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ほかほか  作者: ねこ侍
第一章
64/193

第52話 バジルとチョロ

 両手両足を縛られ床に転がっている二人の男。


 さて、これからこいつらに対して尋問を行うわけだが、ルナがヤル気満々である。

 俺は当然そんな事したこと無いし、任せておけばいいか。


「まずはあんた達、昼間の自称【深紅の輝き】達よね。ほーら、スキルが一緒」


 男達の目の前には【詐欺師】や【逃げ足】等のスキル鑑定結果が映し出されている。


 やっぱり昼間の奴等か。

 これはさすがに言い逃れは出来まい。

 男達は俯いたまま何も喋らない。



「じゃ、1つ目の質問。何でここがわかったのかしら?尾行された覚えは無いんだけど」


 確かに、なんでこの宿屋だと特定出来たんだ?

 俺は一日中宿屋にいたし、ランジェが尾行されるなんて考えにくい。



「……」


「まあ。お口が固いのねー。じゃすぐに柔らかくしてあげるから、ちょっと待っててね」


 ルナが鼻歌を唄いながらリュックをゴソゴソと探る。

 何を出す気?

 はったりだと思うが、本当に何か持ってそうで怖い。


「早くしゃべった方が良いよ。僕らも彼女の()()はあまり見たくないんだ」


 意外とノリノリなランジェ。


 すると背の高い男が静かに口を開いた。


「……お前が持っている大剣は目立つからな。少し調べたらすぐわかるさ」


 あー。

 確かに大剣使いってのはあまり見ない。

 その中でもランジェの持つ大剣は、ランジェ自身の小柄な体格と相まって余計に目立つ。

 目撃者はたくさんいるだろう。


「あら喋っちゃったの? 残念ねー。じゃ、二つ目の質問」


 ルナはリュックから布と何かを取り出し男達の方を向いた。


「この質問は重要よ」


 と、前置きをしたところで、ずいと顔を男達に近づける。


「あんた達、ここに何しに来たの?」


 ルナの口調は一見穏やかだが、眼には激しい怒りの炎を宿している。


「……」


「言えない事をしにきたって事か?」


「……」


 男達は無言を貫いている。

 だが、ここは異世界だ。

 当然、黙秘権は無い。


「はい。タイムオーバー」


 そう言ってルナが男達にささっと布で目隠しをする。


「な、何しやがるっ!」


「ひいいっ!」


 男達が叫ぶ。

 視界を奪われる、見えないってのはそれだけでかなりの恐怖を与えるだろう。


「まずは貴方」


 ルナが嬉しそうに小さい男の耳元でゆっくりと囁く。

 明らかに楽しんでるな。


「今から貴方の耳に入れるのは『ブレインワーム』って言う寄生虫よ」


 そう言って、芋虫の様に床に転がっている小さい男の頭のそばに座る。

 正座を崩した様な女性らしい座り方だ。


「こいつはね、脳味噌が大好きなの。耳から侵入した後は、鼓膜を食い破り、その後三日かけて脳味噌をゆっくり溶かしていくのよ」


 ルナは男の頭を自分の太ももの上に乗せると、動かないように片手でがっちりと押さえつけた。

 いわゆる膝枕ですな。


「でも大抵は30分で発狂しちゃうの。貴方は何分持つかしら? たくさん楽しませてね」


 そう言うと、ルナは男の耳にそっとブレインワームを差し込んだ。


「ぎゃーっ!」


 ビクンと身体が硬直する男。

 見ていてだんだん可哀想になってくる。


「おいっ! やめろっ! やるなら俺にしやがれっ!」


 背の高い男が叫ぶ。

 でもこっちの男にやった方が効果的なのは明らかだ。


「兄貴ーっ! 助けてーっ!!」

 

 男達は目隠しをされているので判らないだろうが、実はルナが手に持っているのは少し長めの綿棒(ブレインワーム)だ。

 俺には美少女に耳掻きされて、男が悶絶している様にしか見えない。


 更に奥へと綿棒(ブレインワーム)を差し込むルナ。


「い、い、言いますっ! 実はたまたま泥棒に……」


 最早、恐怖に耐えかねて男が口を割る。

 わりかし落ち着いた口調だな。


「はい、嘘ー」


 ルナはぐりぐりと綿棒(ブレインワーム)を回転させている。

 いいなー。

 あれ気持ちいいんだよな。


「す、す、す、すいませんっっ! 本当はっ! あ、あんたをっ、ゆ、誘拐に来ましたっっ!」


 男の声は震え、身体は震え、ヨダレを垂らしながら必死に喋っている。失禁は……さすがにしてない。


 こんなに動揺しているって事は【詐欺師】のスキルが作動してない事を意味する。

 つまり嘘をついていないって訳だ。


「はあ? なんであたしを」


 ルナが更に回転を激しくして追求を深めようとした時、背の高い男がようやく口を開いた。


「もういい、俺が全て喋る。そいつはもう勘弁してやってくれないか」





 

 俺達の前には正座をさせられているバジルとチョロがいる。

 もう危険は無いだろうと、目隠しも縛りもほどいてやった。


 話を聞けば、こいつらはカサンドラを根城にしているゴロツキだそうだ。

 兄貴分の名前が「バジル」、弟分の名前が「チョロ」と言うらしい。


 俺達を襲った(まあ、先に襲ったのはランジェだが)目的は、チョロが白状した通りルナの誘拐であった。

 昼間の一件でルナが鑑定スキルを持っている事を知り、鑑定屋を開いて一儲けしようと企んだのだ。


 たった二人で乗り込んできたのは、昼間俺達の装備を確認して、室内であれば大剣もクロスボウも魔法も使用出来ないと判断したらしい。


 へぇ。

 何気に凄いな。

 こいつらとは昼間、ほんの少しすれ違っただけだ。

 あの短時間で俺達の事が良くそこまでわかったな。


 装備の確認もそうだが、俺達が何人パーティーかなんて、あの場だけでは断定出来なかった筈だ。


「みんなこいつらどうする? あたし的には死刑でも構わないけど。誘拐を企てる奴なんて生きてる価値は無いわ」


 ルナの死刑って言葉に俺は一瞬ドキリとした。

 脅しだよな?


 俺はてっきりこの後、警備隊に連絡して終わりかと思っていた。

 でも俺のいた世界と、この世界の命の価値は同じじゃない。


「こ、これからは真面目に……」


 言いかけたチョロをルナが途中で遮る。


「お黙り。あたしはあんた達に更正なんて望んでないの。あんた達がこれからどう生きようとも、今まで傷つけてきた人達の傷は消えないのよ」


 バジルが口を開いた。


「頼む! せめて、こいつだけは見逃してやってくれ! 俺が無理矢理連れてきたんだ!」


「あ、兄貴~」


 チョロが涙を流しながらバジルに抱きついている。


「そういや、他に二人いたよな。あいつらはどうしたんだ?」


「ああ、あいつらは昼間の仕事でたまたま一緒になっただけだ。本当の仲間じゃねぇよ。あの後解散してそれっきりだ」


 昼間は何かをカサンドラ市内に持ち込む依頼を受けていたらしい。

 だが中身については何も知らされていなかった様だ。


「どうする? ランジェ」


 ランジェに聞いてみる。

 俺ではとても判断出来ない。


「うーん。二人とも今後、僕達に二度と関わらないと約束できる?」


「ああ。あんた達には二度と関わらない。約束だ」


 おっ。

 これは許す流れだな。


 心の底で少しホッとする。

 冒険者としてまだまだ甘い俺がいる。


「じゃ、たいした情報も得られなかったし解放してあげようか。みんなもそれでいい?」


「はあ、仕方ないわね」


「警備隊には連絡しなくていいのか?」


 渋々頷くルナの横で、俺はランジェに聞いた。


「うん。もう解放してあげよう」


 さすがランジェ、寛大な処置だ。

 少し甘すぎる気もするが、もう関わらないならそれでもいいか。


「ですって。あんた達命拾いしたわねー、さっさと行きなさい」


「すまない……恩に着る」


 バジルとチョロは、よろよろとおぼつかない足取りで部屋を出ていった。




 ――宿屋廊下にて――


 解放されたチョロは部屋を出て数歩歩くと「はー」と安堵の溜息を付いた。

 まだ震える足で宿屋の廊下を足早に歩く。

 あいつらの気が変わらない内にさっさと宿屋を出よう、チョロの頭の中はその一心で満たされている。

 

 そんなチョロにバジルが話しかける。 


「済まなかったな、チョロ」


「は~本当に怖かったですよ~」


 チョロはまだ身体が小刻みに震えている。

 余程恐怖を感じたのだろう。


「……チョロ、俺な、この世界から足を洗おうかと考えてるんだ」


「えぇっ! 本当ですか!?」


 突然の言葉にチョロが驚いて振り返る。


「ああ。トラットリアで喫茶店でもやろうかと考えていてな」


「兄貴の故郷じゃないですか。 いいですね! 兄貴のコーヒー美味いっすからねー」


 バジルは仕事が終わると必ずコーヒーを入れてくれた。

 チョロはそのコーヒーが大好きだった。


「はは。で、だ。お前には俺の店でパンを焼いて欲しいんだが、頼めるか?」


「……兄貴~! 任せてくださいっ」


 チョロは嬉しそうに足早に階段をかけ降りていく。

 その背中を微笑ましそうに見つめるバジル。

 バジルが足を洗う決意をしたのはチョロの為でもあった。


(チョロにはこの世界は無理だ……。だが、その前にあいつらと話をつけねぇとな)



 宿屋を先に出るチョロ。


 その時バジルの目に、猛スピードでチョロに迫る白い影が見えた。



「!? チョロあぶねぇっ!」


 バジルは咄嗟に駆け出し、チョロに体当たりをして突き飛ばした。


 とても間に合うとは思わなかった。

 だが()()()間に合った。


 最初から標的はバジルだったのだろう。

 白い影はチョロの手前で急激に曲がり、狙い通り体勢を大きく崩しているバジルへと難なく近づく。


 ザシュッ!


 喉を押さえながら倒れこむバジル。

 押さえた手の間からは真っ赤な鮮血が噴き出している。


 突き飛ばされたチョロがゆっくりと起き上がる。

 チョロには突き飛ばされた理由が全く解らなかった。 

 そして大好きな兄貴に一言文句を言ってやろうと振り返った時には、全てが終わった後であった。



「あ、兄貴ーっ!!」



 薄宵の中、チョロの絶叫が響き渡った。




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