第70話 西方第三砦防衛戦
「燃やし尽くせっ! プロミネンスファイアッー!」
「神泉より出でし邪を滅せよ……アクアホーリーズ」
「ほっほっ。新魔法の実験台になってもらうぞ。地流岩砕!」
「えーと。みんな飛んでけー」
さながら魔法の見本市だ。
あちらで火球が爆発したと思えば、こちらでは聖なる水柱がアンデッドを浄化する。
向こうで岩が崩れたと思ったら、そっちでは竜巻がアンデッドを空高く巻き上げる。
いやはやなんとも壮観である。
さすが魔導師学会に参加しているメンバーだけあって、かなりの手練れが揃っている。
だがそんな中においても、ルナとシレットの二人の魔法は群を抜いて強力だ。
「ライトニングサークルッ!!」
俺と一緒に左の物見塔に上ったシレット。
光り輝く光輪を頭上にいくつも出現させる。
光輪は高速で回転をしており、触れたら切れてしまいそうだ。
「さあ。行きなさいっ!」
それらはシレットが右手を降り下ろすと、眼下に蠢くアンデッドの群れへ向かっていった。
サシュッ!
シレットから放たれた光輪は、アンデッドの身体をいともたやすく切断していく。
腐っているのも相まってか、恐ろしい程の切れ味を発揮する。
そして特筆すべきは、聖魔法で在るが故に例えかすっただけであっても、アンデッドの動きを確実に停止させていくのだ。
どうやらシレットはアンデッドとは相性が良いみたいだな。
「あはははははっ!」
そしてこちらはもう見境なしだ。
右の物見塔にいるルナは、上から敵が固まっているところを見つけては、そこに向かってフレアバーストを、撃つべし、撃つべし、撃つべしっ!
バゴォォッ!
ズダァァンッッ!
ドゴォォォッッ!!
もはや戦争映画だ。
立て続けに大きな爆発が起き、アンデッドが粉微塵に吹き飛んでいく。
強力な魔法を連発させておきながら、ルナは疲労する様子なぞ微塵も見せない。本当にこいつはどうなってるんだ?
一方、砦入り口付近でアンデッドの接近を待ち構えていたステンレス達、近接職の者達は唖然とした表情で戦場を眺めていた。
「ルナちん……だっけ? ヤバくない?」
「くすくす……あたし達の出番……無い」
「うわあ~。ヨースケの隣のお姉さんも凄いな~」
「ははは。ランジェ君のパーティーは面白い子が集まるね」
「はい! みんなすっごく頼りになるんですよ」
A級パーティーであるシンクの輝きにメンバーを褒められて、嬉しさを隠せないランジェであった。
◆
さて。
魔導師達ばかりに美味しいところを譲る気はない。
俺も一つやってみるか。
物見塔に上ったのは、別に高い所が好きだった訳ではない。
ちゃんと考えがあって上ったのだ。
うまくいけよっ!
バシュッ!
まずは斜め下に向かってペレットクロスボウを一発発射させる。
加速はまださせないでいい。
重力も相まってか、中々の速度でアンデッドに向かって行く弾丸。
おっと。
アンデッドに当たってしまう前に、適当な高さで弾丸の軌道を地面と平行に変える。
そしてアンデッドの頭上を大きく円を描く様にぐるぐると旋回させる。
はい。
これで準備は完了です。
あとはひたすら……
加速!
加速!!
加速!!!
幾度も加速を繰り返された弾丸は、信じられない位の超スピードでアンデッドの頭上を大きく旋回をしている。
俯瞰で見ている俺の眼でやっと追える……そんな速さだ。
ちょっと自分でもひくくらい速い。
アンデッド達は、己の頭上を謎の高速飛行物体が旋回していると言うのに見向きもしない。ま、それはそれで丁度いい。
そろそろいいかな……
弾丸はアンデッド達の身長より少し高い位置を、猛スピードで飛行中だ。
これを少しだけ高度を下げるとどうなるか……?
俺はそっと弾丸の飛行高度を下げた。
最初に犠牲となった哀れなアンデッドは、一際身長の高いデカいカンガルーみたいな動物型アンデッドだった。
弾丸はそいつの上半身を一瞬で粉々に粉砕し、何事も無かったかの様に後ろにいたアンデッドの頭部をも吹き飛ばした。
弾丸は、己の進行ルート上にいるアンデッド達を容赦なく粉砕しながら飛行を続ける。
上から見ていると、弾丸の進行ルート上にいるアンデッド達が次々と弾け飛んでいくのが良く見える。
「よしっ!!」
想像以上の成果に思わずガッツポーズが出ちゃう俺。
俺が放った一発の弾丸は、生き物の様に縦横無尽に戦場を駆け巡る。
アンデッドに当たる度に多少威力は落ちるものの、そこは加速で補強してやればいい。
難しいのは高さだな。
上からみているので高さが感覚的につかみにくい。
まあ取りあえず落ちなければいいか。
適当なところで上昇させてやる。
この弾丸の無限飛行は前々から考えてはいたのだが、平地だとなかなか上手く行かなかったのだ。
それは弾丸が今どこを飛んでいるかが、感覚的につかめなかった点が大きい。
だが、高い場所から見下ろす形であれば、弾丸が今どこにあるかが容易にわかる。
もちろん小さい弾丸を完全に視認する事は出来ないが、ある程度の場所が分かれば操作できちゃうのだ。
【ころころ】は完全に対象を視界に捉えていなくても、感覚で操作できるのもメリットだ。
しかしこれは集中力が半端ないな。
味方の魔法をよけながら、迫りくる大量のアンデッドを倒していかなければならない。
少し眼を離すと完全に見失ってしまいそうだ。
「あなたのそれ凄いわね……憑依魔法?」
横にいるシレットが、次々と粉砕されていくアンデッドを見て驚きの声をあげる。
「んー、そんなところかな?」
俺はどう返答するか一瞬迷ったが、憑依と言えば憑依かもな?
俺の意思が動きを支配してるんだもんな。
「ゴブリンと死闘をしてた子とは思えないわね……。男の子ってすぐに成長するのね」
と、隣の塔から高らかな笑い声が聞こえてきた。
「ふはははははっっ!!」
もちろんルナである。
若干ハイになっているご様子だ。
右手には燃え盛る紅蓮の火球を、左手には巨大な氷槍を発現させている。
なんて器用な。
「ルナちゃんも凄いわね。ちょっとマジシャンズハイになってるみたいだけど……」
シレットはルナの魔導師としての実力に素直に感嘆しつつも、少し心配気な表情を浮かべるのだった。
◆
戦闘が開始されて一時間弱。
砦内には二つの笑い声が響いていた。
「「ぬわーっはっはっはっ!!」」
もちろん発生源は俺とルナである。
敵はあとわずかだ。
数千はいたであろうアンデッド達は、今やぽつぽつと姿が見える程度にまで数を減らしていた。
アンデッドだけではなく、相当数のアンデッドもどきもいた様だが、そいつらはとっくに逃げ出している。
残るアンデッドはもう百体もいないだろう。
「はぁ、疲れた……。あたしも後退させてもらうわね」
最後まで俺達と一緒に頑張っていたシレットが、ふらふらと宙を飛び物見塔から降りて行った。
シレットは申し訳なさそうな表情を見せていたが、一時間近くも魔法を使い続けるなんて実は凄い事なのだ。
シレット以外の魔導士はとっくに魔力切れを起こしてお休み中である。
「やれやれ。いいとこ全部持ってかれたな」
砦に運よく近づけたアンデッドを、難なくバスターソードで切り伏せながらステンレスが呟いた。
そして俺達は一人も怪我人を出す事無く、見事砦を防衛する事に成功するのだった。




