第51話 これが主役級か
「あ~~~」
俺は宿屋のベッドに横になり、のんびり過ごしていた。
カサンドラに入り宿を取った後、ルナは町を、ランジェは闘技場を見たいと行って出ていった。
初めての三人別行動だ。
俺はシャワーをさっと浴びて、すぐにベッドに横になった。
ちゃんとしたベッドは三日ぶりだ。
うーんと背伸びをして、バキバキに凝った筋肉を少しずつほぐしていく。
ゴロンとベッドに仰向けになり、部屋の天井を眺める。
木目模様が綺麗な板張りの天井。
日本で俺が住んでいた部屋の天井と大差が無い。
一人になると、たまに考える。
本当に俺は、偶然異世界に来ただけなのだろうか。
ランジェもルナも、俺が知る異世界人はみんな特別に見える。
主役級とでも言うのだろうか。
みんな確固たる信念を持ち、この世界に何かしらの影響を与える為に転移させられてきた。
イレギュラーな存在。
そんな風に思えてならない。
わかってる。
俺は自分の身に起きた、転移と言う事象に何か意味が欲しいだけだ。
かと言って、「おお勇者よ。世界を救ってくれ、さあ早く」と言うのも、違う気がする。
ランジェやルナなら喜んで旅立ちそうだけど。
……。
そう言えば、子供の頃に大好きだったヒーローアニメがあった。
そこに出てくる一人の男。
最初はヒーローの相棒で頼りになる渋い男だったが、物語が進むにつれてヒーローも登場する敵も、次から次へ異常なまでに強くなっていった。
男も多少は強くなったが、凄まじい強さのインフレ化についていけない。
男の理想や思想等は全て無視され、どんどん進む物語。
新しく出てきたイケメンキャラに相棒の座も奪われ、敵に最初にやられるパターンがお決まりになっていった。
「こいつ、もういらないよなー」
と、子供の頃の俺はクラスメイトと、その男を良く馬鹿にしていたもんだ。
最初は好きだったんだけどな。
……。
なんでそんな事を思い出したんだろう。
その男は一体どんな気持ちで敵と戦っていたんだろうか
自分の存在意義は。
敵と戦う意味は。
意地か、プライドか。
信念か、正義感か。
「こいつ、もういらないよなー」
俺達の声がもし聞こえていても、同じ様に戦えていたのだろうか。
そう言えばその男の必殺技はパチンコを使った、ワイルドショットだった。
なんてことはない。
今の俺と大差ないじゃないか。
俺はぼんやりと部屋の天井を見ながらボーッと考えていた。
「まー、なるようにしかならないよな」
独り言というには大きすぎる声。
ふと、窓の外を見ると風景が赤みがかってきている。
もう陽が暮れて来たな。
そろそろ二人とも戻ってきてもいい頃だな。
と思っていたら、ランジェが部屋のドアを勢いよく開けて入ってきた。
「聞いてよヨースケッ! さっき裏道を歩いていたら、女の子が空からゆっくりと降りてきたんだ! 胸には光る石のペンダントをしていて……」
……。
あかん。
大冒険の予感がする。
「……で、その子はどうしたんだ?」
恐る恐る俺は尋ねてみる。
「近くにいた少年が家に連れて帰ったよ。凄く信用できる目をしてたから大丈夫」
ふぅ~、多分セーフ。
良くやった。
そのフラグは絶対に立てちゃ駄目な奴だ。
俺がほっと胸を撫で下ろしていると、続いてルナが部屋に帰ってきた。
こちらも随分と興奮している。
本当に嫌な予感しかしない。
「ちょっと聞いてよー。さっきホウキを持った女の子が、サングラスかけたちっちゃいオークと取っ組み合いの大喧嘩しててさー。とりあえず両方殴っといたわ」
どういう状況だよ。
あとなんで殴ったの?
まあその二人ならギリギリセーフか?
「あとでっかいオオカミに乗った女の子が暴れていたから、とりあえずファイアーボール撃っといたわ」
はいアウト―。
あかん。
更なる大冒険の予感がする。
あとなんでファイアーボールを撃つの?
「……で、どうした?」
とりあえず尋ねてみる俺。
「そのオオカミが思いの他素早くってー。全部避けられちゃった」
「なんだろ? その子ビーストテイマーかな」
コイツ最悪だ。
色んなフラグにかすりやがって……。
これが主役級か……と俺は理不尽さを感じながら、深い溜め息をつくのであった。
◆
「ギルドには行ってきたよ。はい、ライアーデーモンの報酬」
そう言ってランジェがルナに報酬の入った皮袋を手渡す。
すまない。
一人でギルドに行ってくれたんだな。
俺も行かなきゃな~とは思っていたんだが、ついつい部屋でのんびりしてしまった。
「ありがと~。もう手持ちが心細かったのよ~」
皮袋を受け取ったルナは予想外の重さに驚いたのか、すぐに袋の中を確認する。
「げっ!見てよこれ!」
ルナが皮袋の口を開いて、俺に中身を見せてきた。
そこには俺の想像を越える枚数の硬貨が詰められており、銀貨も数枚混じっている様に見える。
枚数的にはヒュドラ退治の時と良い勝負かも知れない。
「こんなに報酬高いのか!?」
「悪魔は退治報酬とは別に、発見報酬ももらえるからね」
「いやーん。重いけど嬉しい~」
満面の笑みでポーチに硬貨を詰めるルナ。
「アンデッド退治の依頼はたくさんあったんだけど、やっぱりどれも討伐隊に参加しなきゃダメみたいだね」
「やっぱりそうか。じゃアンデッド退治は完全にボランティアになるな」
討伐隊に参加しなくちゃいけないのは、誰が何体退治したのかわからないからだ。
自己申告制だと不正が横行するだろう。
また、例え証拠品目的だとしても、アンデッドの身体は、ほんの一部でも都市に持ち込む事は固く禁じられている。
疫病や呪いを恐れての事だ。
「そうそう。あと、この辺の依頼をざっと見てきたんだけど、それほど危険な事案は無さそうだったよ。一番厄介そうなのは危険度Cのアイアンゴーレム討伐かな。」
「あたしも町で噂話を集めてたんだけど、アンデッドと魔王の話ばっかりね。でもまだ人的被害はほとんど出てないそうじゃない。なんか変よねー」
うむむ。
俺がベッドで横になっている間に、二人は情報収集をしていたらしい。
この辺りで少しずつ差が付いていくんだな。
うん。
俺も頑張ろう。
そうだ。
俺にはネガティブになっている暇など無いのだ。
まず行動しなければ追い付く事は不可能だ。
「あ、僕美味しそうなおせんべい買ってきたんだよ。食べる?」
袋には「カサンドラせんべい」と書いてある。
確かカサンドラ名物だった気がする。
「いただきまーす」
パリッと一口食べてみると、軽い食感が小気味良い。
鼻の奥にぷんと上がってくる醤油らしき匂い。
おお。
これは正しくせんべいだ!
久しぶりに食べる和の味に少し感動する。
「あら。美味しいわ~。あたしも買っていこうかな?」
「だったらギルドの横の武器屋の三件隣にお店があるよ。味もいろいろあって、一番人気は抹茶味だって」
「へ~じゃ、あたしは……」
と、ルナがいいかけた所で、
「ちょっと待って」
ランジェが話を制止した。
なになに?
どうしたの?
「あーなるほどね」
二人はわかっているみたいだが、俺にはさっぱりわからない。
しーっと言いながらルナが部屋の扉を指差す。
そっと耳を澄ませてみる。
すると、わずかにだがカシャカシャと金属の擦れる音と共に、廊下の板がきしむ音が聞こえる。
「足音は二人。さっきまでの会話の内容だと、これから僕達を襲うみたいだね」
会話が聞こえたの!?
ランジェはまるで他人事の様にそう言い放つと、ロングソードを片手に持ち、スッと立ち上がる。
室内では大剣は振り回せないだろう。
「ちょっと行ってくるね」
と、コンビニにでも行くみたいに、ランジェは扉を開け部屋を出ていった。
「あっ! てめぇはっ!!」
「こんばんは」
「がっ!」
「ぎえっ!!」
「ただいま~」
はやっ!
一分もしない内にロングソードを鞘に納め、ランジェが戻ってくる。
男達は襟首を捕まれずるずると引きずられているが、抵抗する素振りは無い。
完全に気を失っているみたいだな。
とりあえずベッドのシーツで手足を縛り、動けない様にする。
「警備隊に連絡するか?」
「うーん。それでもいいけど、聞いておきたい事があるんだ」
「そうね。じゃ」
床にだらしなく横たわっている男達にルナが活を入れる。
「うっ!」
「ぐえっ!」
「気が付いたみたいだな」
背の小さい男はホビットだろうか?
随分とおどおどしている。
不安そうに周りの様子をきょろきょろと窺っている。
背の高い男は恐らく人間だ。
その鋭い目つきで、ふてぶてしく俺達の事を睨みつけている。
ひょっとして昼間の男達か?
赤い全身鎧ではなく、ごく普通の革の軽装備だが、なんとなくそんな気がした。
「起きた? じゃーこれから尋問を始めまーす。うふふ」
ルナはそう言うと、悪魔の様な笑みを浮かべながら、男達にゆっくりと近づいていくのであった。




