第4話 優しさに触れて
「ヨースケちゃん。お腹空いてるんじゃない。何か食べる?」
「はいっ! 食べますっ!」
「ウホッ。俺もっ」
はいはい。と言いつつナージャはカウンターの方へ歩いて行った。
「なんか……色々とありがとうございます」
「気にしない、気にしない。困った時はお互い様だウホッ」
そう言いながらダズはウホッとウインクしてみせた。
なんて男前なゴリラだ。
俺が女だったら惚れているかもしれん。
最初は二人が結婚している事に驚いてしまったが、今では納得できる。
聞くとダズとナージャは長い間、二人で冒険者をしていたらしい。
冒険者とは言っても、食材探しが中心で、北の砂漠の大迷宮に生えていると伝えられるアダマンバナナや、東の大陸にあるレムの大森林での夢幻バナナ探しなどの話を嬉しそうにしてくれた。
そして旅の途中、偶然立ち寄ったこの町が気に入り、それまでに貯めたお金で酒場を開いたらしい。
「おまたせ。今日は定休日だから、ありあわせのものしかないけど」
ドンッとテーブルにばかでかい皿が置かれる。
皿の上にあるのは今までに見たこと無いくらい巨大なサンドイッチだ。
直径三十センチはあるだろう。
パンとパンの間には様々な植物(野菜か?)に、黄色のハムの様な具が挟まっている。
「バナナ鹿肉の燻製。美味しいわよ」
「俺の大好物じゃないかっ! 美味いぞっ。ヨースケッ。食ってみろっ!」
ウホウホ言うのも忘れて、ダズが横で鼻息を荒くしている。
そんなダズに急かされるように恐る恐る一口食べてみる。
……これは
…………やばい。
う・ま・い!!
どの食材が、どの歯触りで、どの味なのか全く見当が付かないが、とにかく美味い。
お口の中がハッピーになっている。
「めちゃくちゃ美味しいですっ!」
ダズとナージャは顔を合わせ、ふふっと笑う。
と、突然頬を涙が一筋流れた。
自分でもなぜだかわからない。
突然、訳のわからない世界に放り出されて極度の緊張が続いてたからか。
それとも見ず知らずの俺にこうまでしてくれる、二人の優しさに触れたからか。
張り詰めていた糸が切れたかの様に。
涙が溢れて止まらない。
「えぐっ……えぇっ…………」
ダズとナージャは頷きあっている。
俺は号泣しながら夢中で食べ続けた。
◆
「で、これからどうするの?」
ナージャはそう問いかけながら、紙巻きタバコの様なものを胸の谷間から取り出し、先端を口の前に持ってくると、ふっと小さい炎を吹き出して火をつけた。
食後の一服。
紫色の煙が立ち込める。
「まずは仕事を探そうかと思います」
言って気付く。
転移する前と何も変わってねえ。
むしろ、家も無ければ金も無い分、状況は悪化してると言える。
いかん。空腹が満たされて少し心に余裕が出てきたせいか、如何に自分の置かれている状況がまずいかがわかる。
どくん。
と、一つ大きく鼓動が鳴る。
ざわざわとした不安が心の底からせり上がって来て、思考を黒く塗り潰していくようだ。
「ウホッ。それなら一度ギルドに行ってスキルを鑑定したらどうだ?」
冒険者組合 通称「ギルド」
この世界で言う冒険者とはいわゆる何でも屋らしい。
ダズやナージャの様に食材探しを主とするものもいれば、魔物を討伐したり、護衛任務、または傭兵家業に精を出す者もいる。さらには家事や荷物の宅配まで、依頼さえあればそれを受けるも自由、断るも自由なのだ。
そんな何でも屋達を統括、管理しているのがギルドだ。
「そうね。なんのスキルを持っているか確認してから、仕事を探した方がいいんじゃない。それにヨースケちゃんも転移者なんだから、強力なスキルを持っている可能性が高いんじゃない?」
確かにそうだ。
ひょっとしたら誰もが羨むようなスキルを手に入れているのかもしれない。
まだ俺にはチートスキルで無双出来る可能性があるじゃないか。
もしかしたらハーレムだって!
少しだけ希望の光が差してきた。
先のわからない未来をどれだけ心配しても仕方がない。
ましてやここは異世界だ。
今、俺はこの異世界にいる。
それは変えようが無い事実なんだから。
「ウホッ。もし冒険者向きのスキルだったらその場で冒険者登録も出来るし、たぶん依頼も受けれるウホ」
「依頼も受けれるんですかっ?」
いきなり依頼をもらえるなんて願ったり叶ったりだ。
業界未経験の30歳にいきなり依頼があるなんて元の世界では考えられない。
ダズの説明によるとこうだ。
冒険者にはランクが存在し、A~Gまでの7段階がある。
新人冒険者は皆ランクGから始まり、実績を積む事でランクをあげていくらしい。
同じく依頼にもランク付けがされており、冒険者ランクと同じ、または以下の依頼しか受ける事が出来ないそうだ。
またレベルというのもあるそうだ。
この世界では当然の事らしいが、様々な経験を積み重ねレベルをあげる事により、様々な能力が上がるらしい。
そしてこれは冒険者に限った事ではなく、この世界に生きる者全てに当てはまるとの事だ。例えばその辺の村人がとんでも無い高レベルだったりなんて事もあり得るわけだ。
それとは別にスキルのレベルが上がったり、突然新しいスキルを覚えたりもするみたいだ。
つまりあれだね。
ロープレだね。
そして、いくらレベルが高くても冒険者ランクより上の依頼は受けられないそうだ。
なるほど。やっぱりどの世界でも実績って大事なんだなぁ。としみじみ思った。
「俺。ギルドに行きますっ!」
「それがいいわ。でも今日はもう遅いから明日にしましょうか」
話に夢中で気付かなかったが、外を見るともう暗くなっている。
「ウホ。2階に使ってない部屋があるから休むといいウホ。ギルドには明日連れてってやるウホ」
◆
…………
俺は案内された部屋で横になっていた。
今日は一日いろんな事があった。
身体はくたくただ。
明日はギルドか。
俺は一体どんなスキルを持っているんだろう。
少しだけワクワクしながら、俺はいつの間にか深い眠りに落ちていた。




