第61話 アイアンゴーレム
アイアンゴーレムは俺達には気付いていないみたいだ。
ロッジの横から顔を出して、アイアンゴーレムの様子を窺う俺とランジェ。
俺達の位置から見えるのはアイアンゴーレムの背中と、そしてその向こう、薄霧の中でゆらりとうごめく巨大な何かの影だ。
手にした剣を頭上高く振り上げ、その影に向かって攻撃を仕掛けるアイアンゴーレム。
「少し様子を見よう」
ランジェがすっと身を屈めて背を低くする。
と、激しい衝撃音が耳に響く。
ガシンッ!!
ガガガガガッ!!
工事現場の騒音なんか目じゃないくらいやかましい。
一体何と闘ってるんだ?
するとアイアンゴーレムが盾を構えながら、ロッジから離れる様にゆっくりと移動を始めた。
ズシンッッ
それを追う巨大な影。
そいつは薄霧の向こうから姿を現し、俺達のすぐそばまでやってきた。
ロッジを背に悠然とアイアンゴーレムを見据えるそいつは、予想外の姿をしていた。
「馬?」
俺は思わず呟く。
視界一杯に広がっているのは体長五メートル程の巨大な「馬」
いや、「馬型」のアイアンゴーレムだ。
剣士と同じく身体は鉄で出来ている様だ。
見事な鎧細工が施されたその身体は霧に濡れ、彫刻的な美しさを一層際立たせている。
逞しい胴体からは、これまた筋肉質な脚が八本も生えており、額には鋭くとがった一本角が真上を向くように備わっている。
「珍しい……。軍馬のアイアンゴーレムだね」
ランジェが小さい声で話す。
俺達に気付いているのか、いないのか……。
軍馬ゴーレムはぶるんと首を一振りして、剣士ゴーレムの方へゆっくりと向かっていく。
その後ろ姿を眺めながら俺は思う。
わぁ、カッコいい……。
キラキラと輝く少年の瞳で、軍馬ゴーレムの後ろ姿を追う俺。
「なんであいつらケンカしてるの? 仲間っぽいけど」
ルナは俺達から少し離れた位置にいる。
自分がいるべき場所、ポイントを探しているようだ。
剣士ゴーレムが手に持った剣を、追ってきた騎馬ゴーレム目掛けて降り下ろす。
騎馬ゴーレムは八本ある脚で、器用にその場で旋回をしてヒラリとかわしてみせた。
すぐさま二撃目を繰り出す剣士ゴーレム。
しかし今度は額にある角を巧みに使って、その剣を受け流す騎馬ゴーレム。
「こちらに攻撃をする様子もないね。このまま共倒れしてくれれば楽なんだけど」
ランジェが建物の陰に身を隠しながら腰を落とした。
手には水筒を持っている。
すっかり観戦モードだ。
「アリスちゃんの言ってたゴーレムって、こいつらかしら?」
ルナは背の高い樹の上に上り、文字通り高みの見物を決め込んでいる。
「たぶん、間違いないんじゃないか?」
俺は少し大きい声でルナに返事をした。
ゴーレム達はひょっとしたら俺達に気付いているかもしれないが、今は俺達に攻撃を仕掛ける気は無さそうだ。
その時、一瞬の隙をつき騎馬ゴーレムの背後へ回った剣士ゴーレムが襲いかかる。
しかし騎馬ゴーレムはわかっていたのか、後ろ足で強烈な蹴りをお見舞いした。
騎馬ゴーレムはわざと背後に回らせたのかもしれない。
かろうじて盾でガードした剣士ゴーレム。
が、かなり効いたようだ。
なんとか立ち上がるも、ふらふらとしている。
チャンスだっ!
いけっ!
俺は食い入るように二体の戦闘を見ていた。
巨大な鉄のゴーレム達が闘う様子は、まるで昔のロボットアニメを見ている様で、なんだか興奮してきたのだ。
「いけ! ウマンダー! 角攻撃だっ!」
俺は騎馬ゴーレムをウマンダーと名付け応援をする事にした。
剣士ゴーレムはテツオと名付ける。
すると俺の応援に応えるかのように、ウマンダーはいななく素振りを見せ、鋭い角を前方に向けるとテツオへ向け駆け出していった。
脚が八本有る為か、身体の重量の為か、物凄い地響きを立てながらウマンダーがテツオに迫る。
しかしテツオはふらついていたのが嘘のように、闘牛士さながらの動きでウマンダーの角が当たる直前にその身をひるがえし、そのまま首を抱え込んだ。
むう……。
フラフラしていたのは、ブラフだったか。
ウマンダーにヘッドロックを決めるテツオ。
ギシギシと嫌な音がウマンダーの首から聞こえる。
「ウマンダー! 振りほどけっ!」
ウマンダーは首をぶるんと振り、テツオを引き剥がそうとする。
しかしがっちりと脇を締め離れないテツオ。
こいつはかなり力がありそうだ。
「ウマンダー、突進!」
ウマンダーはテツオにヘッドロックを極められながらも、半ば強引に突進を始めた。
突然の動きにテツオは若干足が追い付いていない。
ついていくのがやっとだ。
「ウマンダー、止まれ!」
急停止をするウマンダー。
脚が八本ある為だろうか、驚く程ピタリと止まる。
スルリとテツオの腕からウマンダーの頭が抜け、急停止に全く対応出来なかったテツオは前のめりに派手に転がっていった。
「よーし! いいぞウマンダー」
「あれ、あんたが作ったの?」
樹上から訝しげな表情をするルナの声が聞こえてきた。
テツオはすぐさま起き上がり、盾を前に構えウマンダーの側面を取る様にじりじりと移動を開始する。
いい勝負だ。
機動性ではウマンダーの方が上だ。
だが、しかしテツオは力がある。
油断は禁物だな。
「この二体のゴーレムだけど、かなり力のある術士が作ったんだと思うよ」
「何でだ?」
「自律戦闘をしているからだよ。例えば『敵を倒せ』って命令には無限の選択肢が広がっているよね。普通のゴーレムは殴る、蹴る、剣を振る位しか出来ない。でも、このゴーレム達はちゃんと考えて闘っている様にみえるんだ」
確かにそうだ。
ウマンダーはわざと背後をとらせたり、テツオはよろけたフリをしてみたり、俺なんかよりよっぽど闘いに関して巧者だ。
「その力のある術士がこの辺りにいなきゃいいわね~」
「うん。それが心配だね。ひょっとしたらゴーレム同士で模擬戦でもやらせてるのかもしれない」
と、枝に腰かけていたルナがすっと立ち上がった。
「ちょっと待って! 何か変なのが来るわよ!!」
若干緊張を含んだ声でルナが知らせる。
変なの?
ランジェがすぐさま立ち上がり周りを見渡す。
俺も警戒しながらペレットクロスボウに弾を装填する。
ゴロゴロゴロ!
異様な音と、連続した地響きがする。
ゴロゴロ、バキッ!
ゴロゴロゴロ、バキバキィッ!!
森の樹が折れ、倒れる音。
そして異様な地響きは、どんどんと大きくなり近づいてくる。
なんだ!?
そいつは何本もの樹々をなぎ倒しながら、二体のゴーレムの前に突然姿を現した。
◆
バシュッ
森の中から勢いよく飛び出してきたそいつは、数回バウンドをしながらごろごろと転がり、テツオの前で止まった。
「なんだ、これは……」
まさしくルナの言うとおり変なやつが登場である。
それは直径四メートル程の巨大な「玉」
テツオやウマンダーよりは一回り小さいが、一体なんだ?
表面はやや黒光りしており、小さい穴が三つ空いている。
突然現れたそいつは、なんだろう……この場所において違和感しかない。
この場所に存在してはいけない、一種異様な雰囲気を醸し出している。
形はもう丸としか言いようがない位の真ん丸だ。
巨人がボーリングでもしているのかしら、と思ってしまう。
俺の【ころころ】にサイズ制限が無ければ自在に動かせたであろう。
と、俺が観察してる途中で球体は驚くべき変化を始めた。
カシャン
カシャン
カシャン
ドシュゥゥゥ……。
球体の表面の一部がスライドパズルの様に動き、穴が空いたかと思ったらそこから手と足が生えてきたのだ。
「おおお……ランジェ、説明を頼む……」
「うううん……ゴーレム……かな? もしくは魔法生物……かも」
ランジェが食い入るようにゴーレム?の挙動を観察しながら苦しそうに答える。
あんまり自信は無さそうだ。
ゴーレム……。
一応手足は出てきたが、頭らしき物は見当たらずまん丸な胴体。
胴体に継ぎ目は一切見当たらない。
足は短いが三本ある。
正面から見て逆三角形の配置で胴体からニュッと生えている感じだ。
短く太めなその足は安定性はかなり良さそうだ。
手は二本だが、足とは対照的に細く、そしてかなり長めだ。
イメージ的には洗濯機のホースが近いかも知れない。
その先は鉄球の様になっていて、ずりずりと地面を引きずっている。
物を掴める感じでは、ない。
なんかバレーボールのマスコットキャラクターに似たようなのがいたよな……。
明らかに生物では無いそいつは、時折背中に空いた三つの穴からぷしゅーっと蒸気を噴き出している。
俺は思う。
こいつロボットじゃないの?
よし、こいつは「マルボロ」と名付けよう。
俺は突然の乱入者に、とりあえずの名前をつけて次の展開を見守ることにした。




