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ほかほか  作者: ねこ侍
第一章
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第56話 魔王の城

 アンデッドやもどきをひたすら倒しながら、荒れ地を進む事約五時間。


 それは不意に、突如として俺達の眼前に姿を見せた。


 魔王アリスの住む魔王城である。


「これが……魔王の城か……」


 カサンドラの城壁のデカさにも度肝を抜かれたが、この城だって負けてはいない。

 中世的な外観のその城は、城本体といくつもの小搭によって構成されている。


 おそらく建設されてから相当の年数が経っているんだろう。

 その佇まいには、なんとも言えない重厚感があり、長い歴史をもはっきりと感じる事が出来た。


「守りは考えてないのかしら。本当に城?」


 真剣な顔をして城をつぶさに観察しているルナ。

 ルナが言うには、敵の侵入を防ぐ深い堀も、攻撃を防ぐ強固な柵も何も無い。それが不自然に感じているらしい。


 まるで誰かがポンと置いたかの様に、城そのものだけが広大な荒れ地の中に建っているのだ。


「取り敢えず行ってみよう」


 城にはある種の幻惑魔法がかけられていた様だ。

 今は視認できているが、どうやら近くまで接近しなければ視界に映らない仕掛けだったみたいだ。


 多分、この大きさならカサンドラからも見えただろう。

 現に後ろを振り返ると、遠くにカサンドラの城壁が僅かに見えた。

 

 圧倒的な存在感を放つ魔王の城だが、同時に俺に違和感を覚えさせた。



 何でこんなところに?



 そう。



 それは例えるなら、



 酢豚の中のパイナップル。



 ポテトサラダの中のリンゴ。



 その圧倒的な存在感と違和感。

 故に人はそれを否定し拒絶するのだろうが。


 ルナも同様に気圧されているようだ。

 ごくりと息を飲む音が聞こえる。


「まるで生ハムにメロンね」


「うおぉい! ちょっと待て。それは認めん」


 何て事を言うんだ、こいつは。

 あの甘味と塩味の絶妙な調和が生み出すハーモニー。

 てかそっちの異世界にも生ハムメロンあるんだね。


 そうです。

 俺は生ハムメロンが好きです。



「良い例えでしょ。あたし許せないのよねー」



「あの絶妙な調和がわからないのかよ。これだからお子様は」



「ふふん。そんな台詞は、おかずなのかデザートなのか、はっきりさせてから言いなさい」



「きーっ。悔しい」



 ダメだ。

 口ではとても勝てそうにない。

 俺はランジェに助けを求める。


「え、僕? えーと……。僕はつぶあんより、こしあんの方が好きだけど……」


「それは別問題!」


 俺とルナに同時に言われ、しゅんとなるランジェ。


 新たな論争の火種を持ち込むんじゃあない。

 何より俺はつぶあん派なのだ。






 それから30分ほど俺たちは熱く語り続けた。

 

 結局、「フルーツのサンドイッチは許せない」という結論に落ち着いたのだが……。

 

 はて?

 それで良かったんだっけ?



「これからどうしよ?」


 俺達は木と鉄を組み合わせて作られた城門の前に立っている。

 高さ三メートル程の城門は固く閉ざされており、押しても引いても当然びくともしない。


「この門を抜けたらきっと城内ね」


「中庭とかは無さそうだよな。いきなり敵が出てくるとか無いよな」


「たぶん大丈夫だよ。魔王は敵意無さそうだし」


 ランジェがそう言うのには、もちろん理由がある。

 それは城の外壁にたくさん取り付けられた看板や、道に沿って立てられたのぼりだ。


「ようこそ! 魔王アリスの城へ」


「ショーやアトラクションも盛り沢山」


「年間パスポート販売中」


「魔王のアイスクリーム。期間限定です」


「記念に呪われてみませんか? 五段階から選べます」


「『鮮血』の魔王との合同スタンプツアー実施中」





「アイスクリーム食べたいなー」


 と、ランジェがつぶやく。

 珍しく……と思うかも知れないが俺は知っている。

 ランジェが大の甘いもの好きだという事を。


「みてみて。この帽子、かわいいでしょ~」


 ルナが猫耳のカチューシャを着けている。


「どっから持ってきたんだ?」


「あそこにいっぱい置いてるわよ」


 ルナが指差す方向には、台車タイプのお店が複数並んでいた。

 一番手前の店には、なるほど様々なカチューシャや帽子を置いてあるな。

 

 猫耳もあれば、犬耳、ウサギ耳、魚の形をした帽子、シルクハットに何故かコック帽まである。

 でもこれって置いてあるんじゃなくて、売り物じゃ無いの?

 

 売り子がいないか探してみるが、どの店にも姿は見えない。


 俺もちょっと何かかぶってみようと、ネズミ耳のカチューシャを着けてふと気づく。

 


 何、このテーマパーク感。



 俺は一気に全身の力が抜けた。



 こっちは魔王と聞いて、ものすごい緊張してた訳ですよ。



 暗雲立ち込める魔王城へ乗り込む三人の冒険者。

 城内には凶悪な魔物や罠が立ちふさがり、一瞬も気が抜けない!

 そして最強の魔王との決戦の火蓋が落とされる。



 それが、



 晴天晴れ渡る魔王城へインする三人の観光客。

 城内には素敵なショーやアトラクションが盛り沢山、一瞬も飽きさせません!

 そして最高のパレードが旅の想い出作りをお約束します。




 なんだか、がっかりである。


 うーん、と俺は空を見上げる。

 雲一つ無い晴天が視界いっぱいに広がる。


 絶好のテーマパーク日和。


 ただ残念な事に、状況が状況なだけあって閉園中の様だ。

 メイドとか居るかもしれないと少し期待したのだが、辺りには観光客はもちろん、誰一人歩いていない。


 と、門の横に


「御用のある方は押してください。※何回も押さないでね」

 

 と、書かれたインターホンを発見する。


 さっそくルナに教えると、躊躇なくインターホンのボタンを押しはじめた。



 と、



「きゃーーーっ!!」


 なんだ!?

 どこからか聞こえてくる女性の悲鳴。



 ルナが再度インターホンを押す。



「きゃーーーっ!!」




「何これ! 面白ーい」



 どうやらブザーの音を女性の悲鳴にしているみたいだな。


「きゃーーーっ!!」


「きゃーーーっ!!」


「きゃーきゃーきゃきゃきゃきゃーーーっ!!」


 面白がって連続でインターホンのボタンを押すルナ。


 そんな事をしていたら、門の横の小さな扉が開き、城の者だろうか、少し神経質そうなタキシード姿の男が出てきた。


「お待たせ致しました。私は魔王アリス様に使える魔人バファリオンと申します。執事をさせて頂いております」


 整髪料で固めているのか、ピッチリとした七三分けの髪型。

 そんでもって牛乳瓶の底の様なビン底メガネをかけている。

 背筋がピーンと伸びていて姿勢が大変よろしい。


 魔人と言っていたが本当だろうか。

 俺の想像している魔人は、もっと凶悪で凶暴なイメージなんだが……。


「こほん。何回も押さないで下さいね」


 と、インターホンに書かれた貼り紙を指差す。


「あ……どうもすみません」


「いえいえ、では本日はどのようなご用件でしょうか。城内観光でしたら、料金はあちらになります。この時間帯ならナイトパックがお勧めですよ。もしかしてご家族ですか?」


 バファリオンがニコッとしながら料金表を指さす。



 ふーんと料金表を見る。

 なかなか良心的な料金設定だ。


 だが、いっておこう。

 家族じゃねぇ。


「あたし達は観光をしに来た訳じゃないの。魔王アリスに話があるのよ」


「アリス様にですか? ではアポはとっておいでですか?」


 アリスの名前を出した瞬間、バファリオンの表情が少し変化する。


「そんなの取ってないわよ。いいから会わせなさい」


「アポなき方のご訪問はご遠慮頂いております」


「何かやましい事があるから会えないんでしょ。早くしなさい」


 人の話を全く聞かずにグイグイ攻め込むルナ。


 何だろうか。

 これが身内だと思うとすごく恥ずかしいよね。


「そうは仰いましても、アリス様は今お休みになっておいでです。どうかお引き取りください」


「わざわざアンデッドを退治しながらここまで来たのよ。 はいそうですか、って簡単に帰れる訳無いでしょ」


「そう言われましても……。ではアリス様にどの様なご用件でしょうか?」


「アリスがアンデッドを発生させてるって話じゃない。今すぐ止めさせに来たのよ」


「はぁ……何か根拠はおありですか?」


 またか……という顔をしてルナに問いかけるバファリオン。


「無いわ! 勘よ」


 思わずずれ落ちるバファリオンのビン底メガネ。

 バファリオンはビン底メガネのフチをクイッと持ち上げ、を正しい位置に戻すと、胸ポケットから白いハンカチを出すと額の汗を拭いた。


「魔人である私の口から申し上げるのもアレですが、あなた無茶苦茶ですね……」



 ダメだこれは……。

 恥ずかしくてたまりません。



 オレとランジェは顔を合わせ、うんと頷いた。




 さあ帰ろう。




 その時、バファリオンが諭すようにルナに話しかけた。


「良いですか。アリス様が魔王だからと言って、例え貴方が正義であったとしても、【理不尽な要求をしてもよい】と言う理由には決してなりませんよ」



 がーん。

 とうとう言われてしまった。

 今バファリオンに言われた言葉は、俺の心にずっと引っかかっていた何かだ。


 その言葉はグサリと鋭い矢の如く俺の心を貫通し、Uターンしてまたグサリと貫通していく。


 説教をしに来て、逆に説教される始末。


 この言葉にはランジェも相当こたえたみたいだ。

 ずーっと下を向いている。


 だが、ここに鋼鉄の心を持つ猛者が一人いる。


 その名はルナ・マテリアル。


 そんじょそこらの弓矢では、その心にはかすり傷一つ付けられないのだ。


「話にならないわね。力づくでも通るわよ」


「もう帰ろうよ……」


 こんなに恥ずかしそうにしているランジェは初めて見た。


「お前はクレーマーか。いや、そもそもクレームにすらなってないぞ」


「何よー。ここまで来たのにー」


「コホン、すみませんね。誰でも通すわけには行かないんですよ」


「やっぱり防犯上の理由ですか?」


 帰る準備をいそいそとしながらランジェが尋ねる。

 この上お城に泊まらせてなんてとてもじゃないが言えない。


「左様でございます。今は従業員も私以外は全員暇を与えておりまして、監視の目が行き届かない点もあるのですが……。たまにいらっしゃるんですよ。自分は勇者だと言って、城にある宝箱を勝手に開けたり、壺を割ったり、更には持ち帰ったうえに道具屋に売り飛ばしたりする輩が……」


 ええと。

 身に覚えがありすぎる。

 薬草とか毒消し草とかね……もうたくさんあるから。


「それで仕方無く追い出すと、今度は【魔王】にやられたと言い出す始末。どうか私共の苦労もご高配頂ければ幸いでございます」



 本当にすみません。

 もう二度とロープレには手を付けません。



 その時インターホンから突然少女の声がしてきた。


「バファリオーン!どこじゃー、どこにいるのじゃー!」


「これはアリス様。どうなさいましたか?」


 慌てた様子でバファリオンがインターホンに向かって語り掛ける。


「のどが渇いたのじゃー! 早くジュースを持ってまいれー!」


 どうやら声の主は魔王アリスの様だ。

 間違いなく女性……?

 いや子供か?


「今はお客様がお見えです。今しばらくお待ちください」


「いやじゃー! 早く持ってまいれー! 叫ぶぞー、ああああああ!!」


 インターホンの先で絶叫している魔王アリス。

 もうわかった。

 これは関わったらめんどくさい奴だ。


「そう言われましても、まだお客様との話が済んでおりませんので……」


「そいつら事連れてくればよかろう! じゃ急ぐのじゃぞー!!」


 インターホンはぷつりと切れた。


「やった。これでアポはとれたわね、魔王自ら『連れてこい』って言ったんだから」


 ルナが意地悪くにやにやしながら勝ち誇った顔をしている。

 えー行くのー。

 今の会話の感じだと、絶対人の話なんか聞かないタイプだと思うよ。



「仕方ありませんね……」


 バファリオンがやれやれといった仕草をし、俺達の方へ振り返った。


「ご、ごめんなさい……」


 ランジェが顔を真っ赤にしながら謝る。


「本当にすみません。よろしくお願いします」


 俺もランジェに続き頭を下げた。

 するとバファリオンから予想外の返答が返ってきた。



「いえいえ。アリス様ご自身が連れてこいと言われた以上、貴女方は客人です。此れまでの数々のご無礼お許しください」




そして俺達に向かって、恭しく一礼をしながら静かに声を発した。




「ようこそ。魔王の城へ」














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