第49話 無料よ無料。
「おお。いらっしゃいませ。ランジェさんにヨースケさん」
五日ぶりに「トンテンカンテン」を訪れると、フォルダーが出迎えてくれた。
相変わらず汗をふきふき、恰幅の良い身体をしている。
「どーも。また来たよー」
俺がそう挨拶すると、フォルダーが足早に近寄ってきて、「ふうむ」と俺の頭から爪先までをじっくりと眺め始めた。
えっと、なんでしょうか?
そしてひとしきり俺の事を眺めると、次に俺の装備を手の平でパンパン叩いたり、ポケットから小さいトンカチを取り出しトントンするフォルダー。
あの……一体何をしているんでしょうか。
やがて気が済んだのか、やっとフォルダーが口を開く。
「ふうむ。ヨースケさんの防具、もう随分と傷んでおりますな……。よほど激しい戦いをされたのですか?」
言われて気づいたが、確かに盾や皮鎧にはあちこちに傷が付いている。
特に右腕に装着している盾は損傷がひどい。
大きな凹みが出来ていたり、細かい傷等は数えきれない程だ。
逆に言えばそれだけ身体を守ってくれたと言う事でもある。
「あっ……。すまない。魔物と連戦したもんだからさ」
つい謝ってしまう。
「いえいえ。謝る事などございませんよ。大変でしたね、ご無事で何よりです」
柔和な笑顔を見せるフォルダー。
良かった。
五日前に買ったばかりなのに、もうボロボロにしてしまって、装備を大事にしない奴だと思われてるんじゃないかと感じたのだ。
「当店の防具がお役に立てている証拠ですから、嬉しい限りですよ」
俺の事を見ながら、続けてフォルダーが話す。
「上半身、特に盾の消耗が激しいみたいですね。まだ大丈夫そうですが、もう少し傷んだら補修か買い替えをおすすめ致しますよ」
「そうだな。前向きに考えておくよ」
今装備している盾は直径30センチ程の円形の小型な盾だ。
次はもう少し大きい盾に替えてもいいかも知れない。
冒険者LVが上がったからか、最近はあまり装備品の重さが気にならなくなってきたのだ。
「ご自身の装備の損傷しやすい場所=防御しにくい場所とも言えますからな。知恵のある魔物は、装備の一番損傷している部分を狙ってきたりする事もあるそうですよ」
なるほど。
損傷が激しいって事は、そこにそれだけ攻撃が当たっているって事か。
俺の装備で一番損傷してるのはどこなんだろう。
後で確認してみるか。
「ところで……そこの美しいお嬢さんは新しいお仲間ですかな?」
「あたしはルナよ。よろしくね、おじさま」
営業用のスマイルを見せながら、フォルダーに挨拶をするルナ。
フォルダーはと言うと……まんざらでも無さそうだ。
「それで、今日はどのようなご用件ですかな?」
目尻をだらしなく下げながらフォルダーが尋ねる。
「あー。ルナの装備を一式整えたいのと、俺達の装備の補充とかかな」
「あ、あたしは武器だけでいいわよ。防具はパス。敵との距離を取る為に動くから、重くなるのはヤダわ」
そういえばルナは戦闘中、絶えず動いていた。
「当たらなければどうって事無いわ」って、どっかの少佐みたいな事を言ってたな。
「ローブとかはどう? こっちに魔法抵抗力が上がるのがあるよ」
ランジェが店内に飾られたマネキンを指差している。
マネキンは真っ白いローブと、いかにも魔法使いが被りそうな帽子と杖を装備し、今にも魔法を撃ちそうなポーズを決めている。
「ふーん。今より重くならなきゃアリかもね、でもまずは武器かしら。やっぱし魔導士といったら杖でしょ」
「杖ならこちらにたくさんございますよ」
「じゃー、ちょっと見せてもらおうかしら」
ルナはフォルダーに案内されて杖コーナーに歩いていく。
二人の姿は棚の間に入って見えなくなったが、そんなには離れていないらしく、すぐにフォルダーの声が聞こえてきた。
「これなんかオススメですよ!」
「はい、効果と致しましては……」
「ええ、はい!もちろん保証もございますよ……」
「お値段は……いや……敵いませんな……」
最初は元気よく杖の説明をしていたフォルダーだが、どんどん声に元気が無くなっていく。
可哀想に……。
「じゃ俺達も自分の欲しい物を見ようか」
そう言って俺は弾薬コーナーへ、ランジェは武器のコーナーへ向かうのだった。
◆
結局、ルナは杖を購入せずに、純白のローブを二着と、ショートダガー、あと大きめのリュックを購入した。
ローブは、魔法による攻撃に対して微々たるものだが抵抗があるという。
今着ている普通のローブよりは丈夫に出来ている様だし、防御力も少しは上がるだろう。
何より軽い。
二着買ったのは着替えの分であり、既にリュックに一着入れている。
女子なら仕方あるまい。
リュックはルナには不釣り合いな位大きかったが、本人曰く「背後からの攻撃を防げるじゃない」との事だ。
杖を購入しなかったのは、予算内で購入できる杖は効果がイマイチだったからだ。
ほんの少しだけ魔法を多く撃てるとか、魔法を使い過ぎた際の眩暈や立ち眩みからの回復を速めるとか、魔法撃ち放題のルナにはいずれも不要であった。
ショートダガーは護身用だって。
そしてランジェはロングソードを一振り購入した。
元々持っていた一本はライアーデーモンに投げ付けた後、行方不明となっている。
よっぽど遠くまで飛んで行ったのか、探しても見つからなかったのだ。
ランジェは無くても構わないと言っていたがルナが反対をした。
「買っときなさいよ。前衛が予備の武器も持たないなんて不安でしょ」
もうお金の管理はルナに任せてある。
パーティー全体の懐事情は把握済だ。
そのルナがいうんだから金銭的にも問題はないのだろう。
最後に俺だが、ペレットクロスボウの弾を三発だけ購入した。
本当は10発単位でのセット売りなのだが、特別にバラで売ってくれたのだ。
なんだか随分とセコイ気もするが、身体が不要に重くなるのはなるべく避けたい。
あと驚いた事に、盾の補修をサービスでやってくれた。
「やー。本当にありがとう。盾まで直してもらっちゃって……」
「いいんですよ。その代わり今後ともご贔屓にして下さいね」
盾は凹みや傷が綺麗に無くなっている。
おそらく革ごと張り替えんたんじゃないだろうか。
持ち手も少しぐらついていたのだが、今はしっかりと安定している。
本当に感謝だ。
「しかし、ガンナーの皆さんは大変ですね。弾は消耗品ですからな」
「そうなんだよね。すぐ無くなっちゃうからさー」
「でもヨースケ殿は弾持ちが良いですぞ。一度の戦闘で10発無くなるなんてザラですからな」
「いや、俺のは戻ってきてくれるからさ」
そういって俺は弾を手の平の上に置いて、フォルダーの目の前でコロコロと転がして見せた。
「おお、そうでしたな! いや本当に便利なスキルですなあ」
フォルダーのいう通り、本当に助かっているのだ。
おかげで所持しなきゃいけない弾の数も最小必要限で済んでいる。
俺は20発しか所持していないが、40発、50発持ち歩いているガンナーだっているらしいのだ。
さて。
これで旅の準備はOKだな。
「じゃ、そろそろ失礼するよ。色々ありがとう」
「おや。もう、行かれますかな」
フォルダーが店の出口まで案内をしてくれる。
「それではお気を付けて、良い旅を」
フォルダーに見送られ、俺達は「トンテンカンテン」を後にした。
◆
――乗合馬車待合所――
これから俺達は、馬車が停留する中で魔王アリスの城に一番近い、城塞都市「カサンドラ」へと向かう。
その後、魔王アリスに説教をする為に、たった三人で魔王の城へ乗り込む訳だ。
しかも城まではアンデッドが大量に発生している……。
うん。
何度考えても無謀だな。
ノープランだ。
それでも行くと決まったのは、ランジェが「多分大丈夫」と言ったからだ。
でもやっぱり俺は不安で不安で仕方がない。
「なあ、本当に行くのか?」
「ここまで来たら覚悟を決めなさい。一回行っちゃえば大丈夫だって」
こいつはバンジージャンプか何かと勘違いしてるんじゃなかろうか……。
俺の感覚的には、暴力団の事務所に乗り込むのと大差無い。
「お待たせー」
ランジェが露店から水と食料を購入して戻ってきた。
馬車の待合所には、旅人を目当てに食料品や生活用品が売られているのだ。
「はい、お釣り」
「ご苦労様~」
ルナはランジェからお釣りを受けとると、腰に付けた小さいポーチに入れる。
旅の資金は、このポーチとリュックと、あと秘密の場所に分けて所持しているらしい。
なんと用心深い。
俺とランジェにも最低限のお金が渡されている。
無駄遣いは厳禁だが、少しは自由に使っても良い。
お小遣い制だな。
……あれ?
もう尻にしかれてる?
「じゃあ、魔王の城にレッツゴー!」
元気よく手を挙げるルナを無視して、俺とランジェはカサンドラまでの旅路を確認する。
「どのくらいの距離があるんだっけ?」
「うーんと、カサンドラまでの直通便でも三日かな。マルセル経由だと五日かかるみたい」
「じゃ三日のほうだな。宿営地に泊まりながら進むって感じだよな」
「そうだね」
「食料や水は、宿営地で足りない分を補給していくんだよな」
「うん。カサンドラに着くまでの分は買ってあるけど、もし無くなったらね」
ルナが暇になったのか顔を割り込ませてきた。
近い近い。
「ねーねー。無料馬車なんてあるわよ。あれにしましょうよ」
とんでもない事を言い出したよ、この子は。
「いやいやいや! それだけはやめとけ」
「僕もちょっと……」
いつもは大人しいランジェも珍しく反対する。
「なんでよ? 無料よ無料。お金は少しでも節約しないと」
「あのな。あれに乗ったら、尻が増えるか減るぞ。それでもいいのか」
「なに言ってんのよ?」
すぐそばに無料馬車の御者さんがいるので、あんまり直接的な事は言えない。
そっとオブラートに包まなければ。
「じゃ、お前だけ試しに近場まで乗って戻ってこい。それですべてわかる」
「なになに、逆に気になるじゃないのー。じゃちょっと待ってて」
そう言ってルナはスタスタと無料馬車へと歩いていく。
おお、本当に行きやがった。
アーメン。
手すりに手をかけ、躊躇無く無料馬車に乗り込もうとするルナ。
しかしその時、御者の男がルナに話しかけた。
「お嬢さん、無料馬車は初めてかい?」
「そうだけど?」
不意に声をかけられ、足を止めるルナ。
「じゃ、『尻が増えても減っても文句は言いません』って、これにサインしてくれ。言っておくが途中下車は出来ないからな」
ナイス!
無料馬車の御者が俺達に向かってパチリとウインクをする。
どうやら俺達の会話は聞こえていたらしい。
御者からしても、馬車に乗ってから騒がれたりしたら迷惑なのだろう。
頭を横に振りながら、しぶしぶ俺達のもとに戻ってくるルナ。
「はいはい。さあ行くぞ」
俺は仏頂面をしているルナの背中をぐいぐい押し有料馬車の方へて促す。
そして俺達はカサンドラへと出発するのであった。




