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ほかほか  作者: ねこ侍
第一章
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第23話 ちょっとだけ!ちょっと見るだけだから!

 馬車から降りた俺達三人は大通りを歩いていた。

 足元は石畳で舗装され、通りの脇には街路樹と、宙に浮かぶ丸い街灯が等間隔で並んでいる。


「久々に来たけどレーベルっていい町だよね」


 うーんと両手を上にあげ、背筋をのばしながらランジェが言う。

 今日は少し風が強い様だ。ランジェの髪がふわりと浮く。

 だが俺の髪はと言えば、血や汗やその他諸々で汚れていて風が吹いてもぴくりともしない。

 この差は一体。


「適度に田舎で、適度に不便でいいなあ」


 あれ?それ褒めてないよね?

 住んでいる人が聞いたら、たぶん怒られるぞ。

 フォルダーは……聞いてないふりをしている。


「ま、いい町だよな」


 俺はランジェの先程の発言を、肯定も否定もせずにそう言った。


「だよねー」


 ランジェが言うには何となく落ち着くのだそうだ。

 故郷に似てたりするのかな。今度お互いが元々いた世界の話でもしてみようか。

 ちなみに俺は東京生まれの東京育ち。一応都会派を自称している。


「では私はここで」


 T字路に差し掛かったところで、フォルダーが別れを告げる。


「私の店は、この道をまっすぐ行ったところにありますので」


 フォルダーは右へと曲がる道を指している。


「ああ。近いうちにお店に行くからよろしくな」 


「もちろん。あなたたちは命の恩人ですからサービス致しますよ」


 ニコッと笑うとフォルダーは、そのまま右へ曲がり歩いて行った。

 フォルダーと別れた俺達二人は大通りをそのまま真っ直ぐに歩きだす。


「ヨースケはこの町に転移してきたんだっけ」


 歩きながらランジェが俺に問いかける。


「ああ。気を失っているところを酒場の主人に介抱されたんだ」


「あはは。命の恩人ってやつだ」


 その通りだ。ふとダズとナージャの顔が浮かんだ。元気にしているかな。俺がパーティーを組んで冒険者をしてるって言ったら驚くだろうな。いやヒュドラを倒したって言ったらどんな顔をするだろう。ダズはウホウホ言いながらひっくり返るに違いない。


 想像すると楽しくなってきた。2人に会いたいな。

 俺は少し、にやにやしながらランジェに聞いた。


「その恩人に挨拶して行きたいんだけど、いい?」


 俺の問いかけに、すぐにランジェは答えてくれた。


「もちろん!」



-噴水広場前-


 今日も噴水広場前には多くの露店が並んでおり、なかなかの賑わいを見せている。


「ちょっと、そこのお二人さん。占っていかない?」

「むむっ!あなた。獣難の相が出ておりますぞっ」

「あら。そこの逃げてばっかりのお兄さん。人生変えたくない?」

「肉球占い~肉球占い~。手相や蹄も見れますよ~」


 んん……占い師がやけに多い気がする。

 前見た時もこんなにいたかな?


「助けて~」


 見ると1人の占い師に袖を掴まれランジェが悲鳴をあげている。


「ちょっとだけ!ちょっと見るだけだから!」


 何をだ。


 いかにも胡散臭い占い師だ。

 こういうのは強気でいかなきゃダメなんだよなー。


「結構ですっ! うちはそういうの結構ですからっ!!」


 俺は10年間鍛え上げた都会派スキル【勧誘・セールスお断り】を発動させた。

 

 そして俺は強引にランジェの手を引っ張ると、無事に酒場の前まで連れて行った。


-ダズの酒場-


「怖かった~」とランジェがふるふるしている。

 うむ。ああいうのはパパに任せておきなさい。


 酒場のドアには「close」と書かれたプレートが下がっている。

 もう夕方だがまだ準備中なのか?今日は休息日ではなさそうだし……そういや店が開いているとこ見た事無いな。俺はドアを開け酒場の中へ入った。


 カランカランと上部に付けられたドアベルが鳴る。


「こんにちはー。ダズ、ナージャさんいるー?」 


 店内は相変わらず薄暗い。

 返事が無いな。買い出しにでも行ってるのかな?

 

「ヨースケ。あそこに誰かいるよ」


 ランジェが押し殺した声で、店の一番奥を指差す。


 その指の指し示す先を、目を凝らしてみてみる。

 暗闇の中で大きな影がぬっと動いた。 


「ウホッ」


 うおっ。びっくりした。


「なんだダズ。いたのかー」


「ウホウホッ」


 ダズ?


「ウホウホウホウホッ!」


 ダズ??

 

「ヨースケ。彼が命の恩人かい?」

 

 ごめん。ちょっと自信が無い。

 今のところ俺の中では半々だ。


 俺の目の前にいるのはただのゴリラか喋るゴリラ(ダズ)か……

 あれ? よく考えたらどっちもそんなに変わらない気がしてきた。


 俺が混乱し始めていると、カウンターの横の扉からナージャが出てきた。


「ごめんね。今日はお店やってないのよ……あら? ヨースケちゃんじゃない!」


「ナージャさん! お久しぶりです」


「ウホウホ! ウホウホウホッ!」


「ダズ。静かにしなさい」


「ごめんウホ」


 あ。やっぱりダズだった。


「元気そうで良かったわ。こちらどうぞ」


 と、カウンター席を案内される。

 

「よっこいしょーいち」


 と俺は少し高めの椅子に腰かけた。


「何その掛け声?」と大剣を壁に立てかけるランジェ。

 よく見たら壁には、槍や斬馬刀の様な大型の武器を置いておけるようにYの字型の留め具が突き出ている。下側は傘立てのようになっていて、そこに武器の柄を入れて固定するようだ。


 ランジェの大剣は倒れたら大変だからな。

 今はこれまた馬鹿でかい鞘に収まっているが、重みでも大ダメージを受けるだろう。主に床が。


「はい。お水でいい?」


 とナージャが俺達の前にグラスを置いてくれた。

 まず俺のグラスに水を注ぐ。


「隣の子はお友達?」


「はい。ランジェって言って、今一緒にパーティーを組んでいるんです」


「そうなの!? じゃ今は冒険してるのかしら。芋工場に行ったって聞いてたけど……」


 ナージャは随分と驚いた様子で、ほぅと一息ついた。

 そして次はランジェのグラスに水を注ぎながら、壁に立てかけてある大剣をみてランジェに話しかける。


「あれ、坊やの? おっきな剣。力持ちさんなのね」


 ランジェは顔を真っ赤にして「そっ、それほどでもっ!!」と大きな声で返事をした。

 ウブですなぁ。おじさんにもそんな時代があった様な無かった様な。


「じゃ色々お土産話を聞かせてくれるかしら?」


 ナージャはフッと口から炎を吐き出し、煙草に火をつけた。


「そうそう。聞いてください。俺ペクトロ村で――――」


 俺は勢いよく話し始めた。


 ペクトロ村の事――


 芋工場の事――


 ヒュドラ退治をした事――


 ランジェと出会った事――


 盗賊との戦闘の事――


 俺はレーベルを出てから今日までの事をナージャに話した。

 ナージャはうんうんと頷きながら嬉しそうに聞いてくれた。


◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


「まさかヒュドラを倒すなんてね。あなた達やるじゃない」


「ヨースケのおかげです」

「いやいや、ランジェがいなかったら喰われてたよ」


 お互いに褒めあう俺とランジェ。 

 それを見ていたナージャは「ふふ」と笑いながら、ランジェの方を向き頭を下げた。


「これからもヨースケちゃんの事をよろしくね」


 ランジェはまっすぐナージャを見て答える。


「はいっ! 大切な仲間ですからっ!」


 そしてナージャは今度は俺の方を向くと真面目な顔で話す。


「冒険者にとって一番大事なのは信頼できる仲間がいる事よ。良かったわね」


 本当にそう思う。ランジェと出会えた事、パーティーを組めた事は奇跡と言っても良いだろう。


「この後の予定は?」とナージャが尋ねる。


「この後はギルドに行こうと思ってます。ヒュドラ討伐の報告とギルドカードの更新に。あと手ごろな依頼があるか確認かな」


「そのあとは<トンテンカンテン>にも行かなきゃね」とランジェ。


 そうだった。依頼を受ける前にまず装備を整えなきゃな。


「<トンテンカンテン>知ってるわよ。冒険者の頃はお世話になったわぁ。でも今日はもう遅いから明日にしたら?」


 ナージャがくいっと親指で窓を指差す。

 外を見ると薄暗い。街灯にはほんのりと明かりが灯っているのが見える。

 どうやら随分話し込んでしまった様だ。


「宿屋はまだとってないんでしょ。良ければ2階空いてるから使っていいわよ」


「わぁいいんですか。じゃお言葉に甘えます」


 それを聞いて子供の様に喜ぶランジェ。


「ふふ。じゃ夕飯も作ってあげる」

 

 母性本能を刺激されたのか、いそいそと支度をするナージャ。


 ナイス、ランジェ。


 カウンターの奥にあるキッチンへとナージャが消えていく。


 またサンドイッチ食べたいなー、と俺が考えていると、ランジェがフォルダーからもらった武器と防具のパンフレットを取り出す。


 「ヨースケはどんな装備を買うか決まったの?」

 「えっと、そうだなー」


 俺達はキッチンから漂ってくる良い匂いに空腹を刺激されつつ、明日の買物の計画を立てるのであった。




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