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ほかほか  作者: ねこ侍
第一章
77/193

第63話 マルボロ戦1


 ガション、ガションと迫ってくるマルボロ。

 動きはスローだが、その巨体故か想像以上に一歩がデカい。

 まだ結構距離があるが、もう離れ始めた方がいいか?


「ヨースケッ、見た目よりもリーチが長いから気を付けて、当たったらまずいよ」


「ああ、そうだな」


 マルボロから決して眼を離さずに後退をする。

 こいつは眼を離したら何をしてくるかわからない不気味さがある。

 

 三本足でしっかりと大地を踏み締めながら、ランジェやルナには目もくれず、マルボロは俺の方へとずんずん向かってくる。

 マルボロが通った跡には、はっきりと四角い足跡が残されている。

 その足跡の深さから考えると重量もかなりありそうだ。


「ドーコツベキシ、クサンケ」


 マルボロが独特な高音で何か言葉を発した。

 が、良くわからない。


「今なんて言ったの?」


「ちょっと聞き取れなかったな」


「ウホウョジングウユ、シナ」


 マルボロが、通気孔からプシューッと蒸気を噴き出しながら歩いてくる。

 内部で何かを燃焼させているのか?


「う~ん、なんで言葉がわからないんだろ」


 ランジェが、マルボロの発した言葉が解らない原因について頭を悩ませている。

 【ふむふむ】や【語解】は発した言葉はもちろん、書かれた文字まで翻訳してくれる万能スキルだ。


「意志がないからじゃない? ゴーレムからしたら単に命令された文字を並べてるだけ……」


「単なる文字の羅列だから【ふむふむ】や【語解】じゃ変換出来ないって訳か?」


「う~ん、なんかもやもやする……」

 

 ランジェは納得がいかないご様子だが……。

 おいおい、悩んでないでこいつを何とかしてくれっ。


 そうこうしている間にマルボロは、俺と十メートル程の距離にまで迫ってきていた。

 俺も離れようと早足で移動をしているのだが、少しずつ距離を詰められてしまっている。


「止まれっ!」


 俺はペレットクロスボウを構えながらマルボロに話しかける。

 止まる訳無いだろうが、ひょっとしたら話が通じるかも知れない。


「ンニクカヲシイノキゲウコ」


 ピタッと止まるマルボロ。


 うそでしょ!?

 この子止まったよ!

 マルボロが歩くのをやめて、こちらを観察するかの様にじっとしてる。


「よし、そのまま動くなよ」


「イサナシロオヲキブ」


 やはりこちらの言葉に反応している様だ。

 何言ってるかは相変わらず不明だが、「友達になりましょう」とか言ってるのかも……。


「俺達は友達だっ!」


「イサナシロオヲキブ、クコイケドイサ」


 駄目なのか?


 意味不明な言葉は相変わらずだ。 

 俺はいつの間にか広場の隅まで追い詰められていた。

 背後には背の高い木々が生い茂っている。

 もし戦闘になったら、相手はこの図体だ。

 森の中に逃げ込んだ方が勝機が高いかも知れない。


 「シナウトウオ、シイカキゲウコ」


 ガシャン、ガシャンとゆっくりとこちらに向かって歩き出すマルボロ。


「ヨースケ! もっと距離を取って――――」とランジェが言い終わる前に、マルボロがとうとう俺目がけて長い腕を振り回して攻撃をしかけてきた。


 おおっと、危ないっ!

 慌てて身をかがめて避ける。

 ビュンっと風を切り裂く音と共に、頭上を通過していくマルボロの鉄球。


 まだまだ届かない距離だと思っていたが、既にマルボロの射程範囲内だったみたいだ。

 巨大な敵との間合いを掴むのは非常に難しい。


 と、背後でメリメリメリッ、ずしーんと音がする。


 振り返ると俺の身体よりも太さのある樹が、数本まとめてへし折られて横向きに倒れている。

 これは当たったら確実に逝くな……。

 テツオやウマンダーが一撃でやられる威力だ。

 例え盾でガードしても何の意味も無いだろう。


 そういえばマッスルタザワはこいつと殴り合ったと言ってたな。

 信じられ……いや、あいつならやりかねない。


 脳内にマッスルタザワが現れ、笑顔でムキムキっとポージングを決める。


 ええぃっ。

 消えろ!!


 俺は頭を横に振り邪念(マッスル・タザワ)を振り払おうとする。

 が、なかなか消えてくれない邪念(マッスル・タザワ)


「ヨースケ、危ないっ! 前っ!」


 ビュンッと鉄球が顔すれすれのところを通り過ぎていった。

 凄まじい風圧で髪の毛が後ろへ吹き飛ばされる。

 もし今の一撃が当たっていれば首から上が綺麗に無くなっていたであろう。

 背筋に冷たいものが走る。


 マッスルタザワのせいで死ぬところだった。

 集中だ、集中。


「ちょっとー。あいつの身体ほぼ丸じゃない! ころころで何とかしてよー!!」


 アイアンゴーレムから大きく距離を取り、安全圏で魔力を溜めているルナが叫ぶ。


「無茶言うなー!!」


 と言いながらも、実はころころで操作できないかさっきから試してはいる。

 が、全然動かせる気配が無い。

 やはりだめか…。


「はあっ!」


 隙をみてランジェが背後からアイアンゴーレムに斬りかかる。


 ガキィン! と、少し甲高い音を立ててランジェの攻撃が容易く弾き返される。

 

「ンニクカキゲウコ」


「うわっ硬い! 素材は鉄じゃなさそうっ」


「素材はどうでもいいっ! それよりこいつ何で俺ばっかり狙うんだ?」


 と思ったら、ランジェの方へ腕を振り回し始めた。

 ランジェはマルボロの背後にいるのだが、前後どちらでも鉄球攻撃は可能の様だ。


「ねえ。無理にここで戦う必要は無いんじゃない? 森へ移動しない?」


 ルナが俺達に呼びかける。

 やはり森の方が地形的には俺達に有利か? 


「いや。森で戦闘をしたら樹々に大きな被害が出ちゃうから、なんとかここで倒そう。それでもどうしても駄目なら逃げよう」


 ランジェが鉄球をひらりと避ける。

 鉄球攻撃は確かに威力は恐ろしいが、スピードはそこまで速くは無いし、軌道もある程度の予測が出来る。

 リーチさえ読み間違えなければ、ランジェにはまず当たらないだろう。


「OK! そういうと思ったわ」


 いつの間に移動したのか、建設途中のロッジの木組の上からルナが元気よく返事をした。

 

 ていうか、なんだそれは!?

 

 ルナの前方には巨大な一本の風の槍が発現していた。

 どうやら空気が物凄い勢いで吸い込まれ、循環をし、槍の形を成している様だ。

 それはさながら小さな竜巻のように、槍の穂先に向かいながら螺旋を描いている。

 

「さあっ、貫きなさいっ! ウインドスビアーッ!」


 巨大な風の槍がマルボロ目掛けて回転しながら飛んでいく。

 森の木の葉が次々と風の渦に吸い込まれ、槍はその身を緑色に染めあげていく。

 

 マルボロは反応できないのか、それとも気付いてさえいないのか、その場から動こうとはしない。


「チンカヲキゲウコ」


 バシュンッ!!


「嘘っ!?」


 ルナの放ったウインドスビアは、マルボロの表面の丸みに沿って、真上に軌道を変えやがて消滅した。

 ウインドスビアに吸い込まれた木の葉がひらひらと舞い落ちる中、訳が分からないといった顔をしているルナ。

 あの丸みのせいか!?


 俺もマルボロの側面へ移動しながら、試しにペレットクロスボウを二発発射する。

 しかしウインドスピア同様、当たったと思ったら明後日の方へ飛んでいってしまった。


「なんだこいつは! どうやって倒すんだ!?」


 俺を含め、みんなの攻撃はおそらく効いていない。

 アイアンゴーレムの表面がつるつるしている上に、滑らかなカーブを描いている為、軌道を変えられ、当たったとしても威力を大幅に殺されているのだ。


「ゴーレムならコアがあるはずなんだ。それを破壊できれば魔力が流れなくなって動かなくなるんだけど……」


 コアって事は内部にあるんだよな……。

 じゃあ、なんとかダメージを与えなきゃどうしようもないな。


 二本の腕を振り回してルナへ反撃を仕掛けるマルボロ。

 ルナが立っていたロッジの骨組みは見るも無惨に吹き飛ばされる。

 ロッジが崩壊する前に、ルナは近くにある高い樹の上に器用に飛び移った。


「本当にゴーレムかな……。今まで見た事も聞いた事も無いよ」


 何度斬り付けても弾かれる大剣。

 ランジェの攻撃が効かないなんて相当だ。

 

 「アクアボールッ!!」

 「ロックバレットッ!!」

 「エッジウィンドーーーーーッ!!」


 属性魔法のオンパレードだな。

 使いホーダイを良い事に、風、土、水の属性弾をやけくそ気味に連発しているルナ

 が、どれも効果は今一つの様だ。


「はぁはぁ……あ~もうっ! 要するに形が丸じゃ無ければいいのよねっ」


 樹上へと移動していたルナが、しびれを切らしたのかイライラした口調で地上に降り立つ。

 何をする気だ?


 ルナの突き出した右手に茶色い物体が姿を見せ始める。

 ロックバレットか?


「くらいなさいっ!! マッドボールッ!!」


 ルナの突き出した右手から、半液体状の物体が連続で発射される。

 

 あっ、泥か!


 おそらく水と土の合成魔法だ。

 粘度の高い、泥の塊をいくつもマルボロへ撃ち続けるルナ。


 マルボロの表面に泥がどんどん付着していき、あっという間に茶色く染まっていく。

 付着した泥の上に、次々と塗り重ねる様に更に泥が付着し、暑い層が形成されていく。


「はぁぁぁぁ」


 ランジェが何かを察した様だ。

 大剣を腰に引きぎみに構え、静かに力を溜め始めている。


 俺?


 俺も……。


 俺も何かした方が良いのかしら。


「ファイアーウォールッ!」


 マッドボールを撃ち終わると、ルナは次の魔法を発動させた。

 マルボロの足元から吹き上がる炎の壁。

 炎によるダメージは期待できないが、その高温は付着した表面の泥から急激に水分を奪っていく。


 ギギギギッ。


 身体を覆う泥が固くなる事により、動作が急に緩慢になるマルボロ。

 少し身体を動かす度に、古いドアを開ける時みたいな音を発生させている。


 なるほど!

 俺はルナの思惑をようやく理解した。

 マルボロの表面には炎で焼き固められた厚い泥の層。

 これなら弾かれたり、軌道を反らされたりする事はないだろう。


 OKだ、それなら!

 俺は一発だけ弾丸を発射した。


 それはマルボロの頭上の上をぐるぐると円を描くように旋回をしている。

 そしてその時が来るまでひたすら加速を繰り返させる。


「OKよ!」


 近距離でマルボロの気を引いていたルナが叫ぶ。

 その声を合図に俺とランジェが動いた。


 俺は、超高速でマルボロの上を旋回している弾丸に、意識を集中させる。

 狙いは下だ。


 ぐんっっっ!!!


 それは凄まじい急降下。

 鷹が獲物を狙うかの様に、マルボロ目掛けて上空から一直線に向かう一発の弾丸。


 実はこの技には「イーグルショット」と名付けてある。

 今は恥ずかしくて叫べないが、いつか技名を叫ぶのが俺のささやかな夢だ。


 弾丸はその技名に恥じず、マルボロの死角から一気に強襲を仕掛ける。


 ドゴゴゴッ!!


 加速を繰り返した弾丸は、見事マルボロの前面上部に真上から直撃をした。

 表面の泥は粉々に飛散した。

 本当は貫通させる勢いで放ったのだが、装甲がだいぶ厚い様だ。

 弾丸はマルボロの装甲に、その身を半分ほどめり込ませて止まっている。


「ナイス、ヨースケッ!」


 ランジェがマルボロの正面から、スキル【瞬歩】で一気に距離を詰めてきた。


「はあっ!!」


 そのまま跳躍し、渾身の一撃を放つ。

 狙いは弾丸がめり込んでいる場所、あいつの中で今一番装甲が薄い場所だ。


 バギィィィンンン


 金属と金属がぶつかりあう激しい音。

 めり込んだ弾丸が長い余韻を残しながら砕け散った。


 マルボロの装甲はどうなった!?

 流石に無傷じゃ済まないだろう……。


 俺達の連携攻撃を受けながらもマルボロは不気味な程に静かだ。

 完全なるノーリアクション。

 こいつは本当にわからん……。

 まさか……倒したのか?


 と、


 パキィィン……

 やけに甲高い音がして、弾丸とランジェの二段攻撃を受けた部分が砕け散った。

 場所はマルボロを正面から見て少し上の方だ。

 ぽっかりと空く、掌大の穴。

 

 くそ、三人で集中攻撃してたったのあれだけかよ。

 俺は恨めしげにその穴を見る。

 少し暗いが、ちらりと内部らしきものが見えた。


 おや、あれは……?


「全然動かないけど、倒したんじゃない!?」


「コアを破壊した感じは無かったけど……」


 マルボロは腕をだらりと下げ、鉄球は地面に力無く落下し、なんだか落ち込んでいる様にも見える。

 泥を付けられ、炎であぶられ、頭には小さい穴も空いてるし、ちょっとやりすぎたかな?

 これで終わりなら嬉しいんだが……と思ってたら、突如マルボロが声を発した。

 

「ウコイドーモウトンセ」


「もしかして謝ってるのか? いや、俺達も少しやりすぎ……」


 と、アイアンゴーレムの丸い身体にいくつもの亀裂が入る。


 ピシピシピシッ!


 え?


 ええっ!?


 えええ~っ!?


 そして俺は驚きのあまり思わず声を漏らしてしまった。


「おいおい……マジかよ……」


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