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ほかほか  作者: ねこ侍
第一章
59/193

第47話 ゴリゴリ


「ナージャさん、お待たせしましたー!」


「クサリバナナ持ってきたぜーっ!」


 そう言って俺とランジェは勢い良く酒場のドアを開けた。


 行きは散々だったが、帰りは特に何事もなくレーベルまで無事帰ってこれたのだ。

 毎回毎回アクシデントが起きてたまるか。


 薄暗い店内、ナージャは店の奥にあるカウンターの椅子に腰かけていた。


 頬杖をついて、少しうとうとしていた様だ。

 俺達が勢い良く店内に入ったので、驚かせてしまったのか、ナージャは「キャッ」と小さく悲鳴をあげた。


 だが、すぐに俺達だという事に気づくと席を立ち、足早に近づいてきた。


「二人共お帰りなさい。無事で何よりだわ。大変だったでしょう」


 俺達を気遣うナージャの目にはうっすらとクマがあり、顔も少しやつれている。

 そりゃそうだ。

 だって、正気を失ったゴリラと暮らしているんだもの。

 その苦労は計り知れない。


「俺達は平気だよ。それよりこれ見てよ」


 俺は背中のズックを床に下ろす。

 どすんと重い音と共に、床にうっすらと溜まっていた埃が舞い上がる。

 店内の掃除をする余裕も無いのだろう。


「どうぞ。ご依頼の品でーすっ!」


 そう言いながら俺はズックの口を開いて見せた。

 ズックの中に、これでもかと詰められているクサリバナナ。


 少し青臭い匂いと、熟れたバナナの匂いが辺りに漂う。

 完熟か早熟か、どれが一番効果があるのかわからなかった為、とにかく手当たり次第に採ってきたのだ。


「これだけあれば足りるだろ」


「充分だと思うわ。本当にありがとうね」


 さあ、ダズよ。

 今元に戻してやるぞ。


「ヨースケちゃん。ところで、後ろの娘は?」


 ナージャはルナの事も気になっている様だ。

 ルナはと言えば、俺の後ろに隠れるように立っていて、先程からナージャの方をぽーっと見ている。

 珍しく大人しいな。


「ああ。魔導士のルナだよ。新しくパーティーメンバーに加わったんだ」


「あ、あたし、ルナと言います。よろしくお願い致します」


 一歩前に出てペコリと頭を下げるルナ。

 敬語も使えたのか……。


「こちらこそよろしくね。あたしはナージャ。ふふ。どんどん賑やかになっていくわね」


 ナージャは長い黒髪をかきあげながら、嬉しそうにそう言った。


「ダズは向こうの部屋で寝ているわ。ついてきて」


 薄暗い酒場の奥へと歩き出すナージャの後をついていく。

 ナージャの長い尻尾は、床を引きずらない様に腰にベルトの如く、くるりと巻かれている。

 

「本当綺麗な人ねー」


 ルナがうっとりとした表情でナージャの背中を見ている。


「ドラゴニュートと人間のハーフなんだってさ」


「へぇぇー。あたしもハーフにすれば良かったぁ~」


 ガチャリ。

 

 ナージャが部屋の扉を開ける。

 カギはかけていない様だ。


 案内された部屋に入ると、中央の床にダズが寝ていた。

 相変わらず、ピーンと身体が真っ直ぐに「気を付け」の姿勢を取っている。

 漫画みたいに鼻からちょうちんを出していて、呼吸の度に膨らんだりしぼんだりしている。


「あら。また寝相のいいゴリラねー」


「言っておくが、このゴリラがダズだからな」


「ええっ!?」


 ルナはダズをまじまじと見つめる。

 パンっとダズの鼻ちょうちんが割れた。


「ダズとナージャさんって夫婦なのよね……。あたしこの世界に来て、一番驚いたわ……」


 まー初対面じゃそうなるよな。

 でも、ダズの優しさと懐の深さを俺はよく知っている。


 ぷくーっと、再度膨らみ始めるダズの鼻ちょうちん。

 しかしよく寝てるな。


「クサリバナナは食べさせればいいんですよね」


 ランジェがクサリバナナの皮を手際よくむきながら、ナージャに尋ねる。

 クサリバナナは一つ一つはほぼ円形の為、思いの外むきづらい。


「ええ。植物研究員の人に聞いておいたんだけど、口から普通に何本か食べさせればいいみたい」


 よしよし。

 さて、後はおとなしく食べてくれればいいんだが。


「ほら、ダズ起きて。ヨースケちゃん達がクサリバナナ持ってきてくれたわよ。食べて」


 ダズにナージャが語りかける。


 すると、眠っていたダズの目がパチッと開いた。

 気を付けの姿勢のまま、腕を使わずに腹筋の力だけですっと上体を起こす。


 そして、首だけ九十度ぐりんと回し、横にいる俺達を見つめる。


「ひっ! 何っ!? 怖いんだけど……」


 ルナが後ずさりし、怯えた声を出す。

 恐怖の為か、少し声が震えている。



 そしてダズがゆっくりと口を開いた。




「私には悩みがあります」




 ?





「毎朝、小さい箱から出られません」






 え?






「見ている。見ている。見ている。私が私を私と」





 はいー??





「ゴリゴリゴリゴリゴリゴリゴリゴリゴリゴリゴリゴリゴリゴリゴリゴリゴリゴリ………………」




「ひいいっ!」


 悲鳴をあげてルナが腰を抜かしてへたり込む。


 ダズは無表情で俺達を見つめながら、念仏の様にゴリゴリ唱えている。



 うわー。

 やっべえのきた。


「おいおい、症状がかなり進んでないか」


「何かに憑りつかれているんじゃないの!?」


「まずいね。早く食べさせなきゃ」


 ランジェがクサリバナナの皮をむいてダズのそばに置く。


「ほら、ダズ。大好きなバナナだぞー。好きなだけ食べて良いぞー」


「ゴリゴリゴリゴリ……」


 俺は直接食べさせようと、ランジェが剥いたクサリバナナを数本まとめて、ダズの顔の前に持っていく。


「はーい、美味しいバナナですよー」


「ゴリゴリゴリゴリゴリゴリゴリゴリゴリ……バクッ」


「うぎゃーーーーっ」


 バナナを持つ俺の腕ごと口にくわえるダズ。


 俺は慌てて口から手を引き抜いた。

 ヨダレでもうベタベタである。


 ダズはと言うとモゴモゴと口を動かして、クサリバナナを味わっている。

 そしてごくりと飲み込むとおもむろに感想を語り出した。


「うーん。口に入れた瞬間に芳醇な旨味が口の中一杯に広がります。そして一噛み毎に鼻へ抜ける爽やかな風味。これは野生のバナナのなゴリなゴリなゴリゴリゴリゴリゴリゴリゴリ…………」



 ああ惜しいっ!



「よし、全部食べさせよう! どんどん皮を剥くんだ」



 俺達は次から次へと、ダズにクサリバナナを食べさせるのだった。





 そして、その時は不意に、突然訪れた。


「ウホッ?ヨースケじゃないか。久し振りウホッ」


 先程までの狂気に侵された雰囲気はなく、その顔は明らかに晴れやかである。


「ダズ~~~」


 ナージャがダズに駆け寄って抱きついた。


「本当に心配したんだから~」

 

 いつもクールなナージャが、人目もはばからずに涙で顔をぐしゃぐしゃにしながら、「うえ~ん」と泣いている。


「ヨースケッ。これは一体何事ウホ?」


 胸の中で泣いているナージャと、横に立っている俺とを交互に見ながら、困った顔をしている。


 ナージャの涙は、いい薬になるだろう。

 しばらく困っとけ。


 ランジェもルナもほっとした顔をしている。

 俺も心底ほっとした。

 ダズが元に戻って本当に良かった。


 これでダズのバナナのつまみ食いから始まった一連の騒動は、ようやく解決をしたのであった。






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