー!」

 触手を力任せに引きちぎりながら、クレンザーがメイスの強烈な一撃をエビルスライムに叩き込む。


「ウケる~! 実はあたしもなの!」

 ティンクルがショートダガーを手放し、レイピアをデスゲイザーの眼に深々と突き刺した。


「……くす。わたしも……」

 矢が残っていないゲキオチは、残り少ない闘気を矢に見立てて、人面ユニコーンの眉間にカウンターの一撃を放った。


「そうなのかよ! じゃみんな天国には行けそうにねぇな、ハハハッ」

 ステンレスはバスターソードをマッドデーモンの胸板に突き刺し、そのまま縦に強引に切り裂いた。


 ドサッ。


 その時ゲキオチが崩れるように地に伏した。

 出血多量の為、意識を失ったのだ。


 すぐさまゲキオチを囲むように布陣を変える三人。


 敵の攻撃はより一層激しくなっていく。


 「死」

 

 あと数分で訪れるであろう命の終焉。

 だが冒険者となった以上、覚悟はとうに出来ている。


「リーダー……どうせやられるなら前に進んで倒れようぜ」


「はぁはぁ……さんせー。あたしはあの後ろで偉そうにしてる奴に一太刀でも浴びせてくる」


 ティンクルが睨み付けているのは、包囲網の外で指揮を執っている上級悪魔と最上級悪魔だ。

 一体は筋骨隆々のいくつもの腕を生やした悪魔だが、もう一体は華奢な女性の様に見える。


「いや、それなんだが……」


 二人の提案を遮るステンレス。


「お前らはゲキオチを担いで逃げろ。俺は【狂戦士】を発動させる」


 スキル【狂戦士】。

 理性と引き換えに、己の限界を大きく超えた能力を引き出すスキルだ。

 敵味方を問わず、一定以上の生命力を有する全てが破壊対象となる。

 例え腕が千切れ、足がもげようと、破壊対象が無くなるまで戦い続ける禁忌のスキル。

 解除条件はただ一つ。

 スキル発動者の意識の寸断である。 


「駄目よ! それは使わない約束じゃない、リーダー!!」


 このスキル最大のデメリットは理性を失う事でも、解除条件が特殊な事でも無い。

 破壊対象が一定の生命力を有する()()

 つまり己自身も含まれる事だ。

 例え敵を全滅させたとしても、その後己自身を死ぬまで攻撃し続けるのだ。

 無論、自分自身の攻撃にも手加減等は一切行わない為、意識の寸断など期待出来ない。

 

 これまで一度だけ使用した事があるが、その時は他の三人がなんとかしてくれた。

 だが今回はそれは不可能だ。

 発動したが最後、死は免れない。

 

 だがステンレスの望みはひとつだ。

 わずかでもこいつ等が助かる可能性があるのなら……。 

 死を受け入れた男の決意は固い。


「反論は許さん。五秒後に完全に発動するからな」


「リーダー!!」

「やだっ!! やめてよリーダー!!」


 クレンザーとティンクルの悲痛な声が上がる。


「5……」


 カウントを始めたステンレスの眼に狂気の光が宿り始める。


「4……」


 その身にまとう邪悪な気は、身に着けた鎧さえも黒色に変化させていく。

  

 しかしその時であった。


「その必要はナッシーーーーング!!」


 ステンレスが「3」までカウントをすすめた時、どこからともなく爽やかな男の声が、死の溢れる戦場にこだました。


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