第3話 異世界「ハイム」
「帰ったぞ~。ウホッ」
「close」のプレートが掛かった木製のドアを開け、ゴリラの後に続く。
店内は薄暗く、丸形のテーブルや椅子が配置されている。
全部で三十~四十人は座れるだろうか。
テーブル同士は広く間を取られており、店内は思ったよりも広めだ。
奥にはカウンターがあり、食堂か、酒場と言った雰囲気だ。
「遅かったわね」
と、カウンターの横の扉から、気だるそうな声を出しながら女性が現れた。
!?
人間っ!?
眼を見開き女性を凝視する。
一見すると人間の様だ。
しかしよく見ると、額から二本の小さな角の様なものが生えている。足元には細長い尻尾も見える。
また、薄明かりと相まって良く見えないが……黒い翼もあるのか?
女性はズルズルと尻尾を引きずりながら近寄って来た。
「なぁに見てるのよ……お客さん?」
明らかに人では無いその姿に警戒をしていたが、近くで見ると、凄い美人さんだ。
長い黒髪に胸元が大胆に開いたドレスを着ており、なんとも言えない色気を放っている。
眠たそうな口調も……いいじゃないか。
一気に警戒心が薄れていく。
我ながらアホである。
「広場に倒れていたウホよ。さっき眼を覚ましたばかりだから、とりあえず連れてきたんだ。ウホッ」
「相変わらずお人好しねぇ……まぁ座りなさいよ」
そう言われ近くのテーブルに移動し、それぞれ椅子に腰掛ける。
ゴリラには椅子がかなり小さいらしく、時折バランスを崩しそうになっている。
「あの・・さっきは助けてくれて、ありがとうございました!俺は島津 洋介って言います」
まずは俺から改めてお礼を述べた。
助けられたと言うよりは、ただ殴られただけの気もするが・・
しかし気を失ったままだったら、どんな目にあったか分からないしな。
「それじゃこちらも自己紹介をするウホ。俺はこの町で酒場を営んでいる獣人のダズ。こっちは嫁のナージャ。よろしく、ヨースケ。ウホッ」
「あたしは人間とドラゴニュートのハーフよ……。よろしくヨースケちゃん」
二人が結婚している事にも驚いたが、何よりも「人間」と言うワードに飛び付いた。
「人間がいるんですかっ!?」
「そりゃあいるわよ。ヨースケちゃんは……もしかしないでも『転移者』かしら。違う世界から来たんでしょ?」
「えっ!」
「はい……」
「たぶんその通りだと思います」
俺は二人に公園で起こった事、日本から来た事を話した。
「ウホッ。珍しい!転移者はたま~に見るけど、転移した直後の転移者に会うのは初めてウホッ」
バキッ!
興奮しすぎて力が入ったのか、ダズの座っている椅子の脚が折れて、ダズが盛大に後ろにひっくり返った。
ナージャがじろりと睨む。
「それで今月に入って5こ目よ……」
「立ってなさい」
「ウホゥ……」
夫婦ではなく、飼い主とペットにしか見えないな。
「でもあたしは日本なんて異世界は聞いた事無いわ……」
「俺も無い・・あ、この世界は『ハイム』っていうんだウホッ」
俺は二人から詳しくこの世界について話を聞くことにした。
◆
ふぅ。
あまりの展開に頭がついていけない。
聞いた話を纏めると、こうだ。
こっちの世界「ハイム」には、たまに異世界から転移または転生してくる者がいるらしく、「転移者」「転生者」と呼んでいる。
しかし「転生者」は転生前の記憶が無いことか多く、普通にこの世界で産まれ育っていく。
従って本人が知らないだけで実は「転生者」だったなんて事もある。
その為、世界に何人の「転生者」がいるか、人数の把握は難しいという。
一方「転移者」
俺のケースだが、こちらは転移前の記憶を持ったままだ。
しかし転移後の姿形は転移前と同じとは限らない様だ。大抵はその種族における美少年、美少女になる。と言うか同じ場合の方が珍しいと言う。
何故?とほほ。
おっさんの俺を見て、ナージャが俺の事を転移者だと見抜いたのは、美少年だからではなく服装が変わっているからだと言われた。
転移する前の俺は就活の為、いつ面接になっても大丈夫な様にスーツにネクタイを着用していた。
確かにこっちにはありそうに無いな。ネクタイはもう外してテーブルの上に置いているが、ダズが興味深そうにつんつんしている。
「転移者」「転生者」両方に共通する事としては、レアなスキル、または強力なスキルを持っている事が多いという。
また人間や多種族に転移・転生するとは限らず、獣や昆虫、植物や鉱物にまで可能性はあると言う。
「今はもういないけど、狼王・シルヴァや、大妖花・クエスバレーとか有名だウホッ」
「勇者エランドールもそうじゃないかって噂よ」
人間として転移出来ただけありがたいと言うことか。
そして一番大事な事は、転移、転生してくる者は、いくつかの異世界から来ていると言うことだ。
今判明しているのは
・戦と争いの世界 ンッダール
・巨人が住む世界 ガルムヘイズ
・魔法の発達した世界 シジュール
・宗教により統治された世界 テオ
・科学の発達した世界 グラザ
の五つの異世界だと言う。
同じ日本人の転移者や転生者に会えるかもと、淡い期待を抱いていた俺は、石で殴られた様な衝撃を受けた。
藁をも掴む思いで、知っている国名や地名を上げてみたが、二人は首を横に振るばかりだった。
そしてナージャが済まなそうに口を開く。
「ヨースケちゃん……可哀想だけど……今までに転移者や転生者が、元の世界に戻れた話も聞いた事がないわ」
止めの一撃に、俺は軽く眩暈を覚えたのだった。




