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ほかほか  作者: ねこ侍
第一章
86/193

第71話 撤退せよ


 俺達は砦防衛戦の大勝利の余韻に浸っていた。

 次にペガサスナイトが定時連絡に来るのは一時間後。

 それまでは待機だな。


 魔導師達は魔力を消費しすぎて、ぐったりとしている。

 まあ、アンデッドならどれだけ攻めてきても、俺とルナがいれば問題が無いだろう。

 回復するまではゆっくりと休憩してもらおうか。


「ヨースケ! お前すげーな」


 馬鹿でかいメイスを肩に担いだクレンザーが話しかけてきた。

 背中にはこれまたでかい盾を背負っている。


「おかげで俺達ひまひまでさ~。楽できたよ、ありがとな」


「いや、実はぶっつけ本番の技だったんだ。うまくいって良かったよ」


「くすくす……あれって憑依? それとも使い魔の依代?」


 いつの間にかゲキオチもそばにやって来た。

 気配を殺しているのか、はたまた薄いのか。

 気づいたら側にいるな。


「え~と、どっちかって言えば憑依……かなー」


 依代って何だろ?

 とりあえず返事を返しながらも、俺は少し緊張していた。

 確かこの人達、有名人なんだよな。

 まさか話しかけてもらえるとは。


 恥ずかしくもあり、嬉しくもある。

 俺もやっと一人前の冒険者になれたのかな?

 って考えたら嬉しさが勝ってきた。


 ルナはティンクルと話をしている様だ。

 魔導師学会のメンバーもルナには興味津々だったから、後で質問攻めにあうのは間違いないな。


「ルナちんの魔法まじヤバいね! あんなに魔法撃てる人見たことないよー。良ければあたしとお友達になってくれない?」


 ルナの両手をぎゅっと両手でつかみながら、ティンクルが話しかける。


「え? いいの!? うん、じゃあたし達友達ね!」


 少し恥ずかしそうに頷きながら手を握り返すルナ。


「やったー。じゃこれからあたしの事は、ティンちんって呼んでー」


「えぇっ!? それはちょっと……」






 少し離れた場所ではステンレス、ランジェ、ナムの三人が集まっていた。

 それぞれ適当な木箱を持ち寄って腰かけている。


「敵は何の目的でアンデッドをこの砦に向かわせたんだろう。大して軍事的にも意味をなさない砦にも関わらずだ。ランジェ君はどう思う?」


 ステンレスがランジェに問う。


「はい。敵の戦力からしてもこの砦を落とす事が目的では無いと思われます。そもそも知能の無いアンデッドだけでは砦の占領は不可能です」


「そうだな。まあ結果論だが、ここ西方第三砦はわずかな戦力でアンデッド共を殲滅する事が出来たしな」


「だが、ヨースケ殿やルナ殿がいなければ、もっと戦いは拮抗していたのではないか? 敵からしても、この砦戦のあまりにも早い決着は予定外だと考えられるのではないか」


 ナムだ。

 今回、戦闘にはほとんど参加をしていない。

 戦況をいち早く見極め、自身の力は必要ないと判断したのだ。


「ほう。ナム、君の考えは?」


「この砦への進行は我々の戦力の拡散を狙った物だろう。おそらく他の十一の砦は、一進一退の攻防が続いているんじゃないか」


「ああ成程。つまり陽動、本命が別に有ると言う訳だな」


「それが自然ですよね。各砦からの兵や物資の補給も防げますし……」


 ステンレスとランジェが頷き、ナムの意見に同意する。


「さすれば本命は……」


「おそらくカサンドラだろうな」


 ステンレスの答えにランジェが問いかける。


「でもカサンドラを占領出来たとして、その後はどうする気なんでしょうか。確かに人類側にとってはカサンドラは重要拠点ですが……」


「我輩もその点には違和感を覚える。カサンドラの周りには、大都市や軍事上の拠点も多いであろう。例えカサンドラを占領出来たとしても、守るのは容易くないぞ」


「ま、敵の狙いがわからん以上は下手に動かない方がいいな。特に俺達冒険者はな」


 ステンレスはそう言うと右肩をぶるんと回した。

 ボキンっと関節が鳴る。


「お主……その鎧はいつも着ておるのか? 面当てくらい外したらどうだ、息苦しいだろう」


 ナムの問いかけに、急に小声になるステンレス。


「外したいんだがな……ここだけの話、実はこれ呪われてるんだ」


「えっ! そうだったんですか!?」


 ランジェが大仰に驚くのを見て、ステンレスが笑い声をあげる。


「わははは。冗談だよ、冗談。まあ顔が知られると生活しづらくってな、勘弁してくれ」


「もー。信じちゃいましたよ~」


「ふふ。貴殿も人が悪いな」


 長い髪をかきあげナムが笑う。

 その白い髪は陽に照らされ、銀色に輝いて見える。


「悪い悪い。そういやあ此処には現れなかったが、他の砦には悪魔の姿も確認されているそうだ。では黒幕は悪魔と考えるのは早計かな?」


「そもアンデッド発生に関しては、魔王アリスが関していると巷で聞いたな。まあ当てにはならんがな」


「僕は魔王アリスに実際会ったことがありますが、彼女は今回の件に関わっていないと断言します」


 強い口調で魔王アリスの関与を否定するランジェ。

 もちろん確証がある訳ではない。

 ただ善悪を見極める眼には絶対の自信を持っていた。


「俺も魔王城に観光に行った時に、魔王アリスを一目見た事があるが、邪悪なソレは一切感じなかったな……本当に魔王かと眼を疑ったよ」


「そうであるか……。まあ、悪魔が絡んでいるのは間違いないにしても、地上へ手引きした者はいるであろうよ。あの大量のアンデッドも解せぬからな」


「そうですね」


「悪魔共が己が力で地上へ現れた可能性は?」


「どうだろうな……。だがもしそうなら、世界を巻き込んだどでかい戦争になるな」




 俺達が談笑を始めて、しばらくすると東の空からペガサスナイトが伝令に来た。

 巨大な翼を広げ、羽ばたくと言うよりは滑空に近い形でぐんぐん近づいてくる。


 俺はペガサスナイトはもちろん、ペガサスを見るのも初めてだ。

 ペガサスには野生のペガサスと、牧場で繁殖させたペガサスがいるらしいが、軍用ペガサスは後者だ。


 馬体は白色ではなく栗色。

 少し傾き始めた陽に照らされて、何とも言えない美しさを漂わせている。

 馬上の騎士もペガサスも装備は実に簡素だ。

 おそらく重量を考慮しているんだろうな。


 ペガサスは地上には降りずに、空中で翼をはためかせるとゆったりとホバリングを始めた。

 良く見ると翼の下に気流が発生している。

 どうやらペガサス自身に風を操る能力がある様だ。


 伝令を聞きに、砦にいるみんなが集まってくる。

 休憩していた魔導師達もだ。

 最後にステンレス、ランジェ、ナムの三人がやって来た。


 ペガサスナイトはステンレス達が来たのを確認すると、多少早口で伝令を読み上げ始めた。

 そして、その内容に事態は風雲急を告げるのだった。





「馬上より失礼致します! カサンドラ東部に魔物の大軍勢が出現。カサンドラ東門へと進行中です。道中にある三つの砦は既に敵の手に落ちたと考えれられます」


 その伝令の内容に、ざわざわと動揺が広がっていく。


「東部の砦はどれも規模がでかい。それが落ちたのかよ!?」


 信じられないと言った様子のクレンザー。


「はい。友軍は撤退中であり、カサンドラ東門にて敵を待ち受けるとの事。敵は数万の規模で展開中。アンデッドを中心とした陣形ですが、多数の悪魔も確認されております」


「やはり本命はカサンドラであったか。で、我輩達はどうすれば良いのだ」


 ナムがペガサスナイトに落ち着いた様子で問いかける。


「この砦にもアンデッドと悪魔の混成部隊の接近が確認されております。下級の悪魔が大半ですが、中には中級の悪魔の姿も確認されています。直ちに本砦を放棄し、カサンドラへ向かってください」


「ちょっと待ってくれ! 今ここには魔力切れをおこしている者が多数いるんだ。カサンドラまでなんて無茶だ!」


 俺はつい大きな声を出してしまった。

 カサンドラ迄は相当な距離があるだろう。

 魔導師達にはとても無理だ。


「それにつきましては、馬車と御者を用意してあります。地下通路をご存知ですか? その先です」


 そんなものがあるのか?

 いや、ここも一応砦だからな……。


「それでは私は別の砦に行くため失礼致します」


 ペガサスナイトはそう言って、あっという間に西の空へ消えていった。


「悔しいがここは放棄しよう。完全に敵と戦闘に入る前に脱出するぞ。さっきの言葉通り、この砦にはカサンドラ方向へと抜ける地下通路がある」


 ステンレスがバスターソードを地面に突き立て、皆を見回す。


「資材置き場の裏であるな」


 ナムが指差す方向は砦の西南の隅だ。

 木箱や資材が雑多に積まれている。

 俺も弾丸の補充に少し行ってみたが、その時は気付かなかったな。


 うむ、と頷きステンレスが告げる。


「ではこれより我らは本砦を放棄し、大至急カサンドラへ向かうぞ。カサンドラ侵攻が敵の大本命だと思われる」


 ステンレスの決定に反対する者は一人もいない。

 確かにここにいても大軍に飲み込まれるだけだ。

 アンデッドだけならどうとでもなるが、悪魔も混じっているとなると話は別だ。


「では私に付いて来てください」


 兵士が手をあげ地下通路へと案内をする。

 最初、体育座りで何やら呪いの言葉を発していた兵士だ


「お、元気になったのか?」


「貴方方の戦いを見ていたら、そりゃ元気出ますよっ! 後でサインくださいね」

 

 資材置き場の裏に全員が到着する。

 地下通路の入り口は土色のカバーがかけられ、ぱっと見ではわからない様になっている。

 これは気付かないはずだ。


「しんがりは我らシンクの輝きが受け持つ。敵をなるべく食い止めてから合流する。ランジェ君、それまで指揮を頼めるかな」


「はい、任せてください。皆さんもお気をつけて……」


 ランジェを先頭にして地下へと続く階段を下りていく。

 シンクの輝きの四人を残して、俺は一番最後に階段を下りた。

 俺がちらっと、ふり返ると四人が地上から手を振っていた。

 

 またすぐ会えるよな……。

 俺も手を振り返してすぐに階段を下りた。


 魔法を使える者はルナを除いて、全員が程度の差はあれ魔力切れを起こしており、戦闘を行うのは難しそうだ。

 お互いに肩を貸しながらゆっくりと通路を歩いていく。

 シレットが光源魔法で辺りを照らしてくれている為、歩くには差し支えない明るさだ。


 俺は一番後ろを歩きながら、前方の人数を確認する。

 うん、ちゃんとみんないるな。

 あとはシンクの輝きが合流すれば問題ないな。


 と、思ったその時、

 凄まじい轟音と震動が俺達を襲う。


「みんな! 伏せてっ!」


 誰かが叫んだ。

 地面がグラッと縦に大きく揺れる。

 みんな即座にその場にしゃがみこみ、頭を低くする。


 だが、パラパラと落ちてくる小さい破片は俺達に届く事は無く、頭上の少し上の方で弾かれていく。

 どうやらシレットが少ない魔力で結界を張ってくれた様だ。


 揺れはすぐにおさまった。

 一体何だったんだ?


 俺は立ち上がり、全員の安否を確認する。


「よし、みんな大丈夫みたいだな」


 そうだ、シンクの輝き達は大丈夫かな?


 俺は背後を振り返り、地下通路の入り口の方を見る。

 そして俺は愕然とした。


 背後の通路は天井が大きく崩れ落ち、入り口へと続く道は完全に塞がれていたのだ。



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