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ほかほか  作者: ねこ侍
第一章
92/193

第77話 ぽむぽむ爆弾


「お主、凄いではないか! グレータードラゴンの角を砕き、且つ後退させるとは!!」


 ナムが心底驚いた表情をしながら、俺の手を取る。

 その口調や動作から、随分興奮している事が窺える。


「いやー、俺的には脳天をかち割ってやるつもりだったんだけどさ。弾丸が耐え切れなかったみたいだな」


 あえて平静を装ってはいるが、内心一番驚いているのは俺自身だ。

 自分の技ながらその威力たるや……。

 正直ビビりました。


「いやいや、大したものだな」


 ナムはしきりに感心している。

 ところでお前は何をやってるんだ?


「手持ちの爆弾では威力が全く足りんのだ。牽制にもならぬとはな……。何か材料になるものがないか探しておるのだ」


「そか。あ、そう言えば弾丸を作れるって言ってたよな。お願いできないか?」


「ん? ああ、その辺の素材から作れるが、先程のお主の技を見た限りでは、とても弾丸自体が耐えられんだろう……」


 ナムが片膝を付いて、片手を地面に、片手を宙にかざす。

 そして一言を発した。


「錬成!」


 すると宙にかざした手から、突如丸い玉がいくつも現れて地面にボトボトと落ちた。


 すげえ!!

 錬金術師ってこの時代で言う科学者かと思っていたが、どうやら違う一面もあるみたいだ。


 ただ、ナムが言うとおり錬成された弾丸を持ってみると、今使用している弾丸より遥かに軽い。

 硬度も低そうだ。

 確かに威力は期待出来そうに無い。

 

「この辺りの土壌にはあまり鉱物が含まれて無い様だ。すまぬ」


「いや、仕方ないさ。手持ちも無いんだよな」


「弾丸系は無いな……。今持っている素材は、この『虹色火薬』の入った火薬玉だけなのだよ」

 なんだそりゃ?


「ぽむぽむ爆弾に使うものでな」


 そうか、うん。

 もう一度問おう。

 なんだそりゃ?


「我がロック家に伝わる、秘伝の爆弾なのだがな。材料が足らなくてな」


「ひょっとして、それがあればあいつを倒せるか!?」


「いや、残念だがそれは難しいだろう……。だが間違いなく大ダメージは与えられるはずだ」


「それにしちゃ、随分と可愛い名前だな?」


「何を言うか! ぽむぽむ爆弾はロック家に代々伝わる至高のレシピ! その威力は山を砕き、海を割るのだぞ!」


 そんな大袈裟な……。


「じゃー、それを早く作ってくれよ」


「だから、材料が不足していてな……」


ナムが言うには、


・虹色火薬

・起爆薬

・人間、又はホビットの血液

・ドラゴンの唾液

・鉄


 が必要なのだそうだ。


 ん?

 それって……


「おい、それってほとんど、あいつの胃の中に揃ってるんじゃないか!? じゃあいつに虹色火薬と起爆薬を食わせれば爆発するのか?」


「いやそんなに簡単ではない。まず虹色火薬と起爆薬は混ぜてはいかん。虹色火薬だけ他の材料と混ぜ合わせた後に、起爆薬に高熱を与え爆発させなければならん」


 うむぅ。

 面倒だ。


「更に奴の胃の中じゃそれぞれの分量が滅茶苦茶な上に、一番大事な虹色火薬を少量しか持って来ていないのだ」


 そういってナムは、紙で出来た小さな火薬球をカバンから取り出し、自らの手の平の上に置いた。


「これだけ?」


「うむ」


 オーマイガー。

 それは本当に小さい火薬球。

 俺の【ころころ】でも余裕で操作できる程に……。


 ん?

 まてよ。

 じゃアレ使えるんじゃ?


 ピンと閃いた俺はナムに尋ねる。


「起爆薬はあるのか?」


「いや。だがその辺の材料で作れるだろう」


「本当か! じゃその起爆薬って液体か?」


 微かに希望が見えてきた。


「ああ、個体でも液体でもどちらでも構わんぞ」


「じゃ液体で頼む! あと起爆の条件って何だ?」


「起爆させるには、起爆薬を発火点である二百℃まで温度を上げれば良い」


 俺はポケットから「ミニ芋」を取り出して思考を張り巡らせる。


 これをああして……。


 あれは……こうだな……


 じゃ、次にあれを……。


 ……。


 …………。


 これは……。

 もしかして……。


 イケるかも!?


 どうせ俺には残された手はほとんど残されていないんだ。

 やるだけ……やってみるか……。


 死ぬかも知れない。

 だけど目の前でたくさんの命が次々と失われていく。

 一体何の為に、俺はここに残ったんだ。


 ――ヨースケ、お前は冒険者だろう!


 俺は自分自身に言い聞かせる様に、心の中で何度もその言葉を繰り返す。


「よーし、ナム! なんとか起爆薬を作ってくれ! 俺に良い考えがある!」


「うむ、わかった。何とかやってみよう」


 そして俺とナムは建物の影に隠れるようにして、いそいそと準備を進めて行くのだった。




「ガアアァァッ!!」


 グレータードラゴンの鋭い前脚の爪が真横に振り払われ、前方にいる騎士に向かって迫る。


「気硬法!!」


 大きな盾を構えていた重騎士は、自身の防御力を飛躍的に高めるスキルを使用し、グレータードラゴンの一撃を何とか防ごうとする。


 だがグレータードラゴンの鋭利な爪は、まるで豆腐に包丁を入れるかのように容易く、盾も重騎士の身体も切り裂いた。

 凄まじいスピードで、遥か後方にある城壁に叩きつけられる騎士の上半身。

 ……そこにあるはずの下半身は、見当たらない。


 と、


 ガシャン。


 音がした方向――重騎士がいた場所では、主を失った下半身が派手な音を立てながら倒れた。


 壁に叩きつけられた上半身は、ずるずると赤く太い線を壁に残しながら、落ちていく。

 もはやその姿は原型を留めていない。


「機動力の無い者は一旦後退しろ!! 防御は無意味だ!!」


 ナッツが有らん限りの声を振り絞り、隊員達に指示を出す。


 次々と命を散らしていく騎士達。

 五十名程いた騎士達は既に半数近くまで数を減らしていた。


 ランジェはグレータードラゴンの右後ろ脚に貼り付きながら、戦いに不慣れな騎士達が次々と倒れていく様を、ある意味冷静に捉えていた。


 冷徹なのではない。

 自身に恐怖という感情が生まれない様に、心を殺しているのだ。


 今、ランジェの心の水面は波風一つ無く穏やかだ。

 だが、ほんのわずかでも恐怖という石ころが投げ込まれれば、水面に広がる波紋の様に、瞬時に心の中に恐怖が広がっていく事をランジェは知っていた。

 

 「はあっ!」


 無心で大剣を振るう。

 硬い鱗に阻まれ有効な一撃は与える事は出来ないが、それで良かった。

 斬る事は難しくても、衝撃は与えている。

 それを証拠にグレータードラゴンは後ろ脚に度々訪れる軽い衝撃に不快感をあらわにしていた。

 あくまでもここに留まらせる、すなわち時間を稼げれば良い。


 住民の避難が完了するまで、または騎士団本隊が到着するまで。

 討伐の必要は無いのだ。


 と、不意にランジェの足下にサッカーボール大の、何かが転がってきた。


 視線を下に向けると、それは若い女性騎士の頭部。

 戦闘前にランジェに話しかけてきた騎士の一人だった。


「私の息子が貴方の大ファンなんです! まだ小さいんですけど、おっきな木刀を振り回しているんですよ」


 彼女との会話がフラッシュバックする。


 大きく見開いた両眼には涙が見てとれる。

 よほど怖かったのだろう。

 恐怖にひきつった表情をしたまま固まっている。


 視線が交差する。

 ランジェは、彼女から眼を反らす事がどうしても出来なかった。


 ドクン。


 一つ大きく鼓動を打つ心臓。


 しかし、その時ランジェの心に沸き上がったのは恐怖では無かった。


「はぁぁぁぁぁっ」


 大剣の切っ先に闘気を集中させる。

 十分に濃度を高めた闘気が、先端から流れる様に刀身全体を包み始める。

 これは「ハイム」には無い武技だ。


 武器の切れ味を増大させ、かつ破損率を低くする、ランジェの生まれた異世界「ガルムヘイズ」特有の武技。

 ランジェの戦闘能力が高いのは、様々な武技を修得しているからでもある。


 今、ランジェの心に渦巻いているのは、恐怖でも怒りでもなく、揺るぎ無い「決意」。

 

 命を賭けて今目の前にいる強大な敵を打ち倒す。

 その決意に呼応するかの様に、スキル【英雄】の効果が大きく上昇していた。


「ふっ!!!」


 短くも猛々しい呼気。


 鋭く突き出された大剣は、荒々しい闘気が渦を巻き、幾重にも重なった厚い鱗を貫通していく。

 そしてグレータードラゴンの後ろ脚に、深々とその刀身は突き刺さったのだった。




 ああっ!

 どうして効かないのよっ!


 あたしはイラついていた。

 火、水、土、風の四大属性魔法は一応試してみた。

 でもどれもあいつには効果は今一つ。


 ……ううん、訂正。

 今一つじゃないわ。

 贔屓目に見ても効果はゼロね。


 しっかし一体何なの、あいつの鱗は!?

 でかトカゲの分際で熱にも強い、衝撃にも強いって、魔導師のあたしはどうすればいいのよ。


「きゃああああっ」


 !!

 また一人の騎士が無惨にも噛み砕かれた。

 それはあたしより少し年上のまだ若い女性だった。


 でもあたしは決してその光景から眼をそらさない。

 それが勇敢に戦って、命を散らしていく者への敬意だと信じているから。


 あいつに取っちゃ、あたし達の事なんて活きの良い餌くらいにしか思っちゃいないんでしょうね。


 怒りと悔しさに奥歯を噛み締める。

 強すぎる圧力にぎしぎしと奥歯が嫌な音を立てる。

 じわりと口の中に広がっていく血の味。


「シジュール」じゃ戦場において命を奪う、奪われる行為は至極当たり前の事。

 その為に兵士は存在しているのだから。


 兵士たるもの無感情であれ。

 心は不要。

 ずっとそう教育を受けていた。


 うん。


 ふざけるな。

 あたしはあたし、ルナ・マテリアルよ。

 

 自分の信念、感情のままに行動するの!

 強い思いがふつふつと心の底から沸き上がってくる。


 ん……?

 その時あたしは何とも言えない違和感を覚えた。


「ぐがぁぉぉぉっ!!」


 はっ。


 でかトカゲが叫ぶ声に、すぐに我に返る。

 見るとランジェが右後ろ脚に大剣を突き刺しているのが見えた。


 さっすが、ランジェ!

 やるじゃないの!

 

 あたしも負けてられないわね。

 ランジェは【英雄】のスキルを解除したみたい。

 確か連続使用は負担が大きいんだっけ?


 でも充分。

 これで、でかトカゲの動きも少しは鈍くなるでしょ。

 あたしだって……ダメージを与えられないなら、せめて動きを阻害してやるわ。


「アースロック!!」


 一度に放出できる最大の魔力量で発現させたアースロックは、地面から大量の土をせり上げ、瞬く間にでかトカゲの左後ろ脚をかけ上がっていく。

 そして脚の付け根まで土色に染まると同時に、ファイアーウォールを発生させる。


 あいつは自分の脚が炎に包まれているにも関わらず、平然としている。


 ふふ、耐性のおかげでその程度の炎なんて意にも介さないんでしょう?

 馬鹿ね、そのままボーッとしてなさい。

 焼き固めてあげるわ。

 

 左脚にまとわりついた土は、炎に焼かれ水分が蒸発し、みるみる焼き固められていく。


 どう?

 傷を負った右脚と、固まった左脚。

 これで両方の後ろ脚が動かせ……。


 駄目かぁ……。


 でかトカゲは左脚を固められているにも関わらず、軽く持ち上げると、ぶるんと振った。

 アースロックにはあっという間にヒビが入り粉々に崩れ落ちていく。

 体重のかかった右脚からは血が吹き出ている。

 だけど、そんなのあいつはお構いなし。


 あたしの最大魔力で作ったアースロックは、容易く粉々にされた。

 結構ショックだけど、悩んでいる暇なんてない。


 ……こうなったら奥の手を出してやろうじゃないの。


「シジュール」でも数十人掛かりで発現させる、難易度の高い合成魔法。

 密閉された物体の中に大量の水を入れ、その周りに高熱の炎を纏わせる。

 これは簡易的な水蒸気爆発を起こさせる、戦争条約すれすれの大魔法。

 でも……今のあたしなら一人でも出来るはず。


 でかトカゲは床のゴミでも掃除するかの様に、地面に落ちている粉々になったアースロックの欠片を、その長い尻尾ではたいた。


 結構な大きさの土塊もあるのに、本当にゴミの様に軽々と飛ばされる。

 でも大した速度は出てないみたい。

 騎士達は避けるか、盾で防御している。


 一番大きな土塊が飛んでいく先は、っと。

 念の為に確認をしたあたしは、眼を疑った。


 は?

 あいつら戦闘中に何やってるの!?


 今まさに土塊が飛んでいく先、建物と建物の間。

 信じられない事に、ヨースケとナムがしゃがみこんで何かやっているのが見えた。


 やばい、直撃する!!


 叫ぶ?

 間に合わない。


 魔法?

 間に合わない。


 サーッ。


 あ……こういう事か……。

 あたしは血の気が引いていくって感覚を、リアルに実感した。


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