第62話 アイアンゴーレム大決戦
テツオとウマンダーは突然の乱入者に戸惑っていたが、互いに顔を見合わせると、マルボロの方へとその身体を向けた。
どうやら共通の敵と認識したらしい。
手を組んで排除する気だ。
マルボロはと言うと、多分身体の前面をテツオ達に向けているのだろうが良くわからない。
噴気孔らしき穴が空いている方をとりあえず背中としよう。
「ねーねー。どっちが勝つと思う?」
樹上にいるルナは太い枝に腰をかけ、脚をぷらぷらとさせている。
暇なのか?
「あたしは丸い方が勝つと思うんだけどなー」
「俺はテツオとウマンダーだと思うな」
はっ……。
言ってから気付く。
テツオとウマンダーって、俺の心の中で名付けた名前が通じるはずがないじゃん。
ああ~、自分のネーミングセンスが恥ずかしい。
と、思いきや
「あたしもその名前つけてた!」
「僕も!」
変なところで妙な一致を見せる俺達であった。
最初に仕掛けたのはテツオだ。
剣の切っ先をマルボロに向け一直線に駆け出す。
ズシンズシンと地面が揺れる。
迎え撃つマルボロは動かない。
顔が無いからか、何を考えているのかが全く読めない。
ひょっとしたら戦闘を望んでないのかも……。
そうこうしている内にテツオが土煙をあげながらマルボロに迫っていた。
突き出した剣の先がキラリと光る。
果たしてあの丸い胴体に通用するのだろうか?
するとテツオはすっと身をかがめ、前方に突き出した剣を引き戻し、そのままマルボロの足元めがけ横に払った。
うまい!
マルボロの三本ある内の、正面にある一本足を狙った軌道の低い剣だ。
カシュンッ!
「うそっ!」
しかしマルボロは狙われた足を、胴体に再収納する事で剣をかわす。
生物には絶対に不可能な回避の仕方だ。
カシュンッ!
そしてすぐさま足を出してきた。
しかし一撃目をかわされたテツオに、動揺する素振りは全く見えない。
駆ける勢いをそのまま殺すことなく、ショルダータックルでマルボロを吹き飛ばそうとする。
ドン!
ドンッ!!
蹄を大地に勢い良く叩きつけているのはウマンダーだ。
マルボロの背後にいつの間にか回り込んでおり、その無防備な背中目がけて突進を始めている。
前からはテツオが、後ろからは鋭い角を突き出したウマンダーが迫る。
行けっ!
挟み撃ちだ!
テツオとウマンダーの勝負に水を指した無粋な乱入者を、許すわけにはいかないのだ。
ウィィン……
マルボロがまた予想外の動きを始める。
グインと長い腕を地面と水平に持ち上げるマルボロ。
そしてマルボロの、これは上半身と呼べばいいのだろうか
胴体のちょうど上から半分がぐるんぐるんと360度回転し、鉄球の付いた長い腕を勢い良く振り回す。
慌てて急停止するテツオとウマンダー。
しかし、ウマンダーは何とか鉄球の手前で踏みとどまったのだが、テツオはカウンターを食らってしまいその場に尻もちをついた。
そりゃそうだよな。
そんな攻撃が来るとは思わないよな。
倒れたテツオのもとにウマンダーが駆け寄ってきた。
すると、テツオが信じられない行動に出た。
鐙に手をかけウマンダーに颯爽と騎乗をしたのだ。
その姿はどこにも違和感が無く、まるでパズルのピースの様にカチッとはまっている。
ウマンダーも嫌がる様子はなく、むしろ喜んでいる様にもみえる。
「もともとテツオとウマンダーは二人で一つの像だったのかもね」
ウマンダーがマルボロ目がけ駆け出した。
テツオを乗せている事を感じさせない力強い走りだ。
馬上からテツオが激しい攻撃を繰り出す。
ウマンダーはマルボロの攻撃が当たらない様に、上手い位置取りを維持している。
テツオが攻撃に専念をし、ウマンダーが防御に専念する。
人馬一体となった見事な動きだ。
マルボロも鉄球を振り回してはいるが、全く当たらない。
業を煮やしたのかマルボロは再度上半身を回転させる。
360度攻撃だ。
それを待っていたかのように高く跳躍をするウマンダー。
テツオとウマンダーの重さを加えた渾身の一撃がマルボロの頭頂部に命中する。
スガガガガッッ!!
凄まじい音がしてマルボロの回転が止まり、ウマンダーが地上に軽やかに着地をした。
これは決まったか!?
そう思った俺だったが、次に信じられないものを目にする事になる。
パキシイィィィ!
テツオの持つ剣だけが一方的に砕けたのだ。
それだけではない。
衝撃に耐えかねたのか、テツオの剣を持っていた右腕にもいくつもヒビが入り、肩からどさりと地面に落ちた。
はっと俺は気付く。
テツオは剣を持っているのではない。
剣を持っている風に作られた像なのだ。
その為、剣で受けた衝撃はダイレクトにその身に返ってくるのだ。
テツオを乗せながら、一旦距離を取ろうと後退するウマンダー。
そこにマルボロの追撃の手が迫る。
負傷したテツオが狙いなのか、執拗に高い位置へと腕を伸ばし鉄球攻撃を繰り返すマルボロ。
ウマンダーは馬上のテツオをかばう様に必死に攻撃をかわしている。
と、高い位置へ向けた鉄球が、途中でストンとフォークボールの様に軌道を変えた。
上の方にばかり気を取られていた俺は一瞬鉄球が消えたと錯覚してしまう。
テツオに意識を集中させつつ、瞬時に腕の軌道を変えたのだ。
ウマンダーも対応が出来なかった様だ。
脚に鉄球の直撃を受けてしまう。
八本あった逞しい脚は、前方の三本がまとめて横殴りに吹き飛ばされ、建設途中のロッジに直撃をした。
前のめりに地面に顔をこすりつける様にウマンダーが倒れこむ。
馬上のテツオも大きくバランスを崩し落馬してしまった。
「ンオクッロ」
マルボロが何か言葉を発した様だが良く聞き取れない。
長い両腕を高く掲げ始めている。
その真下にはちょうどウマンダーの頭部がある。
「ウマンダー! 逃げろっ!!」
ウマンダーは必死に立ち上がろうとするが、前脚が無い為か上手く起き上がる事が出来ない。
そんなウマンダーにマルボロの両腕が無情にも振り下ろされる。
と、その時テツオが盾を構え、ウマンダーをかばう様にマルボロの前に躍り出た。
テツオだって右腕がもう無いんだ。
片腕でどうする気だよ。
俺はもう見ていられなくてほんの一瞬だけ目を閉じてしまった。
耳につんざく様な金属と金属がぶつかりあう硬質な音が響く。
いやダメだ。
見なきゃダメだ!
俺は次に視界に入ってくるであろう光景に恐怖しながらも目を開ける。
それはスローモーションの様にはっきりと、俺の視界に映った。
マルボロの右腕の鉄球により、その構えた盾ごと粉砕される左腕。
そしてもうひとつの鉄球が、無防備となったテツオの顔を打ち砕く。
「テツオーーーッ!!」
こめかみにいくつもの亀裂が入り、パキィンと大小様々な破片となりテツオの頭部が砕け散る。
それでもテツオはよろよろと立ち上がり、マルボロの前に立ち塞がったが、マルボロの追撃によって胸部も破壊された。
下半身だけとなったテツオは地面にどうっと倒れ、そして動かなくなった。
残されたウマンダーも、もはや戦える状態ではない。
しかし最後の力を振り絞り後ろ脚でいななく様に立ち上がると、頭部の角を突き立てんとマルボロに振りかぶる。
が、一瞬早くマルボロの鉄球がウマンダーの胴体に命中する。
ゴガガガギギッ!!!
鉄球はウマンダーの身体を真横から切り裂く様に無理やりに粉砕していく。
ウマンダーの頭部は胴体から崩れ落ちる様に転がり落ち、横たわるテツオの前で止まった。
「勝負ありだね」
大剣を手に腰をあげるランジェ。
「良く戦ったな、テツオ……ウマンダー……」
テツオ……下半身だけなるまで、よく勇敢に戦ったな。
ウマンダーも見事だったぞ。
ウマンダーの頭部は奇跡的に綺麗なままだ。
シンボルでもある鋭い一本角は天に向かって真っすぐ伸びており、気高く美しい。
その瞳はテツオを見つめている様にも見える。
マルボロもなかなか強かったな。
お疲れ様。
なかなか見ごたえのある闘いだったな。
「じゃあ、そろそろかえ……」
「じゃあ、次はあたし達の番ね」
「えっ?」
え?
何そのシステムは?
完全に観客モードの俺である。
試合の勝者と闘うなんて思ってもいなかった。
「少しだけど動きが見れて良かったね」
「そうね。動きは鈍重だからなんとかなりそうね」
ランジェとルナの間で、どんどん話が進んでいく。
「おおい。ちょっと待てよ、アイアンゴーレム二体を倒した相手だぞ。マジでやるのか!?」
「あら。でも、向こうはやる気みたいよ」
そう言ってルナは俺の背後を指差した。
おそるおそる俺が振り返ると、マルボロがゆっくりと俺の方へ歩みを進めてくる姿が見えたのだった。




