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ほかほか  作者: ねこ侍
第一章
82/193

第67話 持たざる者


 ガラガラガラガラッ!!


 森を出て街道まで進んだ俺達の前を、けたたましい音を立てながら大型の馬車が何台も通り抜けていく。

 一台通りすぎる度に猛然と立つ土煙に、思わず目を細めてしまう。


「何? 随分と物々しいわね」


 確かにな。

 俺達が普段乗っている乗り合い馬車とは明らかに様相が違う。


 馬車は二頭の巨大な馬型の魔物にけん引されている。

 太く逞しい脚や、顔や首、胴体の急所にあたる場所には頑丈そうな鉄当てを装着しており、見るからに「私戦えます」感があふれでている。


 馬だけではなく馬車自体にも装甲が施してあり、かなりの重量がありそうだ。

 それでこの猛スピードを出せるんだ。

 恐るべし馬力である。


 御者は居ない……?

 というか、通常御者が座る場所まですっぽりと馬車本体の中に納まっている。


 恐らくだが、馬車の中から馬に指示を出せる様になっているのだろう。


「軍用の馬車だよ。何かあったのかな?」


 ランジェが心配そうに次々と通りすぎていく馬車を見送る。

 と最後尾を走っていた馬車が、俺達から少し離れた位置で止まり、一人の男が降りて来た。


 男は革鎧とロングソードを身につけている。

 俺もほとんど同じ装備だから偉そうな事はいえないが、かなりぼろぼろですな。

 年齢は40代位かな?

 人の良さそうな笑顔のその男はこちらに近づいてくる。


「おーい。あんた達、冒険者だろう?」


 俺は素直に「はい」と答える。


「俺も冒険者なんだが緊急招集を受けてな。カサンドラ周囲に点在する砦にアンデッドの大群が進行しているんだそうだ。付近にいる冒険者は応援に向かえってさ」


 い~っ。

 アンデッドの大群?

 少し休みたいとこなんだが……。


 ちらりとルナの方を横目で見る。

 まあ、行くことになるんだろうな~。


「どうする、あんた達行くか? まだ馬車には余裕があるぞ」


「もちろんよっ!」


 やっぱりな。

 まあ予想通りというべきか。


「と、言いたいところなんだけど……」


 あれ?


 このまま馬車に乗り込むのかと思いきや、だ。

 面倒事が大好きなこいつが……珍しい事もあるんだな。


「まずはアリスに報告しにいかなきゃね」


 おおおおお。


 ルナは当たり前の事を言っているだけだ。

 が、俺はとても驚いている。


 まあ、今回のゴーレム退治は、アンデッド発生の疑いをかけてしまった事に対する、いわばお詫びだ。(報酬はもらうけど……)

 ルナもやっぱり気にしているんだろう。


「招集される冒険者のランク制限は無いんですか?」


 ランジェが冒険者の男に尋ねた。

 そういえば前にBランク以上の冒険者は招集される事があるって言ってたな。


「ああ、制限無しだ。元冒険者や傭兵なんかまで召集されてるってよ。でもあんた達随分汚れてるな。たった今激戦をしてきましたって感じだな、あっはは」


 ええ、たった今激戦をしてきましたよ。


 男の返答を聞いたランジェは、少し考えると真面目な顔をして俺達の方を振り返った。


「Bランク以下の冒険者にまで召集がかかるって、よっぽどの緊急事態だよ。行かなくちゃ」


「そうなのか? ま、アリスへの報告は後回しでもいいよな。行くか」


「それなら仕方ないわよね……行きましょうか」


「助かるよ、じゃ馬車に乗ってくれ。ああ、そのでっかい剣も入るから問題ないぞ」



そして俺達は軍用馬車に乗り込むのだった。




――馬車内――



「俺はアサクラ。フリーの冒険者だ、よろしくな」


 俺達に声をかけてきた男だ。

 馬車内は左右に向かい合うように座席が配置されていて、俺の横にアサクラは腰かけている。


 話を聞くと、アサクラは最近冒険者登録をしたらしい。

 ずっとある町で役所勤めをしていたが、リストラにあってしまいやむなく冒険者に転職。

 装備は中古ショップで手に入れたそうだ。


 大変だな。

 やっぱりどの世界でも似た様な事はあるんだな。


 と、


「吾が輩の名前はナムだ。錬金術を少々嗜んでおる、よろしくな」


 俺達の向かいに腰かけている男も声を掛けてきた。

 白衣と眼鏡を着用しており、白く長い髪が特徴的だ。


 とはいえ老人では無いな。

 俺と同い年位だろう。


 少し神経質そうな雰囲気に、知性を感じさせる顔立ち。


 ぱっと見は冒険者には見えないな。

 錬金術って言ってたから医者か薬剤師か……。


 俺達の他にはアサクラとナムしか乗っていない。

 詰めれば後十人は乗れるだろうが、外はアンデッドだらけだ。 

 もう誰も歩いてはいないだろう。

 増員は難しいな。


 横ではルナが俺達の事を超テキトーに自己紹介している。

 なんじゃ俺の職業、イモマスって。


 ……ああ、芋マスターか?

 解ってしまう自分が悲しい。


 ナムは「いもます? 変わったジョブ名だな」と言って紙にメモしている。

 ごめんなさい、紙の無駄です。


「僕達はどこへ向かっているんですか?」


「それはだな……」


 ナムが長い白髪をかきあげながら、説明をしてくれる。


「知ってるかもしれんが、カサンドラには十二の砦が存在する。北の魔王の襲来に供えて作られたものだから、カサンドラ南部には建てられてはいないがな」


 そういや確かカサンドラでもらったパンフレットに書いてあった気がする。

 カサンドラの歴史とかなんとか。


「どうやら今回は、その砦全てが同時にアンデッド共に襲われているらしいのだ」


「えぇっ! 十二個全部!?」


「そうだ。そして俺達は西方第三砦に向かっている」


「敵は!? 太古の邪悪な魔導士が復活したとか??」


 ルナが興奮気味にナムに問いかける。


「流石にそこまでは解らん。だが悪魔の姿も報告されている様だ。気を付けなければな」


 悪魔……。

 俺はライアーデーモンの姿を思い出し、ぶるっと身をすくめた。

 

「俺達がこれから向かう砦は、最後に敵の接近報告があった場所だ、それ故に砦兵が少ないらしいんだ。まあお互い頑張ろうな!」


 そう言って隣のアサクラが拳を握り、俺の方へ突き出した。

 アサクラの固く握りしめた拳は、よく見るとぶるぶると震えている。

 

 まあ最初は怖いよな。

 でも相手がアンデッド中心なら多分大丈夫だろう。

 最悪俺達に任せてくれればいいさ。


「ああ! 頑張ろうぜ」


 俺も強く拳を握りアサクラの拳と重ねたのだった。





「あと十分程で砦に到着します」


 御者の男が報せる。


 ぷりぷりっ。


 え~と、今俺の目の前にはアサクラのけつがある。

 客車の真ん中でけつを出しながらうつ伏せになっているアサクラ。

 色々あって、アサクラはそのまま馬車に残り、カサンドラへUターンしてもらう事にした。


「む、無念……」


 アサクラが呟く。

 馬車の振動に合わせてぷりっと揺れるアサクラのけつ。


 一体何があったのか……それはほんの三十分前の事だ。



「この辺もアンデッドが多いわね」


 ルナが小さい覗き窓から外を眺めて、溜め息混じりに呟いた。


「そうなのか?」


 俺の近くには窓がない為、外の様子はわからない。

 この馬車には最低限の窓しか付けられていない。


「アンデッドなら倒した事あるぞ」


 横ではアサクラが鼻息荒くアンデッド退治の様子を熱弁している。

 最近、ギルドの依頼を受けて大人数での討伐作戦に参加したらしい。

 パーティーも組まずに、一人で金銭を稼ぐのは中々に大変みたいだ。


 まあ外にどれだけのアンデッドがいようとも、俺達が乗っているのは軍用馬車。

 恐ろしい馬力で、アンデッドなぞ道に転がる石ころ同然にはね飛ばしながら、順調に砦へと進んでいた。


 だが、一ヶ所だけ軍用馬車に休憩をとらせたところで、戦闘になったのだ。

 しかし相手はアンデッドドッグ一体。


「放っておけば良い」とナムは言ったのだが、「アンデッドなら任せてくれ」と、アサクラが馬車を降りたのだ。


 意気揚々と馬車を降りたはいいが、そいつは実はアンデッドドッグでは無くもどきだった。

 さんざん逃げ回った挙げ句、おしりを噛まれて馬車に逃げ帰ってきたのだ。



 まあ、あいつは初見じゃ難しいよね。

 俺も殺されそうになったからよく分かる。


「む、娘に、パパは勇敢に戦ったと伝えてくれ……」


「大丈夫だ! 傷はビックリするくらい浅いぞ!」


 アサクラの尻にはちっちゃい歯形がついていて、うっすらと血が滲んでいた。

 どうやら噛み付いたのは子供のもどきだったらしい。


 ナムがバッグから塗り薬を取り出し、アサクラの尻に塗ってあげている。

 見た目とは違い実は優しいんだな、この人。


「アサクラよ。功をあせる気持ちはわかるが、お主が一番大事にしているのはなんだ?」


「大事に? か、家族だ」


「そうだ、家族だろう。そしてその家族もお主の事を同様に大事にしているはずだ。お主が怪我をすれば家族は深く悲しむ。いいかアサクラよ。家族を悲しませる男は如何に勇あれど、心無きに等しい」


 そう言ってナムはアサクラの尻をペチっと叩いた。


「ほれ、尻はもう大丈夫だ」


 ナムは塗り薬の入ったビンの蓋を閉めている。

 なんだろう、ニベアみたいな匂いがする。

 結構好きなんだよな、こういう匂い。


「それってなあに?」


 ルナが鼻をひくつかせながらナムの手元のビンを指差す。


「ああ、これは塗り薬だ。傷口に塗ることによって、外界の不浄を遮断し、自身の再生能力を使って傷を治すのだ。ニ~三日もすれば治るだろう」


「えー。ヒール系の魔法の方が効率的じゃない?」


 それを聞いたナムは少しだけ首を横に振る。


「知っておるか? みながヒールに頼るようになってから、怪我や病気に対する抵抗力が減少傾向にある事を。数十年前にはかかるはずのなかった病にかかる者も増えてきている。ああ、魔法を否定する気はないぞ。だが己の怪我や病気に対する抵抗力を高める事も大事なのだ」


 ふ~ん、そうなの? とルナは興味なさそうな素振りをしているが、俺はナムの言いたい事はなんとなく理解できた。

 科学よりも魔法が発達したこの世界で、ナムの様な研究をしている者はおそらくそう多くはない。

 錬金術って孤高の学問らしいが正にその通りなんだろう。


 今まで俺は錬金術師は「怪しくて危ない研究をしている人」と勝手なイメージを抱いていた。

 が、ナムに出会って俺の中の錬金術師のイメージが少しだけ

変わった。


 ナムがもしも地球に転移したら大興奮するだろうな。

 ふふ。

 見せてやりたいな。


「ナムさんは冒険者では無いですよね。何故、今回の防衛作戦に参加されたのですか?」


 大剣が振動で動かない様に、抱え込むように座るランジェ。

 この馬車は本当に客車部分が大きく作られている。

 場合によっては大砲なんかも運んだりするらしいな。


「ああ、それはだな。我輩の得意分野は爆弾でな。アンデッド相手なら気がねなく実験出来ると思ってだ、ふはははははっ!」


 うわぁ……。

 この人、やっぱり危ない人だったよ。

 絶対に地球に連れていってはいけない。


 と、ガラガラガラッ。

 馬車が大きな音を立てながら停止をした。

 

 どうやら砦に着いたようだな。


「おじさんはこのままカサンドラへ帰るのよ。砦はあたし達がいれば大丈夫だから」


「すまない……」


 しょんぼりと肩を落とすアサクラ。

 ま、仕方ないさ。

 誰もが冒険者に向いている訳じゃないからな。


 え、俺?

 もちろん、向いている訳じゃない。


 でも最近はこう思うんだ。

 

 決して、向いていない訳でもないと。


「あら。ヨースケもカサンドラへ帰るの?」


 先に降りたルナが、いひひと笑いながら俺を呼んでいる。


「バーカ、今行くよ。じゃあな、また何処かで会ったらよろしくな」


 俺はアサクラに短い別れを告げ、砦へと降り立つのだった。



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