魔王と軍師、ハッピーエンドに向かう。
グランダは魔都上空でうろうろしていた。他の飛竜や魔法師団と共に。
「見えない。どこにも居ない」
「どこかへ移動したんじゃないか。おれ達が来る前に」
「そうだろうけど・・・」
神竜ダイナソアと神獣マリオンが出現した。その報を聞いたサルタらはグランダに連れられ、全速力で魔都に舞い戻っていた。
しかしそこに神族は居なかった。物理被害の全くない、平穏な魔都がそこにあった。
「とりあえず、議会室へ行こう。情報をもらおう」
今の自分にその権限があるのかは正直、定かではない。だが魔竜グランダなら大丈夫。
グランダは「飛竜の止り木」目指し、ゆっくりと降下した。
「シャアルラは出陣していないんですか?」
「ああ。現れたと思ったら消えた。ゆえにおそらくは、魔神テア様が戦闘中だ」
議会室には魔法師団ナンバー3、リジェが待機していた。
「魔王様は魔王の間にて精神を集中させておられる」
「そうですか。ありがとうございます」
悪感情があろうがなかろうが、リジェは普通に対応してくれた。それ自体がリジェの能力の高さを物語っている。
そしてシャアルラは王の間。
サルタの現時点での立場をシャアルラに確認せず魔城内をうろつき回るのは度胸がいる。
「では会ってきます」
度胸がある、かどうかはともかく。会わなければ話が進まない。
ここまで来ておいて、グランダの期待を裏切るなど出来ない。
「現時点では戦況に変わりないとお伝えしてくれ」
「承知しました」
リジェは扉を開けて、警備にサルタを王の間に連れていくよう伝えた。これもまた、サルタが無事に到着するための図らいである。
リジェはサルタを特別視はしていない。だがシャアルラ王は、あの子猿が居る方が、楽しそうだ。ゆえにサルタに目をかけていた。魔王の玩具を乱暴に扱うなど、魔族の行いではない。リジェは清く正しい魔族だった。
「元気にしてたか?」
「なんとか。ユーリクロイドさんが屋敷の仕掛けを動かしてくれて、なんとかやってます」
ほんのわずかな期間しか離れていないのに、城は他人の家のようだった。顔見知りの兵と私語を交わすことはできるし、楽しい。
なのにその兵は今、自分を案内している。ゲストのように。
ここを歩くのに、誰の付き添いも必要なかったのに。
「シャアルラは大丈夫ですか。風邪とかひいてませんか」
「魔王様は今日も元気だ」
魔王が元気かどうかは、魔法を使う兵なら全員分かる。巨大な魔城の中に、城に匹敵する大きさの魔力の持ち主が1人居る。それが魔王だ。前は2人居た。
オ オ ン
魔法が使えないサルタでさえ、その揺れは感じ取れた。
ゴオッ!!
さらには城の守備兵が一斉に飛び立ち、魔王の間に向かっていた。
「くっ・・・」
サルタは考え考え、走った。リジェも同じように行動したなら、グランダは王の間まで直通で飛ぶ。ここから議会室に戻っていては、置いてけぼり。
サルタの足で数分間駆け上がり続けると、やっと目的地に到着した。
王の間の扉の前では、数百人の兵が整列していた。扉は開いていない。
「ど、どうなってます?」
サルタはやはり顔見知りの兵に問うた。
「爆発的に強化された魔力が落ち着いた・・・。物音もしない。戦闘中ではなさそうだ」
情勢は落ち着いている・・・?というか、何があった?リジェはもう突入したのか。それとも魔王の間の外で待機しているのか。
深呼吸をして息を整えたサルタは、門番に進入を告げた。
入れて良いと言われていない門番は、自己判断で魔王へとサルタの訪問を告げた。王の間の情報が欲しかったからだ。
「入れ」
魔王から入場の許可が告げられた。
サルタは入る。
「・・・!!」
色々な覚悟を決めてなお、本当に神獣マリオンがシャアルラと向かい合っていては、入室に意思の力が必要であった。
「座れ」
「ああ」
サルタはシャアルラの前、つまりマリオンの横に座った。
そしてシャアルラの様子に動揺は見られなかった。サルタの帰還の前にマリオンの強襲があったから、ではあるが。
当たり前のようにサルタはシャアルラの元に戻った。
「こんにちわ、マリオン様。今回はダイナソア様のご出陣かと思っておりました」
「うむ。実は2人で来たのじゃ。じゃがダイナソアは今、テアとお楽しみの最中でな。追い出されてしまって、こうしてシャアルラ嬢ちゃんに菓子をもらっとるんじゃ。主も食え」
「頂きます」
マリオンの食していたのはチョコレート。・・・大丈夫なのか?犬にチョコとか。そういう意味で。
「ああ。お前のはこっちだ」
と、シャアルラは平気な顔で、マリオンに出していた物とは別の物をサルタに差し出した。
「わしのは毒入りじゃから、主の体にはキツかろう」
「へ、へえー・・・」
「そういうことだ」
マリオンもシャアルラも平然としている。特に毒を盛った側であるシャアルラのしれっとした顔は、会わなかった時間のシャアルラの成長を感じさせる。
こんな短期間で、こいつは王として成長しているんだ。
神獣毒殺未遂事件より、そっちのがサルタの頭に残った。
「美味いな」
チョコレートは確かに美味かった。人界のものも魔界のものも、一般人が口にできるものは、さして変わりない。香ばしい匂いと大人っぽい深み、それに大好きな甘さ。だが魔王の食卓に並ぶこれは、格が違う。ように思う。気のせいかも知れない。
「それで。何をしにきた」
「お前に秘策を授けてやろうと思った。神竜ダイナソアに勝つために」
マリオンは口には出さず、面白がっていた。どんな策だろう。
「聞いてやる。言え」
らしいシャアルラに、サルタも元の調子になってきた。
「まず勇者カルナに勝てないおれ達に、ダイナソアに正面切って勝てる道理はない。だから戦わずに勝つ」
「なんだ。土地でもくれてやるのか」
「違う。土地をもらう」
シャアルラの思考は一瞬停止した。マリオンの思考は加速した。
「・・・なんだと?」
「あいつらはどう見ても、現世で暇つぶしをしている。おれ達を殺さず遊んでいるのが何よりの証拠だ」
マリオンは黙ったまま。
「ああ。確かにそう言っていた。だから滅ぼすのだと」
えっ・・・なにそれ。と、驚きつつ、サルタの口は勝手に動いていた。
「大事なのは、その理由だ。人生に飽きたなら、勝手に死ねば良いものを」
ひどい言われようじゃ。と思いながら、マリオンは話を聞いていた。
「あいつらは結局、手の届かないものを手に入れようとして、ないものねだりをしている」
・・・・。
「それで。いかなる理由であろうが、我らが簡単に入手できるもので穴埋めできるとは思えんが」
「そりゃそうだ。ここにはないんだから」
・・・?
「可愛い子には旅をさせろ。あいつらを神界から追い出して、なりたいものとか欲しいものを探させりゃ良い。ここにないんだったら、外だろ」
ここでマリオンが会話に入る。
「だがそれでは留守になる。あの方がお戻りになった際、わしかダイナソアがおらねば困るじゃろう」
あの方。神か。シャアルラは即座に悟った。
「なら、おれ達が神を探す」
「ほう・・・」
マリオンは聞く。この先にどんな答が待っているとしても。
「神獣達のやり方では、カルナが最高傑作。おれ達からすると間違いなくすごいんだけど、マリオンやダイナソアはそれじゃ満足できなかった。なら、同じだけの時間を、魔界や人界にくれても良いんじゃないか」
「・・・・」
マリオンは返事に窮した。間違いではないからだ。
「勇者カルナのように強くはなれない。けど、カルナは魔界はおろか、人界を作ることも出来なかったはずだ」
個体数というどうしようもない問題ありきとはいえ、たかが個人では社会など構築できない。
だがカルナの足元にも及ばないザコの群れが、カルナにも出来ない繁栄を生み出した。
これは強者への道ではない。
「神獣マリオン。あなたはまだ、魔界と人界が本気で連携した社会、国家の大きさを知らない。その前に潰してきたから。その先に神への道がある・・・・・・・・かも知れない」
なんとか。嘘をつかないように、しかしあまり強くは言い切れず、なんとかサルタは言い終えた。言葉を紡ぐだけで疲れた。
「断言しても良い気がするがの」
マリオンはかなり譲歩していた。面白かったから。
「・・・正直、詭弁を並べているだけなので、つつかれると困りますから」
確かに魔界人界が一つの連合国となって成長すれば、そこには未知の世界が広がるはずだ。
しかしそれは絶対の成長を約束しない。マリオンがシャアルラに説明したように、戦争がなければ停滞は避けられぬ。
「地竜グランドキアを倒した今、地下世界の開拓は難しくない。空竜グランアルムはおそらく敵対しないから、空の旅もより平和になる。おれ達の欲望は限りない。それに、あなた方は支配欲が薄すぎる。だからおれ達になら出来ることがある、はず」
サルタの言葉は結局、必ず神に到達するという答えを含んでいない。かも知れない、そうなるはずだ。程度のあやふやさが限界。
それでも。
「・・・それも一興か」
神族とは、気の長い生き物だった。
「ダイナソア。どうじゃ?」
「お前が良いのなら、構わん」
シャアルラとサルタはほぼ同時にダイナソアの方を見た。いつの間にか、マリオンの隣に座っていたダイナソアを。
「私もテアを殺したくなかった。生かして楽しみたい。そう思っていたところだ」
「テアを殺す必要はないじゃろ」
「しかしテアの実験材料である魔界は失われる。それでは彼女の知的好奇心も薄れよう。もったいない」
「なるほどの」
おれ達の世界は物置きかなんかか。そう思いつつ、サルタはハッピーエンドを予感していた。死なずに済む。誰も。
「ところで魔王シャアルラよ。主は戦っておらん。どうじゃ。腹ごなしに一戦」
サルタは聞いていただけで死にそうだった。
「良かろう。よく寝てよく食べ、よく戦うことが健康の第一だ」
最後のは違う。しかしサルタには会話に割り込む度胸はなかった。
まあ良いや。多分、死ぬ前に終わる。ここはシャアルラの好きにさせても大過ない。
「行くぞサルタ」
「・・・・!??」
なんで直接対決におれが!!??
そんな疑問が解消される前に、サルタはシャアルラと一緒にグランダの背に乗り、「ダイナソアの世界」に入っていた。




