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ほかほか  作者: ねこ侍
第一章
87/193

第72話 ティンクル&ゲキオチ

「投石器とは……こりゃまた大昔の玩具を使いやがって」


「魔界は随分とおくれているね」


「くすくす……でも効果抜群……」


「何それ、ウケるー」


 カサンドラへと続く地下通路の入り口は、大きな岩の下敷きとなり見るも無残に崩れている。

 敵の使用した投石器によって、砦の後ろにそびえる岩山を崩されたのだ。


 だが、退路を塞がれたにも関わらず四人は軽口を叩いている。

 そんな四人目掛けて、直径一メートルはある大きな岩石が山なりに飛んできた。


「やれやれ。下がって」


 クレンザーが、すっと前に出る。

 そしてくるりと反転し、背中に背負った大型の盾を岩に向ける。


「さー、来いっ!!」


 凄まじい音と衝撃が響き渡る。

 岩は大盾に直撃をし、大小様々な塊となり砕け散ると、あらゆる方向へ飛散した。


 もうもうと舞い上がる土埃。


 盾越しとは言え、相当な衝撃があったはずだ。

 にも関わらず、クレンザーは少し足が地面にめり込んだだけで、涼しい表情を浮かべその場所に立っていた。


「ふっ」


「ふっ、じゃない! ほとんどこっちに破片が飛んできたんですけどー!」


 土や砂で鎧を真っ黒にしたティンクルが文句を言いにきた。

 ティンクルの足元には無数の岩や石が落ちている。

 砕けた岩の欠片は、その大半がティンクル達三人へと飛んでいったのだ。


「ふっ」


「ふっ、じゃねえ。後ろにいたのが俺達だったから良かったが……」

 

 バスターソードをぶるんと一振りしながらステンレスもクレンザーに詰め寄った。

 良く見ると兜が少し凹んでいる。

 ティンクルとゲキオチは上手くかわしたようだが、ステンレスは被弾したらしい。


「ふっ」


 皆に文句を言われながらも、尚も繰り返すクレンザー。

 顔を見合わせる三人。


「よし。あたしに一発殴らせて」


「……待って」


 ゲキオチが、肩をぶるんぶるん回し今にもクレンザーに殴りかかりそうなティンクルを制止する。

 そしてクレンザーに向かって言葉を発した。


「はっ、ひっ……」


 ゲキオチの意図に気づいたのかティンクルもステンレスも、はっとした様子でクレンザーを見つめる。

 これは何かを期待している。


 皆の視線が自身に集中する中、クレンザーが1歩前に出た。


「本当にすまなかった」


 そう言ってペコリと頭を下げるクレンザー。


「「「や~れ~よ~」」」





 地下通路を歩くランジェ達が聞いた轟音は、投石器の攻撃により砦があっけなく崩壊する音だったのだ。

 二棟建っていた物見塔も、直撃を受け今では見る影も無い。


 シンクの輝き達は、階段を途中まで降りていたが、異変に気付き地下通路へは入らずに砦の外へと飛び出していた。

 でなければ今頃は生き埋めとなっていたであろう。


 そんな彼らの眼前に広がるのは、大地を埋め尽くさんとするおびただしい敵の大群であった。

 地上だけではなく、空にも何体かの悪魔の姿が見える。

 おそらく下級悪魔のフライングデーモンだろう。


「めちゃくちゃいるな。大半はアンデッドだが……」


「悪魔っぽいのも結構いるね」


「あー、あいつら一丁前に足並みそろえてない? 生意気~」


「……三年前……思い出す」


 ゲキオチが思い出すと言っているのは、三年前に起こった「ニドヘルム独立戦争」の事だ。

 その時は理由あって傭兵部隊として市民軍に参加をし、今回同様、味方を逃がす為にしんがりを受け持った。


「あれね。まーあれよりはましだよな、同族で争うもんじゃないよ」


「悪魔相手なら……良心も……痛まない?」


「げげッ、あれヘルハウンドよ。結構いるわ」


「マーダースケルトンもいるな。アンデッドと間違うなよ。そこそこ手ごわいぞ」


 この時点でステンレスは、まだまだ自分達に勝算があると睨んでいた。

 アンデッドと下級悪魔しか確認できていないが、例え中級悪魔が何体か増えても問題ないだろうと考えていた。

 が、ティンクルの次の言葉に、その考えを大幅に変更しなくてはならなくなった。


 「激やば……。あたしの【感知】だと、中級悪魔が百体以上、上級悪魔が二体、更に最上級悪魔が一体いるわ」


「まじっ!?」


 クレンザーが首を降りながら、オーマイガーとポーズを取る。


「その数は厳しいな。じゃあ俺達もある程度時間を稼いだら、撤退するぞ!」


「くすくす……時間を稼ぐのも……厳しいかも」

 手に持った強剛弓にゲキオチが矢をつがえる。


「とほほ、ランジェ君達にも残ってもらえば良かったなー」

 クレンザーが頭上でぐるりとメイスを振り回す。


「やっば! あたし興奮してきた!」

 くるくると右手に持ったショードダガーを回すティンクル。


「なあに、俺達なら問題はないさ! 神のご加護のあらん事を

っ!」


 ステンレスが右手を高々と上げる。

 それに応じる様に他の三人も声高に叫び右手を上げた。


「神のご加護のあらん事をっ!!」



 先陣を切ったのは二刀流のティンクルだ。

 右手にはレイピア、左手にはショートダガーを持ち、敵陣目掛けて一直線に駆け抜けていく。


 途中、投石や弓矢が頭上から襲い掛かってくるが、右へ左へ瞬間移動の様に移動しながら距離を詰めていく。


「ん~。晴れ時々矢。ところによっては岩が降るでしょー」


 軽口を叩きながらレイピアを持つ右手に力を込める。

 このレイピアはある国王から授かった秘剣である。

 柄には絡みあう二匹の蛇の紋章が刻まれている。


「ピンク・スモーク!」


 レイピアの先端からピンク色の煙が勢い良く放出され、辺りをピンク色に染め上げる。

 この煙は姿だけではなく、気配や匂い、さらには魔力までも隠してくれる優れものだ。


 魔力、ティンクルを見失ったアンデッド達は動きが止まり、次の対象を探し始める。

 もう既にティンクルの事は忘れている様だ。


「おはよーっ!」


 と、元気な声と共にピンク色の煙の一番濃いところから、ティンクルが飛び出してきそた。


 そしてアンデッド達の数メートル手前で高く高く跳躍をする。

 フルプレートメイルを装備しているとは思えない、全く重さを感じさせない跳躍だ。


 そのまま一体のアンデッドの頭の上につま先立ちで飛び乗ると、次から次へとアンデッドの頭の上を飛び石の様に渡っていくティンクル。


 アンデッド達は、一番近くの者を襲う様に命令されているのだろう。

 軽業師の様に頭上を飛び回るティンクルへ方向を変え、追いかけようとするのだが、そこはアンデッド。

 腐り具合が個々で異なり、方向転換や追いかけるスピードもバラバラな為、あちらこちらで衝突事故が多発する。

 見る見るうちに崩れていく敵の陣形。


「やっばー。あたしってば大人気! きゃはっ」


 ティンクルは手が腐り落ちた大型のアンデッドの頭の上で、あぐらをかいて休憩中だ。

 頭に乗られたアンデッドはどうしてよいかわからずに、その場でぐるぐると回転している。


 そんなティンクル目がけて、上空から飛来する七つの影があった。


 下級の悪魔フライングデーモンである。

 ゴブリンに蝙蝠の翼が生えた様なこの悪魔は、偵察部隊として上空を旋回していたのだが、動きを止めたティンクルを見て攻撃のチャンスと考えたのだ。


 七体のフライングデーモン達が一斉に急降下をする。

 短剣、メイス、こん棒、皆何かしらの武器を手に持っている。


 先頭のフライングデーモンが、その身体に似つかわしくない長槍を構えながらティンクルに迫る。


 あと少し……。

 もう目と鼻の先だ。


 のんきにアンデッドの頭の上であぐらをかいている、あの馬鹿の頭に、手に持った短い槍を突き刺したらどんなに愉快だろうと、悪魔は残忍な笑みを浮かべる。


「キシシシッ」


 気配に気づいたのかティンクルが上空を見上げる。

 ティンクルのフルフェイスマスクに少しだけ開いている視界窓。

 悪魔がそこに手に持った槍を突き刺そうとした瞬間、視界からティンクルが消えた。


 と同時に背中にずしりと感じる重み。

 そして耳元で女の声が聞こえた。


「あら、ナンパ? いいよ、どこに行こっか」


 乗られたっ!?

 誰か早く、落としてくれっ!!


 悪魔は、他のフライングデーモンがすぐに背中から追い払ってくれるだろうと考えたが、その期待は次に彼が見る光景によって打ち砕かれる。


 それは自身の横を六体のフライングデーモン達が、力なく落ちていく光景である。

 頭部には深々と矢が突き刺さっている。


 ゲキオチが狙い撃ちをしたのだ。


 アンデッドの頭の上で、ティンクルが隙を見せたのはわざとである。

 敵がティンクルの方へ向かうと判っていれば、狙いやすくもなる。


 とは言え、ゲキオチがいる砦前からは、おそらく百メートル以上は離れているだろう。その腕前は推して知るべしである。

 アンデッドの混乱により悪魔軍の陣形が大きく崩れている中、冷静に状況を判断し、悪魔のみを仕留めるゲキオチ。


 ステンレスが指揮を取り、ティンクルが遊撃を行い、クレンザーが敵の攻撃を引き付け、ゲキオチが狙撃する。

 シンクの輝きが最も得意とするところである。


 最後に一体だけ残ったフライングデーモンは、背中からティンクルを落とそうと未だ必死にもがいている。

 だがティンクルは常人の域をはるかに超えたバランス感覚で、フライングデーモンの背中にまたがり、ロデオガールよろしく容易く乗りこなしている。


「あらら。あたしとのデートはそんなに嫌? ショックー」


 そう言うとティンクルは、はぁーと大げさにため息を一つ付いた。


「まあ、いっかー。空中デート楽しかったしー。じゃあね」


 フルフェイスの中でぱちりとウインクをするティンクル。


 そして、フライングデーモンの脳天に深々とショートダガーを突き刺すと、その背を蹴って宙へ身体を躍らせた。



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