第46話 マナカナ
「「えっ?」」
俺とルナは同時に声を出し、ランジェの方を見る。
「聞いてないわよ」
「そんなのもあるのかよ」
口に入れようとしていた、たまごサンドを思わず落としそうになる。
「ええー。じゃ、そこに住んでいるのは天使とか神様とかなの?」
「うーん。天使も神様も、悪魔と違って存在は確認されていないんだ。だけど【天界】もあるんじゃないかって話。不思議だよね」
俺はランジェの話を聞いても、あまり不思議には思わなかった。
悪魔と同様に、神様や天使がいる事は科学的には証明はされていない。
それなのに大昔からその存在、その者達が住まう世界はあると信じられてきた。
「そーよねー。悪魔がいるんだから天使もいなきゃ不公平だわ」
ルナはパンにマーガリンとケチャップを塗っている。
サンドイッチにケチャップか……。
俺はマヨネーズ派なのだが、テーブルの上にはそれらしき調味料は残念ながら無い。
頼めば出てくるかな?
「そうだよね。でも【ガルムヘイズ】でも天使や悪魔、その概念はあったけど、実際に見た人はいなかったんだ」
「あ、【シジュール】もそうよ」
「同じくだ」
小さく手をあげる俺とルナ。
「で、面白いのは、世界は違っても神話レベルでは共通した話が散見される事なんだ」
ランジェが身を乗り出してきた。
やばい。なにやらスイッチを押してしまったらしい。
「例えば、【最初の七日間】や【箱舟】と言った神話は、詳細は違えど、どの異世界でも語り継がれていて大筋は同じなんだ」
「あー。何か聞いたことあるな」
「やっぱり!? ヨースケのいた世界でも似た様な話はあるんだね!」
ランジェは目をきらきら輝かせている。
この子は冒険者以外に学者とかも向いているのかも知れない。
「つまり、【天界】も【魔界】も、【ハイム】を含めた全ての世界に共通している世界だって考えられてるみたい」
俺は皿の上の食べかけのたまごサンドイッチを見る。
天界と魔界に挟まれる様に世界(具)が存在している。
よく見ると、たまごの中の黒胡椒の粒が一粒、一緒に挟んだオニオンスライスに付いているのが見える。
その黒胡椒は、噛んでしまったのか少し割れていて、元の形では無い。
これが俺(転移者)か?
いやどちらかと言うとこれは転生者かもしれない。
【地球】や【ガルムヘイズ】と言った色々な世界は【ハイム】を中心に存在し、ふとしたはずみで【ハイム】に引っ張り込まれる者達がいる。ざっくりと言えばそんな感じかだろうか?
そしてどの世界にも共通した世界、【天界】【魔界】がある。
うーむむっ。
ランジェに聞いてみようと視線を戻すと、ランジェは標的をルナに絞り、熱く異世界論を語っていた。
俺が視線を落としたので、興味を持っていないと判断されたのかも知れない。
ルナは「あーはいはい」と言いながら、ババ抜きでジョーカーを引いた様な顔をして、俺に助けを求めている。
これ以上、ランジェをヒートアップさせるのは危険か……。
俺はランジェに質問する事は一旦諦め、違う話題を振ってみる。
「あー。そういえばルナの魔法も凄かったよなー」
「でしょ、でしょ! そうなのよー!」
助かった、とばかりに大袈裟に話題に反応するルナ。
「そういえば結構、魔法を連発してたよね。疲れなかった?」
「それがなんだか、発動が軽い感じなのよね」
肩をぶるんと一回転させてルナが答える。
「なーんか、いくらでも撃てそうな感じ。【シジュール】では流石にあんなに連発は出来なかったわ」
確かにアクアボールとか、ぽんぽん出して火消しをしてたよな。
「なんかのスキルが影響してるとか?」
「スキルに【魔力消費軽減】とかあるけど、ルナは持ってなかったよね。ひょっとしたらスキルとかじゃなくて、単純に保有している魔力が増大してるのかもね」
スキル鑑定ではHPやMPとか、いわゆるステータスは計測できない。
でも、何となく思うのだが、ステータスの方がスキルよりも計測しやすいんじゃないの?
「魔法撃ち放題とか震えるわ~。魔導師って魔力管理との戦いでもあるのよ」
「だとしたら凄いね。僕は十発も撃てないよ」
ランジェは謙遜しているが、剣士が十発も魔法を撃てる事も凄いんじゃないか?
俺もなんでもいいから魔法を撃ってみたいな。
「俺は魔法が使えないから解らないけど、使いすぎるとどうなるんだ?」
「そうねー。立ち眩みや目眩、最悪は失神するわね」
「それって、なんか貧血の症状に似てるよね。血液や血圧と関係してるのかな」
ランジェが5つ目のサンドイッチ作品を完成させながら話す。
俺はたまごならたまご、ハムならハムと一つの具でサンドイッチを作るのだが、ランジェは違う。
とにかく何でも挟めるだけ挟む。
おかげで具がもう無くなりかけてきた。
これは追加注文しないとな。
「【シジュール】で受けた魔導学講座では、血液の中の「マナカナ」って成分と関係している……みたいな話だったわよ。魔法を使うとそれが減るんだって。その時に酸素だか酸素を運ぶ成分だかも少し消費するみたい」
「マナカナ? 聞いたこと無いな」
正確に言えばある。
だけど血液成分では無い。
「マナカナってある程度溜めておけるんだけど、日常生活してるだけで無意識に僅かに消費をしてるんだって。だから魔導師の中には普段は大人しくしてる人もいるわね」
「じゃーお前も大人しくしたらどうだ」
「あら。心配してくれてるの? 大丈夫。あたしは撃ち放題だから。おほほ」
そう言ってルナはエビマスタードサンドイッチをぱくりと頬張った。
それ美味そうだな……と思い皿を見るとエビは既に無くなっていた。
うぬぅ。
「でも魔力の使い過ぎには本当注意しなきゃね。僕も戦闘時に失神とかしない様にしなきゃ」
「そこは基本よねー。相手に魔導士がいたら魔法を無駄撃ちさせるのが一番よ」
そして黙々とサンドイッチを頬張る俺達。
俺達が少し食事に集中し始めると、隣のテーブルのおそらく冒険者であろう二人の男の会話が聞こえだした。
聞く気は無くても自然と耳に入ってくる。
「北の大地でアンデッドの混成部隊が目撃されているそうだな。なんでも魔王アリスが活動を開始したんじゃないかって噂になってるぜ」
「まじかよ!? 北の大地っていえば、数年前に干ばつが発生したとこだよな。それも魔王アリスのせいだって言うじゃねぇか」
「不可侵条約はどうなってるんだ!?」
「相手は魔王だ。守るわきゃねぇだろうよ。」
男達はそういうと、グビグビとエールの入ったジョッキを飲み始めた。
「……? なんか聞いた事あるな」
「やだ。プロパガンダかしら?」
ルナが眉間にしわを寄せて男達の方をちらりと見るが、すぐに向き直る。
「ま、行けばわかるわね。あたしは自分の目で見たものしか信用しないの」
「でも混成部隊って厄介だね。死体なら何でもアンデッド化しちゃうんだよ」
「何でもか?」
「そうだよ、いわゆるゾンビとかスケルトンってやつだね」
「やだー。食事中に~。あ、お代わりお願いしまーす」
ルナが更にサンドイッチセットを三人前追加した。
そうして夜は更けていく。
俺達はお腹いっぱいになるまで、サンドイッチパーティーを楽しむのだった。




