表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔界猿雄伝  作者: にわとり・イエーガー
大山鳴動して子供2人。
94/103

魔界対カルナ。2。

 カネは機会をうかがっていた。


 上空から進行方向を確認し、カルナが到着する前に魔獣軍団敷地地下にひそみ、ずっと気配を殺していた。「ご同輩どうはい」と一緒に。


 ヒポリの動きが止まった瞬間、カルナの攻撃の瞬間に不意を突く。それだけを考えていた。


 1人では勝てない。相手が単なる勇者であっても。


 そして相手は最古の勇者。しかもそこから無限の年数を修練に捧げた剣鬼。


 死んでも勝てない。生命を捧げる、そんなロマンスでは絶対に。


ドゴオッ!!


 だからわざと音を立てて地表を破り、厩舎きゅうしゃの屋根を貫いた。


・・・ポト


 勇者に届く前に、その両腕は落ちたが。



「まだ終わらん、か。魔界、魔族というのも、中々の根性だ」


 カルナはただ感心していた。


 ヒポリ一匹の犠牲でこの場は収まる。一応、神位第3位のこの身をそれだけで撤収させられるのであれば、安いはずだが。


 「無償ただ」ではくれぬか。


オ!!


 無論のこと、ヒポリはカネの奇襲に驚いていない。打ち合わせ通りだ。


 2人は今日死ぬ。それだけだ。


ヴォ オ!!


 カネの腕が切り落とされると同時、ヒポリの本気の掌打しょうだが走った。カネへの迎撃を選択したカルナでは、絶対に避けられない。


スパン


 しかし。ヒポリの打ち込んだ右腕は戻す間もなく、中ほどで切断された。


 ヒポリの掌圧は無論、当たらなかった。ちょうど圧力の範囲のみかわされている。


「良い密度だ。グランドキアに勝るとも劣らない」


 カルナは純粋に斬り味を楽しんでいた。


 徐々に興が乗ってきた。


 楽しんでいるカルナには悪いが、ヒポリの顔色はそこまで良くなかった。


 右腕が失くなったことで、四足の加速がもはや不可能。出血はかろうじて止めたが、それだけに意識を集中していては、戦闘状態など到底持続できない。


 汗もかいていないカルナと、まばたきをしている間に右腕を失ったヒポリ。逃げ出したくなるような戦力差だが。


 まだ終わっていない。


トン


 ヒポリは両足に力を込めて、カルナの眼前でステップを踏み始めた。


 あくまで軽く。12トンからの重量が揺れ動いているとはとても思えぬほどに。


ト、ン


 わずかに。ほんのわずかに遅れた。ステップが。


スパ


 今度は左腕が切り裂かれた。


 しかし。


「・・・・」


 カルナは深い笑みを浮かべた。


 意識的にかわされた。


 今ので間違いなく左腕を中ほどで切断するはずだった。しかし斬ったのはわずか長さ10センチ、深さ2センチ足らずの薄肉。


 誘導された。この私が。


トン


 ヒポリのステップは続く。



「・・・」


「・・・」


 己の弱さのあまりに消えてなくなりたかった。


 ギリィらは30秒間の一斉射の後、カルナの死体が存在しないことに気付いた。そして戦場が別の場所に移り、そこでは魔獣カネと獣王ヒポリが己の身命を削って戦っていた。


 割り込めない。ヒポリの戦術が上手くいっている間は。


 割り込む実力がない・・・!!



 痛いことは痛い。だが。


 両の腕を即座に全快させ、即効栄養剤として秘薬カルスと果汁を混ぜた特製ドリンクを一本飲み干したカネは、次なる機会を狙っていた。


 当たり前かも知れないが、相手は地下に潜むこちらを全く警戒していない。その気になれば一瞬で殺せるだろうに。


 ヒポリ様のおまけとしか認識していまい。事実そうなのだが。


 おまけはおまけらしく、狙い続ける。獣王が動く限りは。



「ヒポリ」


 カルナの呼びかけにヒポリは一切応じなかった。気を抜けば死ぬしかないから。


「返事などしなくとも良い。聞け」


 カルナは、なんと聖剣を収めた。


 もちろんヒポリは絶対に動きを止めない。時折リズムを崩して一定の調子にならないようにしながら、ひたすら動き続ける。


「お前は、どこまでも私の想像を超える」


 完全に。絶対的にヒポリを褒める内容でありながら、ヒポリの焦燥感しょうそうかんはこの上なく高まっていた。


 聖剣という絶対的な武器の象徴が消えた。相手戦力の大半が収納されたはずなのに、ヒポリはカルナの脅威を、過去最高に感じていた。


「だから私も最後に賭けたい。・・・もしこれで興味を持ってくれたなら。神位に挑んでくれたなら。次は友として会おう」


 優しく友愛にあふれた発言に、恐怖が背筋を貫いた。


カラン


 カルナは腰に下げていた聖剣を地面に落とし、素手でヒポリに歩み寄った。


・・・・ゴン!!!!!!!


 次の瞬間にはヒポリの肉体は魔獣軍団敷地を真横に1キロメートル吹っ飛んでいた。


 カルナはただ右拳で軽く殴っただけだ。ヒポリには、カルナが自分を殴る瞬間も認識できなかったが。


「分かるかヒポリ。我々の次元でレベルアップすることの意味が」


 ダルス族特有の強固な肉体、骨格をもってして、今の殴打で死ななかったのは奇跡と言い切って良い。それが証拠に、ヒポリの視界はグラつき、殴られた方の頬骨ほおぼねは折れていた。


ポン


 ヒポリがなんとか定まらぬ視界をカルナへ向けると、軽く頭を叩かれた。


ズン!!!!!!


 それだけでヒポリの頭部は地面に2メートルほど埋まった。最も堅い頭蓋骨ずがいこつにもヒビが入った。


「ヒポリ。分かるか。これが人や魔族といった限界値を超えた強さ。お前もこうなれるのだ」


 カルナはわずかに発汗し始めた。軽いランニングほどの力を入れているからだ。平常時の1,15倍ほど息も荒い。


「ガアッ!!!」


 しかしヒポリも黙ってはいない。神位第3位に頭を叩きつけられた直後に、全身のバネで跳ね上がり、突撃した。



 そんなヒポリの動きが全て見えているかのようにその巨体の下に潜り込み、胴体に左手をえ。


ドン!!!!!


 打ち上げた。柔らかくでたようにしか見えない接触で、ヒポリの腹筋は完全に打ち抜かれ、内蔵にも致命的な損傷を負っていた。


「全く魔獣の強靭きょうじんさは、たまらんな。私は殺しても良いつもりで打ったのだぞ」


 上空2キロにまで到達したであろうヒポリに向けて、カルナは感心しきった声を上げた。


 正真正銘、今の掌打に手加減はない。


 それでもヒポリの胴体はバラバラになっていない。


 驚嘆きょうたんすべき頑丈さであった。


「ガハ・・・ア・・・」


 例え、ヒポリ自身が複数の内蔵を破裂させており残り寿命が数分間になっていても。


 キツい。ここまで厳しい状況は生まれて初めて。


 もうすぐ死ぬ。そう分かっていてもなお打開策はない。破れかぶれの策が通じるような相手ではない。


 舐めていたわけではないが・・・。


 ここまで、どうにもならないとは、思っていなかった。


 やはり、舐めていたのだろう。


 神位第4位のグランドキアを倒せた。それで思い上がったか?


「口を開けろ!!」


 ヒポリが走馬灯そうまとうを見ている間に、ギリィ率いる凶鳥エリートらがカルスを口に押し込んでくれた。その間、魔法師団がヒポリの肉体を支えて。


「・・・助かりました」


「おう」


 内臓、失った右腕、ともに復活。無茶苦茶な回復方法で脳が混乱をきたしているが、自意識で無理やり納得させる。


「逃げてください」


「あん?」


 あまり聞こえの良い返答ではなかったが、ギリィはキレなかった。


「私でも勝てません。なんとか相手にしてもらっているだけで、私では勇者カルナに危機感を与えることすら出来ていない。ギリィ。あなた達は魔都に戻り、魔王様を助けてください」


 もう大丈夫、とヒポリは魔法師団に離してもらい、戦場へと落下した。完全なる死地へ。


「・・・戻るか」


 パアルカラッソは無力感をにじませないよう、意思で声色をコントロールしながら、喋った。


「ふざけろ。・・・神族なんぞに好き勝手させるかよ」


「同感だ。が。どうすれば良いのだ。命を投げ出した程度で勝てるような、そんな次元の敵ではないぞ」


 パアルカラッソには、先のカルナがいつ移動したのかすら分からなかった。


 明らかに魔王より強い。


 このままでは盾にもなれない。


「一つだけ策がある。乗るか」


「乗る」


 パアルカラッソは詳細を一切聞かず、即座に乗った。


 例え自爆戦術でも、選択肢があるのなら、そうする。



ゴオッ!


 ヒポリは再び己の体を燃やし、灼熱しゃくねつの装に身を包んだ。赤翼の勢いは最初に劣らない。血衣ちごろもはまだヒポリと共に燃えている。


「フフ。肉体はえても、心までは癒えまい」


ドン!!


 そしてヒポリはカルナの後背に回り、正面に戻り、左右を陣取り、動き続けた。


「それでも、こうまで私に立ち向かえる。お前という男の器量が分かる」


 カルナは明確に酔っていた。


 強い敵、良い戦い。


 生前のカルナが求めた全てがここにある。


ヴァ


 またも砂煙、いや砂嵐がカルナを襲う。ヒポリの姿はかき消えた。


オ!!


 カルナは手加減しなかった。砂嵐を発生と同時に右拳で打ち抜いた。先ほどと同じであれば、ヒポリも死ぬ。


オ オ


 だがヒポリは今度こそ、跳んでいた。カルナの直上に。


 その動きにわずかにカルナはまゆをひそめたが。


 まあ、若いのだし。と思い直した。


ズン


 カルナはヒポリを見上げながら大地を踏み締めた。もちろん、地中から伸びた腕対策である。あんなのが何匹も居たら、うっとうしい。半径1キロ、すなわちカルナが傷付けないと決めたエリア内の地表ほとんどを数百トンの圧力が襲った。もちろん地中に潜んでいる者が居たなら、圧縮されて死んだろう。


 ヒポリの跳躍ちょうやくは間違いなく味方への支援。地中なり背後なりからの攻撃から目を逸らさせるための誘導。


 ダメということもないが。教科書通りすぎる。誰を相手にしているのか、忘れたのか?


 ま、良し。


ギュッ


 カルナは次は掌打ではなく、拳を固めた。ヒポリの背骨を打ち砕くつもりだ。


 楽しみだ。


 カルナは胸をときめかせ、骨を味わいにかかった。



 魔獣カネはここまで戦力差のある相手との立ち会いに、恐怖以外の感情を感じていなかった。いつもの戦争の高揚感こうようかんがない初めての戦い。カネは義務感や責任感のみで戦いに挑んでいた。


 だからこそ覚めた脳みそはいつもより冷徹れいてつに思考し、戦闘への熱中度の低さはそのまま俯瞰ふかんした視線を持つことに成功し、ヒポリの動きの意味を正確以上に捉えきれていた。


 地下深くから腕を伸ばし、アンテナとして地表の動きを探っていたら、主人は跳躍した。勇者カルナの居る位置近くに。


 その意味は。



ヴァン


 ヒポリを迎え撃っていたカルナの周囲に、またしてもギリィの超音波が走った。先ほどは当たらなかったが、今回はカルナは迎撃するつもりでいる。


 逃げるのは矜持きょうじに触る。


ヴァ シイ !


 カルナは固めている右手ではなく、左手で軽く周囲を振り払った。それだけでギリィごと周辺空域を押しのけ、邪魔な騒音を消し飛ばした。


 ギリィは虫けらとさえ思われていなかった。雨露あまつゆぬぐい去るように、凶鳥軍団長は殺されもせず吹き飛ばされただけ。



 だから効く。



フッ


 接近は確かに気付かれなかった。魔法師団のナンバー、100人からの魔族最精鋭が、ギリィの超音波障壁の「かげ」から突っ込んだ。いかにカルナが化け物でも、ギリィの「音の壁」の外の音は拾えない。


 しかし。カルナは自分の意向を優先した。ギリィなどという害虫以下の存在は無視した。


 ゆえに魔法師団が低空飛行で一斉に向かってくるという非常事態を察知できなかった。


 まあ・・・。


 気付く必要もなかった、というのが事実ではある。




 カルナはさらに左手を回し、ゆっくりと周囲に向けて振った。


 それだけで音速を超えた飛行速度の魔法師団全員がふっ飛ばされた。ギリィと同じく、相手にされていなかった。


ドカンッ


 ?


 カルナは覚えのない爆発音に、なんとなく目を向けてみた。先ほどまでは視線すら動かさず迎撃していたのだ。


 そこには必死で圧力を抜けようとし、自爆している魔法師団の姿があった。


 ・・・・何をしているのだ・・・・・・?


 爆発の影響は当然、カルナに及んでいない。届いていないのに、自爆している。


 まるで理解困難な出来事に、カルナは普通に困ってしまった。


 叩いてもいないのに、さっきまで飛んでいた虫がポトリと落ちてしまったような。え?なんで?という気持ちが生じた。


 実際には寿命だったり栄養欠乏だったり、理由はある。無論、今回も。



 カルナの視線が逸れた。それはほんの一瞬だが。その一瞬で、ヒポリは背中に重みを感じた。


 勝機は一度。これで失敗すれば、次のカルナに隙はない。


 今の油断というのかおごりは、純粋なレベル差に起因きいんする。もしそれを埋めることが出来ると判断されれば、今度こそ本気で殺される。


 その前に倒し切る。


「行きますよ、カネ」


「はい!!」


 ヒポリの背中に隠れたカネは、カルナの視界からは絶対に見えない。


 何度も繰り返した戦闘中、カルナはヒポリの背後に回らなかった。圧倒的強者ゆえに。回り込む理由がない。


 隙はある。そして知恵と勇気があれば、突ける。


 どれほどに絶望的な戦力差であろうが、諦めていない魔族は、まだ敗北していなかった。


 そしてどれだけ強かろうと、いまだ一兵たりとも倒しきれていないのがカルナの現実。


 今ならまだ行ける。


 カルナが本気になる前に、行く!!



 周囲で無限に爆発し続けている有象無象うぞうむぞうはさておき、カルナはヒポリの覇気の高まりを感じ取った。そしてわずかな重心のズレから、ヒポリの背中に何かがあるのを見てとった。


 カルナは心の中で、うんうんと頷いた。あそこまでボロボロになってもまだ創意工夫をやめない。涙ぐましいほどの努力だ。


 どいつもこいつも、仲間に欲しい。神族に加わって欲しい。


 だが仕方あるまい。個人の意思は尊重せねばなるまい。



 死ねヒポリ。


 お前を殺した者が誰であるか、皆が覚えている。


 死してなお、お前をたたえる声はむまい。



グッ


 カルナは握り締めていた拳を開き、再度握った。するとそこには聖剣が握られていた。


 神位第3位にとって、剣は取り戻すものではない。呼べば来る。


 そしてカルナにとっては、思い描く前にすでに剣はある。振るべき時に剣はカルナの腕に発現する。


 カルナの領域になれば、剣をさやから抜く行為は、ただの演出でしかない。


 必要なら、手を振った瞬間に剣を現すことも出来る。というか、そのようにして鍛錬たんれんを積む。


 そして現れた聖剣で、ヒポリとその背後に居る者まとめて切り刻む。


 敬意をもって。全力で。



「はあ・・・」


 と。この場に1人・・・一種、場違いなやつが居た。


 やる気はないし、勝てる気もしない。正直、妖樹軍団がフル稼働して毒花粉を全開でき散らしても、多分効かない。妖樹軍団の身体構造では格闘戦も意味をなさない。


 しかし、妖樹ヤルドは全く意味を見い出せない戦いに身を投じる意味を作り出す。


「・・・・世界を支配するのは、魔王でも神族でもない。私だ・・・!」


ドカンッ


 魔法師団の爆発音に乗じ、ヤルドは出せるだけの「本体」全てを地表に出現させる。


「勇者カルナ!私が相手だ!」


 声をかけても一切の有効攻撃手段を持たないヤルドには何も出来ない。


 おとり以外には。


グシャ


 数百体のヤルドが一瞬で殺された。カルナはまるで本気で打ったわけではないが、「地表のヤルド」の肉体構造はスカスカ。数多く作ることを優先したため、水分も密度もまるでない、外殻だけの存在。


 だから魔法師団と同時に叩き潰され。


「バカめ」


 復活した。


 現在のヤルドの肉体は可能な限りの「軽い構成」にしてある。灰にでもならない限り、粉々にしたぐらいでは何度でも復帰可能だ。だから先の圧縮された大地にも耐えた。



 ここで初めてカルナは、周囲の騒音をうるさく感じた。


 脅威になりそうな存在は確認できないが、流石に邪魔だ。


 ヒポリとの接触まで、あと0,3秒。


 しょうがない。我慢するか。


 殺到する敵・・・でもない羽虫をカルナは徹底的に無視した。敵対行動を取られていても、彼らからダメージを与えられることはない。


 次元が違いすぎる。可哀想だが。



 そしてカルナはヒポリだけを見て、絶対的なタイミングで聖剣を振り抜き、かわされた。



ドゴンッ!!!!


 逆にヒポリの一撃がまともに入った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ