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ほかほか  作者: ねこ侍
第一章
72/193

第58話 魔王アリス


 こんこんこん。


 白い手袋をはめた右手で、軽く扉をノックするバファリオン。

 木で作られた扉はこじんまりとしていて、とても簡素な造りだ。

 とても魔王が中にいる様には見えない。


「アリス様。ジュースとお客様をお連れ致しました」


 ……。


 返事が無いな。


 こほんと一つ咳払いをして、再度ノックをするバファリオン。

 今度は少し強めだ。


 すると、少しだけ間を置いて、扉の向こうから気怠そうな女の子の声が聞こえてきた。


「ふぁ~。遅いのじゃ~、バファリオン~」

「申し訳ございません、アリス様。ジュースとお客様をお連れ致しましたよ」


「え~。なんじゃお客様って~。ジュースだけ置いて行くのじゃよ~」

「そう言われずに。わざわざアリス様に会いにいらしているのですよ」


「めんどくさいのじゃ~」

「先程アリス様が連れてこいと仰ったでは無いですか」


「そんな事言ったっけ~」

「はい。それにもうお部屋の前までお客様はいらしてますよ」


「え~! じゃ~今の会話聞かれたのじゃ~。余計会うの嫌になったのじゃ~」

「……嘘ですよ。お客様はまだ広間の入り口ですよ」


「ああ~バファリオンが嘘ついた~。もう会いたくないのじゃ~」


 なんだ、この三歳児は。


「すみませんね。なにぶんアリス様は【怠惰】と【暴食】の魔王ですので」


 くるりと振り向き、小声で呟くバファリオン。

 

 【怠惰】と【暴食】……。

 苦労してるな、あんたも。


 部屋の中からは先程から「かーえれ! かーえれ!」と、帰れコールが聞こえてくる。


 ぷちっ。

 後ろでじっと大人しくしていたルナが切れた。


 つかつかつかと、扉の前まで歩いてくると、


「くおらぁ~!! いい加減にしろっ! さっさとドアを開けんかいぃっ!!」


 ドガッ!

 ドガッ!!


 取り立て屋ばりの怒声をあげながら、ドアをガンガン蹴りまくっている。


 ガタンと蹴りの衝撃でプレートが斜めに傾く。

 様子を見ているランジェとバファリオンは、若干引き気味だ。


「じょわっ!? 何事じゃ! 誰か、誰かおらぬか~!」


「うるさいっ! 早く開けないとドアを蹴破るわよっ!!」


 容赦なくドアを蹴り続けるルナ。


「わかった! わかったのじゃ! 今開けるからドアを蹴らないで欲しいのじゃよー」


 その言葉を聞いて、ドアを蹴るのを一旦中断するルナ。

 ドアにはしっかりと蹴り跡が残っている。


 …………。


 ……………………。


 開かないな……。


 ドアが開く様子は無い。


 ルナが無言でもう一度、ガンッとドアを蹴る。


「はいっ! 今開けますっ」


 きいいい……


 蝶番がきしんだ音を立てながら、ゆっくりと扉が開いていく。

 ルナが散々蹴ったせいだな。


 そうして、ようやく俺達は魔王と対面するのだった。






「宗教の勧誘ならお断りなんじゃけど~」


 開いた扉の向こう、そこにはだるんだるんのパジャマを着た、幼い女の子が立っていた。

 だいぶサイズが大きいのか、パジャマのすそを引きずっている。


「アリス様、違いますよ。この方達はアリス様に申し上げたい事があるそうです」


「なにっ?」


 バファリオンがそう告げると


「わしが魔王アリスじゃあ~」


 両手をくわっと広げ威嚇をする魔王。

 指の先にはスナック菓子の欠片がいっぱい付いている。

 こいつ……何か食ってやがったな。


 髪は雪の様に白く、腰まで伸びている。

 良く見たら寝癖がものすげぇ。

 こいつ……寝ながら食ってやがったな。


「して、何の用じゃ」


 俺達が魔王の威嚇にたいした反応を示さずにいると、髪をわさわさと手でとかしながら、つまんなそうに問いかけてきた。

 指が途中で何度も引っ掛かり、その度に「いたっ」とか「あ-抜けた」とか言っている。

 

 あーあー。

 汚れた手で髪の毛触っちゃって。


「ほら、ルナ。魔王が聞いているぞ」


「……」


 ルナはあんぐりと口を大きく開け、言葉を失っている。

 どうやら魔王が想像とあまりにもかけ離れていた為、脳がフリーズしたらしい。


「まー立ち話もなんじゃから、わしの部屋に入るが良いぞ。あー、その大剣は部屋には入らんぞえ」


「は、はい」


 大剣を扉の横の壁にそっと立て掛けるランジェ。


 そして俺達は固まるルナの背を押しながら、魔王アリスの部屋へと入るのだった。





 アリスの部屋へと入った俺達。


 広さだと六畳位だろうか?

 お世辞にも綺麗な部屋とは言えない。

 食べかけのお菓子やら飲み物がそこらに無造作に置かれている。


 部屋の中央には敷きっぱなしの布団があり、その上にはアリスがだるそうに座っている。

 こいつ、目を放すとすぐ横になりそうだな。


 と思ったら、もうごろんと横になりやがった。


 布団の横にはバファリオンが立ち、俺達三人はアリスの前に適当に座り込む。


 ああ……。

 狭い……。


「わしは【怠惰】と【暴食】の魔王じゃ。名は『アリス・ワンダーランド』じゃ。よろしゅう頼む」


 寝っ転がりながら自己紹介をするアリス。

 手についたスナック菓子の油分をパジャマの裾で拭いている。


 そんなとこで拭くんじゃない。

 俺でもそんな事しないぞ。


「あー。そちらの自己紹介は良いぞ。ヨースケにランジェにルナじゃな」


「凄いな。わかるのか?」


「すごかろう~。ああ、すごかろう~♪」


 布団の上をごろごろと転がりながら歌い出す魔王アリス。

 かなり調子に乗りやすいタイプだな。


「なんで二つも魔王やってるのよ? いいのそれ?」


「うむ。それはじゃな。【暴食】の魔王は他におったのじゃが、高齢を理由に引退しての。後任もおらんから、わしが兼任しているのじゃ」


「何それ? わざわざ引き継がなくても良いんじゃないの?」


「あー、忙しい忙しい」


 人の話を聞いているんだか、いないんだか。

 アリスは布団をかぶり、ポテチみたいなスナック菓子をぽりぽりと食べている。

 まさかこのまま寝る気じゃないだろうな。


 バファリオンに注意してもらおうと、彼の方をちらと見ると胸ポケットからハンカチを出すところだった。


「アリス様、ご立派になられて……」


 涙ぐむ執事のバファリオン。

 どうやら【怠惰】と【暴食】の魔王としては正しく立派な姿であるらしい。


「ちょっとー。横になりながらお菓子食べちゃ太るわよ」


「そうだよ。行儀悪いよ」


 ルナとランジェが二人団結して、アリスの布団を引っぺがそうとする。


「やーめーてー」


 アリスは頑として布団から離れようとしない。

 かけ布団を持ち上げると、そのままくっついてきた。


「これは駄目ね、ヨースケくすぐって」


「はいはい」


 俺はアリスの脇腹をくすぐろうとアリスに近寄る。

 バファリオンから脇腹が弱点だと予め聞いているからだ。


 すると、ものすごいスピードで布団の裏側にアリスが逃げる。


「ふふふ。人間如きが無駄じゃ、わしには触れる事も出来んわ」


 魔王らしい台詞を吐いて布団の裏で勝ち誇るアリス。

 やれやれ、仕方ないな。


 俺はポケットからクロスボウの弾を三発取り出して床に置いた。

 

 行けい。

 我が分身たちよ。

 思う存分可愛がってやれい。


 ころころと、布団の裏へ転がっていく弾達。

 しばらくすると、


「おおっ!」


「ひほっ! なんじゃこれは」


「あーははは! 脇腹は……やめて……やめて」


「いーひひひひひっ、わ、わしの負けじゃ、だからこれを……ぶふうっ」


 アリスがぽとりと布団から落ちて悶絶している。

 アリスの服の中では三発の弾が生き物の様に元気よく動き回っている。


「じゃ、ちゃんと話をさせてもらうぞ」


「ひぃひぃ……わかったのじゃ……」


 こうしてやっと、アリスに話を聞かせる事に成功したのであった。




「ほれ。オレンジジュースじゃ。飲むが良いぞ」


 バファリオンが紙コップに用意してくれたのだが、室内にはテーブルなど無いので床に直置きだ。

 絶対こぼすだろ、これ……。

 だって床にシミがたくさんあるもの。


「で、わしに用とはなんじゃ? どうせ、またいわれの無い冤罪をかけられておるんじゃろ」


 ギクリ。

 無言となる三人。


「流石ですアリス様。御名答の様ですね」


 まあ何となくだが、ここまでの流れでわかる。

 こいつは無関係……いやむしろ被害者側だろう。


「えーと。今アンデッドが大量発生しているんだけど、あなたとは関係ないのかしらねー、なんて思っちゃったりして」


 話を切り出したのは言い出しっぺのルナだ。

 しかしどうにも歯切れが悪い。

 偉く消極的になったな。


「かんけーないのじゃ」


「そうですよね……」とランジェ。


「じゃ帰るか……」と俺。


「ちょっと待ってよー。でも魔王なんでしょ? あれこれ悪い事考えてるんじゃないの」


「かんがえてないのじゃ」


「そうですよね……」とランジェ。


「じゃ帰るか……」と俺。


「えー。じゃ何の為の魔王よ!? 人間に深い憎しみを抱いてたりしない訳!? 世界征服とかの野望は?」


 ルナは一人納得がいかない様だ。

 そんなルナに対して、アリスは首を左右に振ってやれやれとポーズをとる。


「お主は随分と【役割】に縛られているのう。転生者や転移者は何かしら精神を縛られる事が多いからのう」


「何よー。あたしは普通よ」


「かっかっかっ。そうか、それはすまんかったのじゃ」


「俺達が転移者だってのもわかるのか?」


「ん……お主も転移者じゃな? そこの二人はすぐにわかったのじゃが……」


そう言うとアリスは俺の顔を覗き込む。

アリスの金色に輝く瞳に俺の顔が映り込んでいる。


「珍しいのじゃ……。お主は何にも縛られて……いや、違うな……逆か?」


 珍しい?

 あと何が逆なの?

 なんだかとても気になる事を言い始めるアリス。


「ねー。先祖代々、人間を滅ぼそうとしてたりしないのー?」


 だがそんな、俺に興味津々なアリスに、ルナが質問を続ける。

 もー今視てくれてるのにー。


 だが、次にアリスが返した言葉に、俺達は驚きを隠せなかった。



「してないのじゃ。だって、わしはもともと人間じゃもの」





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