ロリコン主人の本性?
それから、10分くらい歩いた。ところどころにある太陽の位置で時間を計る魔導具で確認したので、間違いない。ちなみに、その魔導具はの時刻は15:28となっていた。
目の前にある雰囲気のいい服屋さんが目的地だろう。
ロリコン主人が扉を開けるとチリンと音を立て、店員さんが寄ってきた。
「いらっしゃいませ…っと、おおっ!勇者様でしたか!」
「こんにちはケインさん。…それから勇者様というのはやめて貰っていいですか?」
二人は知り合いらしく、にこやかに挨拶を交わす。私はお店の中には入らず店の外から二人の様子を伺う。こういう場所では奴隷はお断りのお店の方が多いらしいから、ロリコン主人の買い物が終わる前まで外で待機するのだ。
お店の扉が閉まる。ここからは盗み聞きだ。
そんなことより………勇者様?ロリコン主人が定員のケインさん?に言われてた。
勇者というのは、たしか聖なる武具である聖剣や、聖槍、聖杖など操ることが出来る人に贈られる称号だ。まあ、聖なる武具というのは世界に66もあるので、勇者は何十人単位でいるという話だが。
そういえば、私はロリコン主人の名前すら知らない。あったばかりだというのもあるし、奴隷から主人に名前を聞くことも失礼なことだから、私からは聞きにくいっていうのもある。今回の場合は、完全に自己紹介の機会を逃しただけだが。
「あはは、すみません。リベルタ様。…では、どのようなものをお探しですかな」
あ、今のがロリコン主人の名前だろうか。…わからないことは後から、調べよう。
「えっと、この子の服、見繕うことは出来ますか?」
ロリコン主人はそう言って扉を再び開き、笑顔で手招きをする。これお店の中に入れってこと?それに今、"この子の服"って?私の今の格好は麻のワンピースと、少しサイズの合ってないぶかぶかな靴だ。この格好だけで半月くらいは持つと思うので、必要性は感じない。それに、この格好だって他の奴隷に比べたら上等なものだ。けれど、こんなに雰囲気のいい店内に入るというのは、憚られる格好だ。私に服を買ってくれるというのは嬉しいが、嫌な顔されて結局今後入店拒否になったら、あのナイスなミドルとの関係が悪くなったらどうするんだろうか。
ーーそうか、分かった。このロリコン主人の性癖が。
このロリコン主人は表ではいい顔をしながら私を辱めて、裏ではナイスなミドルと関係が悪化したこととかをグチグチ責め立てる、陰湿ロリコン野郎なんだ。
陰湿ロリコン野郎の性癖を暴いたところで、こっちにこいと手招きしていた陰湿ロリコン野郎の命令に従って、仕方なくお店の中に入る。
お店に入るとナイスなミドルの店員さんの視線が突き刺ささった。体に穴が空いてしまいそうだ。場違いな格好で恥ずかしい。
私は思わず身を固くして、陰湿ロリコン野郎の背に隠れた。
そして陰湿ロリコン野郎の服をぎゅっと握り、お店を出たいと目で訴える。頭が一杯で最悪の手を打ってしまった、と瞬間、頭を抱えたい気持ちになったが、陰湿ロリコン野朗は私の両手をゴツゴツした手で覆い包んで、少し苦い顔で私にそっと頭を下げた。
なんだろう。その表情。
「そちらのお嬢さんの服を…ですかな?」
やはり、駄目なのだろう。ナイスなミドルの店員さんが言った。
「はい」
陰湿ロリコン野郎が頷いた。
「ふむ…しかし」
ナイスなミドルの店員さんが考え込むように顎髭擦る。きっとここは奴隷禁止のお店なのだろう。早くこのお店から出たい。
「わたくしが選ぶより、お嬢さん本人が着たいと思う服を選んだ方がよいのでは?着るのは本人なのですから」
ナイスなミドルの店員さんは、そんな提案をする。え、ここは奴隷にも服を売ってくれる場所なの?
「…そうですね。…えーと、そういうことだから、この店の中から好きな服を、選んでくれるかな?」
陰湿ロリコン野郎は、お店の中の服を選んでいいといった。…本当に選んでもいいのだろうか。と顔を伺い見ると、陰湿ロリコン野郎は笑顔で頷き、ナイスなミドルの店員さんは、私を先導する。
「ここらへんが、お嬢さんの体のサイズに合った服です」
先導されてきた場所は、比較的小さなサイズの服装が揃っている場所だ。どうやら、このお店は服のサイズごとに商品が揃えられているようで、シャツやワンピース、ローブなどがハンガーに吊るされているものもあれば、畳まれているものもある。
「ハンガーにかかっている服は、試着用の服ですので、あちらの試着室でご利用いただけます」
指し示された先には、カーテンのかかった小さな個室がある。そこには奥一面に大きな鏡があり、全身を映してくれるだろう。
私は、とりあえず試着用の服を着るために、ハンガーにかかっている服を見る。
……本当に触ってもいいだろうか?
手を出しては引いて出しては引いてとしているうちに、見かねた陰湿ロリコン野朗が近寄って来て真っ赤なシャツと淡い緑のロングスカートを差し出してきた。着てみろということか。それにしても配色センス無さすぎだ。
それに、ものすごく目立つ赤色だ。どちらかといえば、黒とか白系統の無駄に目立たない色の服の方がいい。
しかし、奴隷と主人の関係だし、無駄に反感を買うこともメリットがないので、着てみることにした。
試着室のカーテンを開け入る。どうやら入るときは靴を脱ぐようで、靴に斜線が引いてある絵が、個室の鏡以外の右側の面に、文字と共に書いてあったので、それに従ってサイズのあってない靴を脱ぐ。カーテンを締めハンガーを服から外し、体に押し当てる。その後、恐る恐る服を着ることにした。
……着てみたけれど、濃い赤色に中途半端な薄い緑色で正直微妙な顔になった。けれど、陰湿ロリコン野郎に見せるために表情を作り、広角を上げ滲み出る嬉しさを表現する。ニマニマ。
「ど、どうです…か?」
カーテンを開け、尋ねる。
「…ハハハ、に、似合うと思うよ」
その顔が全てを物語っていた。気まずそうなその顔が。即ち、似合わないと。
今、おそらく、生まれてから一番の演技をしている自信がある。顔は羞恥で熱くなり、その熱は耳まで到達してしまいそう。滲み出る嬉しさは、恥ずかしくて叫びだしてしまいたい口を、必死に堪える動作が、ちょうどいい動きをしているだろう。
こういうことするとは、やはり陰湿。と一回思ったが、あの気まずそうな表情はきっと演技ではない。
それに、服に本当に触ってもいいものなのかと迷っている私に、自然と服を差し出した。その結果、恥をかいてしまったが。
……いや、それは気のせいか。奴隷に主人が気を使うはずない。
でも、陰湿、陰湿と心の中で何回も言ってしまったが、私の主人は陰湿なんかではなく、私が勝手にそういう妄想をしているだけかもしれない。
……陰湿ロリコン野郎は言いすぎたから、ロリコンご主人と呼ぼう。と心の中で呟いた。