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ほかほか  作者: ねこ侍
第一章
91/193

第76話 グレータードラゴン

挿絵(By みてみん)


【カサンドラ第三騎士団分隊長 クリス・ナレンジア】


今は亡き父の、形見の剣を胸に――――


 騎士達はグレータードラゴンの左右へと別れていく。


 普段から良く訓練しているであろう事は、その迅速な動きから推測できる。

 瞬時に隊毎に散開をし、グレータードラゴンを包囲する様に動いていく。

 それぞれの隊は三人一組で編成されている様だ。


 グレータードラゴンはというと、騎士達の動きを観察しているのか、長い首をもたげて上空から舐めるように見下ろしている。


 俺はナムと一緒に後ろに下がり距離を取った。

 今は建物と建物の間に位置取りをしている。

 グレータードラゴンとは二~三十メートルは離れているが、それでも不安は拭えない。

 でかすぎて距離感なんてわからないのだ。


 はぁ。

 まだ心臓の高鳴りが治まらない。

 とりあえず【ころころ】がどれくらい効果があるか、確認しなきゃな。


 と、隊全体の動きを見回していたナッツが不意に叫んだ。


「クリス隊ッ! もっと離れろ、奴の距離内だ!!」


「えっ!? きゃぁぁぁ!!」


 右側面へ移動しようとしていたクリス隊。

 ちょうど俺達の正面にいたクリス隊に向かって、グレータードラゴンが上空から首を伸ばし襲いかかる。


 その距離で届く訳が……!

 俺にはクリス隊は、十分距離を保って居た様に見えていた。


 空気を切り裂く音がし、グレータードラゴンの頭が再び持ち上がった後、先程までそこにいたクリス隊の姿は消えていた。

 まさか……。

 

 突如、上空から聞こえてくる悲鳴。


 見上げるとグレータードラゴンの口の隙間から、必死に逃げ出そうとする三人の騎士の姿が見えた。


「嫌っ! 嫌ぁぁぁぁ!!!」

「た、助けてっ!!」

「ぎいぃぃやぁぁぁ!!」


「エッジウィンドッッ!」


 二階建ての建物の屋根から状況を見ていたルナが、風の刃を自身の周囲に無数に発生させ、その全てをグレータードラゴンへ放つ。


 バシィィィィィィッ!


 数十発の風の刃が、グレータードラゴンの眉間に寸分違わぬ正確さで連続で叩き込まれる。


 だが鋭利な風の刃は、強固な鱗によって全て弾かれてしまう。

 鱗には傷一つ付いていない様だ。

 グレータードラゴンは微塵も怯む様子をみせない。


 じゃ、これはどうだ!?

 俺もすぐさま一発の弾丸を発射させていた。

 距離は充分。

 

 一発だけだ。

 その一発のみに力を集中させる。

 ぐんぐん加速を繰り返した弾丸が向かう先は……


 眼だ!


 黒目をもう一つ増やしてやるっ!


 グレータードラゴンの右目に、加速を繰り返した弾丸が吸い込まれる様に命中した。


「よしっ!!」


 ッ!

 カキィィン…………!!


 しかし俺の予想と反して、甲高い硬質な音が響く。

 それはグレータードラゴンの悲鳴でもなければ、目がつぶれた音でもない。

 

 今の音は!?

 俺が放った弾丸は粉々に砕け散り、小さい破片となりパラパラと辺りに落ちていく。


「見ろっ! 奴め、眼に膜があるぞっ」


ナムが驚いた声をあげる。


 マジかよ……。

 ナムの言うとおり、よく見るとグレータードラゴンの眼は、うっすらと透明な膜に覆われていた。 

 二、三回瞬きをするグレータードラゴン。

 埃でも入ったくらいにしか感じていないのだろう。


「ちいっ! そやつらを放せっ!」


 ナムが円筒状の物体を脇に抱え、手製の爆弾を連続で発射させる。

 グレータードラゴンの身体の表面で起こる、いくつもの小爆発。が、それでも口を開く様子は無い。


「くうぅっ」


 グレータードラゴンの口から、何とか抜け出そうとクリスが必死にもがいている。

 他の二人はもうぐったりとして動いていない。

 背中に深々と牙が食い込んでいる。


 くそっ!

 今、助けてやるぞ!


 次はクリスを捕らえている牙を砕こうと、俺は狙いを定め続けざまに三発発射した。

 スコープ越しにクリスと目が合う。

 まだ幼さを残したその顔には、絶望的な表情が浮かんでいる。


「おかぁ……」


 ガギッ、ギリリッ、バキンッ!


 今まで聞いた事が無い、それは命が噛み砕かれる音。

 剣や鎧ごと咀嚼してやがる。


 クリスの悲鳴はすぐにやみ、グレータードラゴンの口の隙間から、鉄くずとなった鎧の破片や、頭部、腕、文字通り血の雨が地面へと降り注ぐ。


 くそったれ!!!


 俺は一瞬目眩に襲われた。

 脳に血液が集まっていく……顔が熱くなる感覚。

 今が現実なのか夢なのかわからなくなる。


「くそ! ハルっ! 指揮を頼むぞ。俺は奴の正面に立ち、なるべく注意を引き付ける」


「副隊長、危険です!」


 ナッツはそう言いながら左側面から、グレータードラゴンの正面へと躍り出た。


 グレータードラゴンが煩わしそうに前足で、ナッツを引き裂こうとする。

 ナッツは決して近づきせず、かといって遠すぎず、絶妙な位置取りでグレータードラゴンの注意を引き付けている。


 しかし、そうしている間にも犠牲者がどんどん増えていく。


「ロッソ! 真後ろは危険だよ! 尻尾が来る!」


 硬い鱗に阻まれながらも、後ろ足を斬りつけているランジェが叫ぶ。

 今の光景を見た恐怖心からか、少しでもグレータードラゴンの視界から遠ざかろうと、右後方から真後ろへと移動したロッソ隊。


 バウンンッ!!


 これが空気を切り裂く音かよ!


 高く掲げた太く長い尻尾が、真上からロッソ隊目掛けて叩きつけられる。

 咄嗟に盾でガードしようとするロッソ達だが、とても防ぎきれる重量ではない。


「うわぁぁっ、ホーリーシールドッ!!」


 ロッソが隊全員に防御結界を張り、グレータードラゴンの攻撃をなんとか防ごうとする。


 バンッッ!!


 だが、尻尾が上空に上がった後には、そこには生きている者はいなかった。

 ロッソ隊は無残にも押しつぶされ、地面に鮮やかな三つの血の華を咲かせた。


「くそっ!」


 遠くから見ていたらら、よくわかる。

 あの尻尾は、ほぼ予備動作無しのノーモーションで動く。

 近距離では避けるのは至難の業だろう。


 「こっちだ! デカブツッ!」

 

 ナッツがグレータードラゴンの正面に立ち、大きな声を上げ注意を引き付ける。

 大きく口を開けてナッツを噛み砕こうと、首を伸ばすグレータードラゴン。 


 「疾風破動っ!!」


 鮮やかな緑色の残像を残しながら、高速で移動するナッツ。

 グレータードラゴンの噛み付きを華麗にかわしながら、更に前へ前へと前進する。

 

 「不動崩斬っっ!!!」


 両手に握りしめたロングソードが土色の闘気を纏う。

 そしてグレータードラゴンの伸びきった首目がけて、剣を振り下ろした。


 バキィィン!!!


 しかしナッツの渾身の一撃も、硬い鱗に阻まれダメージを負わせることが出来ない。

 それどころか、あまりの衝撃と反発に剣を握った両腕が真上へと跳ね上がる。


「ちいっ、何て堅さだ! やはり通常のドラゴンとは別物か」


 すぐさま体勢を立て直し、グレータードラゴンから距離を取るナッツ。

 まだ、両腕が痺れているようだ。


 グレータードラゴンは、自身の射程距離外へと離脱するナッツをじろりと睨み付けると、蛇が鎌首をもたげるように長い首を伸ばし天を見上げた。

 口を大きく開き、見る見るうちにグレータードラゴンの胸が大きく膨らむ。


 なんだ……空気を吸い込んでいるのか?

 そしてピタリとグレータードラゴンの動きが止まった。


 ハルが大きな声で叫ぶ。


「ブレスの予備動作確認っ!! 総員回避行動に移れっ!!」


 吸った息を思い切り吐き出すかの様に、グレータードラゴンの口から、紅蓮に染まる高熱の炎が勢いよく放射される。

 直線状に伸びる数十メートルの火炎渦。


 グレータードラゴンは長い首を振り回し、前方をくまなく焼き付くす。

 それは巨大な火炎放射器。

 瞬く間に辺りが炎に包まれ火の海となる。


 数人の騎士が直撃を受け、全身を炎に包まれながら吹き飛び建物の壁に打ち付けられる。

 ルナがすぐさまウォーターウォールで炎を消すが、騎士達はぐったりとしており意識が無さそうだ。


「ごがぁぁぁっっ!」


 ひとしきり炎を吐き終えると、嬉しそうにグレータードラゴンが咆哮をあげる。


 周りにある露店や商店に次々と火が燃え移り、黒煙がもうもうと立ち上る。

 もう付近の住民の避難は済んでいるはずだが……。


 ルナは屋根から屋根へと飛び移り、火消しに必死になっている。

 土壁、水柱、旋風、あらゆる魔法を駆使し、建物への更なる延焼を防ぐ。


「ぐぁっ!」


 また一人の騎士が悲鳴をあげた。

 見るとグレータードラゴンの右前脚で押さえ付けられている。

 既にこちらの陣形は大きく崩れている。

 どの方向にいても安全な場所などもはや無い。


 何人かの勇敢な騎士が、押さえつけられた騎士を救出しようと、前足を斬り付ける。

 グレータードラゴンは正面に対するナッツを見据えており、足下で起きている事には興味が無い様だ。


 俺はチャンスを待っていた。

 牙を折る為に、ずいぶん前に発射した三発の弾丸。

 それは軌道を変え、今はグレータードラゴンのはるか頭上を円を描く様に飛び続けている。

  

 ドラゴンはようやく足元で騒いでいる騎士に気が付いたのか、空気を大きく吸い込み始める。

 再度ブレスを吐き足元を焼き尽くす気だ。


 胸が大きく膨らみ、一瞬だがグレータードラゴンの動きが止まる。


 今だ!!!

 くらえっ!!!


 上空をひたすら加速を繰り返しながら飛行し続ける三発の弾丸は、今や異常な速度に達していた。

 もはやそれは目で追える速度ではない。

 感覚だけで操作している。


「イーグルショットッ!!」

 

 音を切り裂き、自らが発生させた衝撃波によってその身を削りながら、三羽の鷹は一直線にグレータードラゴンの頭部へと向かっていく。

 グレータードラゴンは全く気付いていない。

 いや、例え気付いていたとしても、あの巨体じゃ避けるのは不可能だ。


 バキィィィィッッ!!


 天を突かんと鋭く伸びたグレータードラゴンの角の中ほどに、一羽目の鷹が急襲する。

 命中すると同時に粉々に砕け散るも、その命と引き換えにグレータードラゴンにもダメージを与える。


 ビシビシビシビシッ!!


 角の表面にいくつも発生する、大小様々な亀裂。

 それらはやがて一つの大きな亀裂となり、そして一呼吸の間を置いて、角は中程から砕け、折れた。


「グガォォォォァァ!!!」


 マジ!?

 自分で放った技ながら、何て言う威力!


 ドラゴンの角と言えば、最高級の硬度を誇る素材のはずだ。

 そいつを一撃で折った事は称賛に値するだろう。


 続いて二羽の鷹が脳天を急襲する。

 

 よし!

 これはイケる!

 そのまま貫通しちまえっ!!!


 最大限といっても良い程に加速を繰り返した弾丸は、空気との摩擦で熱を帯び、赤銅色に変色している。

 見た目はもはや鷹では無く隕石だ。

 メテオショットと名前を変えても良いだろう。


 バギィンッッ! 

 

 と、硬質な音が響くと同時に、狙い通り脳天へ弾丸が直撃をする。

 衝撃でグレータードラゴンの頭部が下に大きく下がる。


 どうだ!

 頭部は貫通して…………いない!?


 俺の願いは空しく、表面の鱗に弾かれて弾丸は二発とも砕けてしまった。

 グレータードラゴンを守る鱗は、相当に頑強なようだ。

 それでも重なりあう鱗を数枚吹き飛ばした様だが、決定的なダメージを与えるまでには至らなかった。

 だが、ドラゴンは脳を揺らされたのか、前足をあげ後ろ脚で立ち上がると、ぶるんと頭を大きく振り、一歩、二歩と後退をした。


 そのすきに前足に押さえつけられていた騎士が、他の騎士に引きずられながら脱出をするのが見えた。

 どうやら気を失っているだけのようだ。

 良かった……助かったか。


 しかし放った弾丸は三発とも粉々になってしまったな。

 材質が鉛だったからか?

 それとも速度を出しすぎて、当たる前から砕け始めていたからか……。


 残りの弾丸は後六発しかない。

 違う手を考えなきゃならないな……。


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