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ほかほか  作者: ねこ侍
第一章
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第45話 世界の概念


――スピネル宿屋――


 「お疲れさまー」


 そう言って、俺とランジェはグラスをカチンと合わせ、クサリバナナ採取の成功を祝った。

 まあグラスの中身は水なんだけども。


 俺もランジェも酒は結構いける口だ。

 だがまた明日からはレーベルに向けて旅をしなきゃいけない。

 旅や冒険の前には極力アルコールは控えている。


 さて、ギルドを出て宿屋に着いた俺達は、まず部屋に荷物を置いた後、二階に設置されている共用シャワールームへと向かった。

 シャワーの後は一階の酒場に集合する約束をしていて、俺とランジェは十分程度でシャワーを済ませ一階に降りて来たのだ。 


 だが、ルナがなかなか降りてこない。

 もう二十分は待っているだろう。

 ただ待っていても仕方ないので、先に酒場の席を取り注文も済ませたと言う訳だ。


 今夜の夕飯は「サンドイッチパーティーセット(六人前)」


 既にテーブルへとサンドイッチの材料が運ばれてきており、テーブルの上には、薄くスライスされたパンと様々な具材が所せましと置かれている。

 自分で好きな具材を選び、挟んで食べるのだ。


 実際に六人前がテーブルに運ばれてきた時は、その量に唖然としたが、まあランジェがいれば大丈夫だろう。

 

「しかし、あいつ(ルナ)おっそいなー」


「あはは。女の人って長いよね」


 店内は夕飯時に近いという事もあり、もう満席に近い状態となっている。

 先に席を取っておいて正解だったな。

 コボルトの店員が昨日と相変わらず、忙しなくテーブルの間を動き回っている。


 と、不意に頭上から声が聞こえてきた。


「あ、みんなお待たせー。さっぱりしたわー」


 そう言いながらルナが二階から降りてくるところだ。

 俺達のテーブルは二階へと続く階段のすぐ横にある。

 

「おっそいなー。俺とランジェは十分で済ませたぞ」


「あらあら。せっかちさんはモテないわよ」


 と言いながら席に座る。

 

「ま、美味しそうねー。サンドイッチ?」


「うん。みんなで食べようと思って、ルナもサンドイッチで良い?」


「OK、OK。あら、このミニトマト甘いわね」


 ひょいと皿の上からミニトマトをつまむルナ。

 うう。俺達もまだ食べてないのに。


「でも宿にシャワーがあって、本当に良かったわ」


 まだ濡れている髪を手櫛でとかしているルナ。

 シャワールームには石鹸の類いは置いてあったが、ドライヤーはさすがに無かった。


「まー、シャワーが無ければ無いで、アクアボールとかでいいんじゃないか?」


 水系魔法って本当に便利だなと思う。

 原理は考える気にもならないが、砂漠とかでも出せるんだろうか。

 

 地球でなんとか実現できないかな。

 もし場所を選ばすに水を出す事が出来て、世界中の水不足が解消出来たらどんなに素晴らしいか。


「アクアボールとか魔法は駄目よー。魔法で生成された水って、髪にはあんまり良くないのよ。だから水系魔法の使い手にはハゲが多いってね」


「それ本当っ!?」


 ランジェが食い気味にルナに聞き返す。

 そう言えば昼間にウォーターウォールで大量の水を浴びていたな。


「あ、大丈夫よ。ランジェはハゲても可愛いわよー」


 いやいや、そういう問題じゃ無かろう……。


「だからシャワーの水でしっかり洗わないとね。あらこのピクルス美味しいー」


 緑色のピクルスを、親指と人差し指でつまんで味見をするルナ。さっきから具ばっかり食べている。サンドしなさい。


「僕……夕飯食べたらもう一回シャワー浴びて来るね……」


 ランジェがうつむきながら、力なく呟く。

 かなりダメージを受けている様だ。


「俺もそうしようかな……」


「はー。お腹すいた。早く食べましょう♪」


 落ち込む男性陣をよそに、ルナはせっせとサンドイッチ作りを始めるのであった。






「しかし本当に悪魔っているんだな」


 俺はたまごサンドイッチを頬張りながら、今日遭遇したライアーデーモンの事を思い出していた。

 てっきり猿の魔物だと思っていたが、悪魔だったとは驚きだ。


「本当よねー。悪魔なんて、神話やおとぎ話の中だけかと思ってたわ」


「【日本】や【シジュール】でもそうだったの? 実は【ガルムヘイズ】でも想像上の存在だって思われてたんだ。」


 日本や外国でも悪魔を取り扱った映画や小説とかはたくさんあったが、実在すると科学的に証明された事は、俺が知る限りでは無かったと思う。


「それがこっちの世界じゃ普通に出て来るんだな」


「あ、でも滅多にいないよ。いたら即、討伐対象だよ」


 一つ目のサンドイッチを作り終えたランジェがパクっとかじりつく。


「それじゃほとんど『G』扱いだな……」


「なによ?『G』って」


「え? あれだよ黒くて、機敏で、雑食でさぁ……」


 ここまでヒントを出せばわかるか?


「あ、わかったー。ゴリラでOK?」


 ダメか……。


「んーと、まあOKだ」


 すまんダズよ。


 俺は説明を早々に諦めた。

 そもそも食事時の話題ではないし、通じないって事はシジュールにはいなかったんだろう。


 というか「ハイム」にもいないのかも知れない。

 実は転移してから一度も見たことが無い。

 割と清潔ではあったが、芋工場にもいなかったな。


「ていうかさ。魔界とかもあるんでしょ? いよいよ理解が追い付かないわ」


「俺もだ……」


 えっと【ハイム】の他に6つの世界が存在していて、その上魔界も存在すると。

 それは各世界に存在するのか?


 俺が困った顔をしていると、「あくまでも概念ね」と前置きをしてから、ランジェが世界についての説明を始めてくれた。


「まずこれが、悪魔達が住んでいると言われる、いわゆる【魔界】」


 そう言いながら一枚のパンを皿の上に乗せる。

 サンドイッチ用に薄くスライスされた四角いパンだ。

 この世界のパンは少しザラザラしていて固めなのだが、俺は好きだ。


「そして、これが【ハイム】」


 そのパンの真ん中にサラミを置いた。

 燻製された肉の良い匂いがぷんとただよう。

 何の肉かは不明。


 そしてサラミの回りにぽんぽんと色々な具材を置いていく。

 エビ、オニオンスライス、ピクルス、オリーブ、たまご、マスタード。


 あっという間に一枚の質素なパンは、見た目も彩りも鮮やかな、ご馳走パンへと姿を変えた。


 美味そうだなー。

 チーズを乗せればピザトーストにもなりそうだ。


「サラミの回りに置いたのが、【ガルムヘイズ】や【シジュール】を始めとする、いわゆるこの世界での異世界。一般的には五つの異世界が知られているけど、【日本】の例もあるし、ひょっとしたら他にもあるのかもね」


「あたしはエビがいいわ」


「俺はサラミいってみようかな」


「あら、そこは【ハイム】なんだから駄目よー」


「えー。じゃ俺もエビがいいな」


「残念でしたー。ここは既に【シジュール】よ。侵入者は排除しまーす」


 ランジェの解説をほとんど聞いていない俺とルナ。

 そんな二人を尻目に、ランジェが具材を隠す様に一枚のパンを乗せる。


 立派なゴージャスサンドイッチの完成である。


「で、最後に乗せたパンがいわゆる【天界】。これでおしまい」


「「えっ!」」


 俺とルナは二人ほぼ同時に驚きの声をあげた。


 天界?


 突然の新しい世界の登場に、俺とルナは顔を見合わせるのだった。


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