第48話 新たな旅へ
「本当にごめんウホ……」
ダズはしょんぼりとした声でそう言うと、申し訳なさそうに頭を下げた。
正気に戻ったダズに、俺は今までの経緯を説明したのだ。
ダズの中では、俺はペクトロ村の芋工場でまだ働いている事になっていた。
なのでルナはもちろん、ランジェとも初対面だ。
「まったく! ヨースケちゃん達に感謝しなさいよっ」
先程までは泣いていたナージャだったが、今はカンカンに怒っている。
眼を真っ赤に泣き腫らしているので、余計に迫力がある。
「まーまー。一番苦労したのはナージャなんだから。でもこれからはバナナだからと言って、何でもかんでも口に入れない様にな」
俺は少し強めの口調でダズに注意する。
なんだか保育士さんになった気分だ。
まあさすがに言わなくてもわかっているだろうが。
「!? …………はいウホッ……」
しばらく間をあけてから、返事をするダズ。
……え?
おいおい本当にわかってるのか?
当たり前の事を言ったつもりだが、なんだかひどく悲しげな表情をしている。
ゴリラ的には無理難題……だったのかもしれない。
「でもスピネルの森に悪魔が出るなんて……。ごめんなさいね。そんな危険な所に行かせてしまって」
「ウホッ。本当によく無事だったウホ。ライアーデーモンは厄介だからなウホ」
ナージャとダズは顔を見合わせながら、うんうんと頷いている。
「ダズさん達も戦った事あるんですか?」
興味深そうにランジェが二人に尋ねる。
「ウホッ。前に遭遇はしたけど戦闘にはならなかったウホ」
「そうなのよ。この人見た目がこうでしょ。仲間だと勘違いしてどっか行っちゃったのよ」
ああ、納得……。
って、本当かよ!?
「それにあたし達は、戦闘中はサインで行動するから【語解】のスキルはあまり関係ないわね」
「へー! 流石ですね」
それを聞いてしきりに感心するランジェ。
ランジェは何となくだが、二人の冒険者としての技量の高さに気が付いている様だ。
久しぶりに褒められて、嬉しそうに小ジャンプを繰り返すダズ。
床の埃を舞い上げるもんだから、ナージャさんに尻尾で頭をはたかれている。
俺には全然ピンと来ないな。
でもサインか……。
俺達も緊急時の為に、簡単なサインを決めておいた方が良いのかも知れないな。
注意を引き付けてくれ! とか、
一旦撤退するぞ! とかあれば便利かもしれない。
「これからどうするんだウホッ?」
ようやく大人しくなったダズが、頭をさすりながら尋ねる。
「魔王アリスに説教しに行くの」
ルナがグッと拳を固めて元気よく返事をする。
こいつの正義感はどこから来るんだろう……。
いつか絶対にトラブルを起こす気がしてならない。
……。
はっ!
今が正にその時なのでは!?
「あら。魔王アリスがあなた達に何か悪い事でもしたの?」
ナージャが不思議そうな顔で問いかける。
「酒場で聞いたんだけどさ、北の方でアンデッドが増えてるんだって。それが魔王アリスのせいみたいなんだ」
「ウホッ。単なる噂に振り回されるのは良く無いウホッ」
ダズがいつになく真面目な顔をしている。
「冒険者たる者、根拠の無い噂や信憑性の無い話に振り回される事無く、己の信念に沿って行動をするべきだウホッ」
お前、さっきまでゴリゴリ、ゴリゴリ言ってたくせに……。
でも、確かに仰る通り、その通りだと思う。
「そうね。それが例え依頼であったとしても、正しいかどうかはちゃんと見定めないとね。気付いたら悪の片棒を担がされていたとか、良くある事よ」
「はい。それは決して忘れない様にします」
ランジェが真っ直ぐにナージャの顔を見ながら返事をする横で、ルナが余計な事を言い始める。
「でも魔王が悪事を働かないって、それはそれで問題じゃないの」
ルナは眉間にしわを寄せて納得がいかない表情だ。
何も問題は無いと思うんだが……。
「ま、とりあえずはアンデッド退治に向かうとするよ。実際困っている人もいるんだろうし」
「じゃ今日は家に泊まっていくといいわ。夕飯も食べていってね。腕によりをかけるわ」
そう言ってナージャが袖をまくる。
「ありがとうございます」とランジェ。
「きゃー! 楽しみね!」はルナだ。
「ウホッ! バナーナ! バナーナ!」
そこの跳び跳ねてるゴリラ、ちょっとこっちこい。
これが己の信念に沿って行動するという事なのだろうか……。
だがみんな笑顔で何よりだ。
俺も自然と表情が綻んでしまう。
その夜は、ささやかながらもみんなでダズの快気祝いを行ったのだった。
◆
「何かあったら連絡してね。力になるから」
「レーベルに来たら顔を出せよ!ウホッ」
翌朝俺達は、ダズとナージャに見送られながら酒場を出た。
「またねー」
「植物研究所には絶対に行くなよー!」
俺達は大きく手を振った。
次に会えるのはいつになるのかわからない。
大げさかもしれないが、これが最後になるかも知れないのだ。
ダズとナージャも笑いながら、俺達が見えなくなるまで手を振ってくれた。
さてと。
じゃ行きますか。
「色々なお店があるのねー」
広場を抜けた通りには、食料品が中心だが様々な店が軒を連ねている。
造りはテントの様に簡易的な店がほとんどだ。
そう言えば、出発の時には酒場の前の広場に、店を構えていた占い師達が一人もいない。
どうやら「ミエール・ミライ」が別の町に移動したらしく、みんなついていった様だ。
確か「往復びんた占い」だったよな……。
ルナを占わせれば良かったな。
ルナは物珍しそうに、キョロキョロと周りを見ながら歩いている。
「見てよあれ。ナミダ専門店だって! 何かしら?」
ルナが指さす先には「閉店セール! 最大100%OFF」とのぼりを掲げた店が見える。
100%OFFの意味が分かっているのだろうか?
「あれは、いろんなモンスターの涙を売っているお店だよ」
名前のまんまだな。
ランジェの説明によると、モンスターの涙は錬金術師なる職業の人達が、薬やマジックアイテムを生成するのに使用するのだそうだ。
有名な所でいうと、ドラゴンの涙やサイクロプスの涙等は高値で取引されているらしい。
「へー。あたしの涙も売れないかしら」
「無理だろ。そもそもお前は涙を流すのか?」
「失礼ね。玉ねぎが5~6個あれば余裕よ」
俺は1個あれば充分だな……。
「ごめん。エルフの涙が売れるって話は聞いた事無いよー」
ランジェ。
真面目に答えなくてもいいぞ。
「でもここだけの話、涙じゃ無いんだけど、転移者や転生者が闇オークションとかで売られてるって聞いた事があるよ」
ランジェが物騒な事を言い始めた。
「一体なんの為だ?」
「目的は色々なんじゃないかな……。物珍しさとか、奴隷とか……中には不老不死の薬の材料になるって信じている人もいるみたいだし」
横ではルナが露骨に嫌そうな顔をしている。
これはスイッチが入りそうだ。
が、予想外にルナは何も言わなかった。
「まーまずは装備を整えなきゃな。「トンテンカンテン」へ急ぐか」
これ以上ルナを刺激する前に、さっさと広場を抜けた方が良いな。
俺はそう判断して、少し歩く速度を速める。
…………い。
その時ルナが何か呟いた様な気がしたが、広場の喧噪に掻き消され、俺には聞こえなかった。




